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2016年3月26日 (土)

「黄金のアデーレ 名画の帰還」:名画の魂、百億円までも

160326
監督:サイモン・カーティス
出演:ヘレン・ミレン
米国・イギリス2015年

主人公がヘレン・ミレン以外に考えられないというぐらいハマリ役で、彼女が表看板となって支えている。
彼女が演じるのはクリムトの有名な絵画のモデルとなった女性の姪で、たまたまシェーンベルクの孫である若い弁護士と知り合い、接収しているオーストリア政府を訴えて絵を取り戻そうとする。これは実際にあった裁判とのこと。

ナチスがオーストリアを占領した時に、裕福なユダヤ人の財産を没収。その中には絵画など芸術作品もあった。彼女の家族の若い世代は米国に逃げたので、クリムトの絵は終戦後もそのままになっていた。主人公の姉が訴えていたのを、1998年、没後に引き継いだという次第である。

もっとも、個人が国を訴えるのだから困難を極める。そもそも米国とは法律も違う。
てっきり裁判の話が中心なのかと思っていたら、回想で彼女が若い頃に夫と国境を命からがら越える逃避行などハラドキなサスペンス・シーンもあった。
また、大戦前の優雅かつ豪奢なウィーンの生活の描写もあれば、それが段々ときな臭い時代へと突入していく歴史物の要素もある。特に一般市民が、通りがかりのユダヤ教徒のヒゲを切り落とす、といったような日常的な差別の場面は、これまであまり見たことがなかったので驚いた。

というような様々な要素がうまくつながっていて、見ごたえあり
後日談として、折角勝ち取った絵をギャラリーに売ったという話が字幕で出てきて、絵にこだわっていたのにあっさり他人に渡しちゃうの(?_?)的な疑問が浮かぶが、細かいことは気にしないのが吉であろう。
あと、弁護士の奥さんが物分りよすぎ。そこら辺の心理描写はなかったようだ。

現実と回想が溶け合うラストは極めて美しく感動的である。思わず泣いちゃった(;_;)ですよ。

ところで最近増えているように思えるのが、当時のドイツ人や占領下の人々でもナチスと闘ってユダヤ人排斥に反対した、という内容の映画である。しかしこちらの作品は、いやいやそんなことでは帳消しにはされんぞ、というようなユダヤ側からの釘差しでもあるのでは--と内容の評価とは別に思えたのだった。

見終わって、H・ミレンはもはや怖いものなし……と誰しも感じるだろう。弁護士役のライアン・レイノルズは「あの作曲家の孫」には思えぬあか抜けなさがプラスになったか。ダニエル・ブリュールは出番少ないがお得な役どころだった。


黄金度:8点
裁判度:6点


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