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2016年11月20日 (日)

「転落の街」上・下

161120
著者:マイクル・コナリー
講談社文庫2016年

ロス市警の刑事ハリー・ボッシュのシリーズ。邦訳としては15作目ぐらいになるか? 訳者あとがきで「香港で派手なドンパチを繰り広げた前作とは打って変わり」と書かれているように、『ナイン・ドラゴンズ』では主人公は誘拐された娘を救うためにチャイニーズ・マフィア相手に異国で暴れまくったのであった(^_^メ)

しかし、今回は以前の地道な警察小説路線に復帰。(もっとも、さらに前のシリーズの初期はハードボイルド色が強かったが)
殺人課未解決事件班(いわゆる「コールドケース」捜査)として、新たなDNA鑑定によって過去の事件の関係者として浮上した人物を担当することになる。

一方、かつての上司で今は市議会議員のアーヴィングからご指名を受けて、管轄外の転落事件を捜査する羽目になるのだった。
シリーズ初期はかなり以前に読んだきりなのでうろ覚えだが、アーヴィングはボッシュの宿敵であり、さらに自分の父親ではないかと疑ったこともあったという複雑な関係なのである。
議員は今では警察批判の急先鋒になっていて、こちらの事件の結果如何によっては大騒動になりかねない。

二つの事件が最初無関係に見えたのが、物語が進むにつれてその関連が明らかになる--というのはよくあるパターンだが、本作では主人公が同時に担当しているという以外に共通点がないままに進む。これは関係ないまま終わるのか、と思ったところであっと驚く展開になるのだった。こいつはやられました(!o!)

その背後には警察内部の権力争いや過去の因縁などが潜む。決して表面には現れることのない組織内の力学であり、駆け引きである。警察という組織が本来掲げる「正義」とか「規範」というものを完全に反するのだ。

以前、やはり警察組織の勢力争いを描いた日本のミステリを数冊読んだが、正直「組織内の抗争を描くのが主で、事件はそのための道具に過ぎないんじゃ?」と思ったものだ。早い話が、これが警察でなくて広告代理店が舞台で「クライアントが第一じゃないのか~annoy」と叫ぶ、みたいな内容でも全く変わらない。

本作では事件と権力抗争は表裏一体となっている。抗争は事件の陰に隠れて定かには見えない。しかし明らかに存在している。主人公はその渦中にいるはずなのだが、何が起こっているかも分からないのだ。
それが最後になって噴出してくる。事件を利用するなどというのは、犯罪被害者や遺族の益を一義に考えるボッシュにとっては我慢のならないことである。

この状態は二匹のヘビが互いに尻尾を食い合っているようなもので、彼は選択を迫られるが、実はどちらを選んでもうまくは行かないだろう。決然と自分の道を選んでも、絶望感が覆い尽くす。
混沌とした状況を二重構造で描き出すコナリーの手腕を見ると、申し訳ないが前述の日本の警察小説は児戯に等しいとさえ感じてしまった。

それにしても、彼ととある人物の決別は読んでて苦しいtyphoon 二人の道は完全に分かれたのである。

次作では彼がどのような状況になっているのか、早く知りたい。定年延長問題はあのままか。日本でも刊行が決まっているようなので、翻訳早くお願いします(^人^)


ところで、高校生の娘がショッピングモールに友人と遊びに行くのに、主人公が警備の状況まで細かくチェックするのは驚いた。確かに銃犯罪とか誘拐とか心配だろうけど……。
日本だと、小学生同士でもウロウロしているもんなー。

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