「バラカ」
読むだけで消耗してしまう小説である。マイッタ(@_@;)
大震災の後、原発4基が全て爆発し、首都は東京から大阪へ移転している。住民が避難した群馬県某市でボランティアが一人残された幼女を発見する。「バラカ」とは彼女が喋った唯一の言葉だ。
その少女をめぐって、震災前そして後も、様々な人の思惑やら事件やらが渦巻いていく。カネ、宗教、家族、愛欲……
登場する人物のほとんどはろくでもないヤツばかりだ。悪意の塊のような人物も現れる(某事件を想起)。原発派も反原発派も彼女を利用することしか考えていない。しかも人間がどんどん消えていく。
読んでて暗澹としてくるのは仕方ない。神も仏もないとはこのことだ。
そして、何やら背後にうごめく陰謀めいたもの。それも明確に姿を見せないまま消えていく。漠とした不安と恐怖……それは震災後に頭上を覆うものを象徴しているように思えた。ドス黒い流れのような何か。
この小説の連載が始まったのはなんと2011年の8月である(構想自体は震災より前からとのこと)。ならば書き始めた時にはまだ原発全部爆発というような事態になる可能性も生々しかったはずだ。作者はよく書いたもんである。オリンピックについての批判も厳しい。
それだけに結末には、いささか気が抜けたような気分になった。だが、ここは素直に近所のオバサン目線で「幸せになってよかったね」と言っておこう。
それと、終盤の「なぜなら、私たちは何も法律を犯していません。(中略)だから、私たちが彼らを助けないで、誰が助けるのでしょう」というセリフの力強さには心動かされたですよ。
決して好きだとは言い難い小説だが、今の日本の暗部を確実に描いていると言えるだろう。
ただ、とある人物の最後の死は理由が分からなかった。後で何か説明が出てくるのかと期待していたが結局何もなかったし。そういう人間だから、では納得できん。
それにしても「きれいな服を着せて可愛がりたい」というような理由で養子を貰おうとする人間が現実にいるのだろうか。いないことを願う。金魚でも飼ってろと言いたい。
カバーの写真は森山大道の作品。強烈である。
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