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2016年2月 8日 (月)

「裁かれるは善人のみ」:非国映画上等!

160208
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:アレクセイ・セレブリャコフ
ロシア2014年

オスカーは逃したが、昨年度の外国映画賞の多くを獲得したロシア映画。その前作『エレナの惑い』が優れものだったので、本邦公開をひたすら待っておりましたよ

海辺の町で修理工を営む主人公は、若い後妻と息子と共に暮らしているが、彼が自分で建てた家の土地の買い取りについて市ともめている。
軍隊で部下だったモスクワの弁護士に頼んで裁判中だ。妻は正直モスクワへ出て行きたいし、弁護士もそう言ってくれているのに、主人公は頑固に土地にこだわるのだった。
その閉塞感が少しずつきしみ始める。

妻は常に疎外されている。弁護士は夫と戦友で男同士の絆で結ばれているし、義理の息子は若い都会人の彼に憧れている。彼女は家事をやりながら勤務する工場と家を往復するだけだし、反抗期の息子はやたら突っかかってくる。(この息子は彼女の最後の行動のきっかけとなる暴言を吐いたはずなのだが、その後も反省なしだ)

この邦題には嘘があるぞ(!o!) ここには善人など誰一人いない。みな、少しずつ悪く少しずつ愚かで少しずつ弱いのである。友人の警官夫婦も気のいい人物だろうが、結局主人公を追い詰める役を果たしてしまう。妻も後に禍根を残す行為に走る。
どう見ても悪代官な市長でさえ、時折弱気になっては司祭に頼る。唯一、神の威光を背後にしょった司祭のみがブレることなく冷徹である。もちろん、利益は結局彼のところに転がり込んでくるのだ。

市長は警察や判事も抱き込んで主人公への包囲網を狭めてくる--こういう話だといかにも混沌としたロシアでありそうだと思ってしまうが、実際にはこの物語の元となったのは米国で起こった「キルドーザー事件」とのことである。
市側ともめた修理工が外装補強したブルドーザーに乗って警察署や市役所、市長の自宅などをぶっ潰したというのだ(男は最後に自殺)

この映画の中では主人公はブルドーザーに乗ったりはしないが(ブルドーザーは別のところに登場する(>y<;)ウウウ)、権力の前に消えていく。
実際、日本で起こってもおかしくはないような事件だ。

浜辺に打ち捨てられた船の残骸、クジラの巨大な骨、廃墟となった古い聖堂。美しくも荒廃した風景はこの腐敗した社会の象徴か、それとも現代人の心の反映だろうか。
いずれにしろ全てを飲み込む悪の巨獣はもはや海で死に絶え、代わりに別の悪が陸の上で繁栄しているようである。
そんな状況をシビアに描いている。

登場する男たちがウォッカ飲みまくっているのには驚いた。これこそさすがロシアとしか言いようがない。
別の意味で驚いたのは浮気事案。亭主がすぐそばにいるのにようやるよ(~_~;)である。もっとも『ヒトラー暗殺、13分の誤算』でも、すぐ目の前を亭主がウロチョロしているのに浮気してる場面が出てくる。危険がある方が燃えるというヤツか。小心者には到底できません。

『エレナの惑い』でもボンクラ息子を演じていた役者さん(アレクセイ・ロズィンという人)が、こちらでもボンクラ亭主を立派に演じていた。さすがである。
また、弁護士役の男優と後妻役(『エレナ』で娘だったエレナ・リャドワ)がこの出演がきっかけで結婚したとか。メデタイヽ(^o^)丿

なお、この作品でズビャギンツェフ監督は政府から「反愛国的」と非難され、公開禁止映画リストに入れられてしまったという。
ストーリーもさることながら、さらに問題シーン(^o^)があったせいだと思われる。それは、主人公と友人たちがウォッカをたらふく飲みながら、歴代の大統領(スターリンもいたか?)の肖像画を標的にして銃を撃ちまくるのだ。ただ、プーチン(とおぼしき肖像)だけは「これはまだ熟成させなくてはな、ククク(^<^)」と、取っておくのだった。代わりに、悪徳市長の部屋の背後にはプーチンの写真がしっかり飾ってあるけど。

「ロシアでよくこんな政府批判した映画が撮れたものだ」という意見を幾つか見かけたが、冗談ではない。今の日本で歴代首相の写真をダーツの的にして遊び、アベ首相の写真だけ「これはもっと後のお楽しみ」なんて映画が撮れるかね? 他所の国の事を言ってる場合じゃないよ。


善人度:3点
悪人度:9点

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