「ヴィオレット ある作家の肖像」:文系姐御
監督:マルタン・プロヴォ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス
フランス2013年
『セラフィーヌの庭』は女性芸術家の伝記としてはかなり画期的で、影響を受けた作品も幾つかあったようだ。私も後からケーブルTVで見て、ロードショーで敬遠してしまったのを後悔したもんである。
その監督の新作は、今度はヴィオレット・ルデュックという女性作家の半生を描いたものだ。フランス文学に疎い人間としては全く名前も聞いたことがない。
20世紀初頭に生まれ、自分を疎み男関係が派手な母親を憎悪し、バイセクシュアル。大戦中は闇屋をやって稼いでいたが、ゲイの作家に小説を書くことを勧められて文学の道に。そしてボーヴォワールを読んで心酔して、ストーカーという程ではないがしつこく接近する。
ボーヴォワールの後押しもあって小説を出版するが、書店では冷たい扱い。寄宿学校での同性愛体験などを赤裸々に描いた作品で、同時代のジャン・ジュネは人気があるのに、同じような表現を書いても女性作家には検閲が厳しいのであった。
一方で、ジュネやゲラン(香水会社の)と「貧民出身の私生児3人組」としてつるんで遊び、素人映画を作ったりしてる場面も描かれる。
ヒロインは神経質で、別な所では無神経で、やけっぱち気味な行動にすぐ走る。そんな押しかけファンの彼女に対して、冷静に付き合い、才能を認め陰から支援してきたボーヴォワールはかなりな「大人」といえるだろう。
「私が醜いからキライなんでしょ(>O<)」と泣きわめくヒロインに、「私は外見なんか気にしないの!」と断固言い切る彼女は後にサルトルと同棲してその言葉を証明した。「美人なのに、なんであんな醜い男とくっついたかねえ」とはヴィオレットの母の野次馬的感想だが、当時のパリ市民の正直な意見だろうか。(サルトルは作中に登場しない)
ジュネは「所詮インテリ女さ」と軽く切り捨てるが、この映画におけるボーヴォワールはカッコ良くて、超がつく姉御としか言いようがない。フュリオサが体育会系姉御なら、こちらは文科系姉御であろう。
お、お姉さまと呼んでエエですか~(#^o^#)ポッ
でも、お姉さまの著作一つも読んだことないんですけど_| ̄|○ 許して
後年、心身共に不安定な状況から回復し、伴侶を得て、母と和解し、小説も高く評価され、自然に満ちた環境の中で執筆する彼女の半生は、そのままフランスでの女性の地位の上昇と重ね合わせられているようである。フランスはその点で先進国だと思い込んでたのだが、1960年代になっても女性には相続権がなかったというのはビックリだ。
ただ欠点は、ラストが『セラフィーヌ』の光景とちょっとかぶっていること。も少し何とかしてほしかった。
それ以外は、衣装やセットなど見事で、映像による心理描写も巧みだった。女優二人の演技も見ごたえがある。
とはいえ、公開期間の最初の時期に行ったけど客は少なかった。これを最初から期間を決めて上映する岩波ホールはエライ。古いとかスクリーンが見にくいとか客が年寄りばかりだなどと文句を言ったりはもうしません(^_^;)
それにしても、自分の体験を赤裸々に書いていく小説家ってどうなんだろう。そのうち書くことなくなっちゃうんでは(?_?)と余計な心配をしてしまうが。
姉御度:10点
妹度:7点
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