「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス_さざめく亡霊たち」:生存と滅亡の証
ボルタンスキーの作品というと、小さなものを断片的に展示されているのを見た記憶しかない。展覧会を東京でやる(!o!)というならば万難を排して見に行かずばなるまいよ--というわけで、土日は混んでいるかもしれないから平日に行ったのだった。
会場は重要文化財となっている旧朝香宮邸である都の庭園美術館で、「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」も同時開催となっている。
……というか、そもそもこの二つは同時に併せて見るようになっているのだ。
1階に「展示」されているボルタンスキーのインスタレーションは完全に音声によるもので、複数の男女によるセリフが流れてくる。それは過去にこの邸宅に住んでいた裕福な一族の盛衰を語っているようである。
観覧者はその声の断片を聞きながら、美しいアールデコ様式の食堂や客間を眺めるという趣向だ。食堂の中央にはかつて実際に使われていたらしい大きなテーブルとビロードの椅子が置かれていた。
黄金色のビロードを思わずさわりたくなったが、監視員さんの鋭い視線が……と、ちゃんと「触らないでください」マークがついていたのであった。危なかった(^O^;)
豪奢な邸宅と音声インスタレーションの組合せはアイデアの勝利みたいな感がある。
問題は音声のクオリティがあまりよくないこと。セリフは訓練を受けた役者(かな?)が喋っているので、よく聞き取れるが明晰過ぎて逆に嘘っぽい。
しかも声の方向はほとんど上から降ってくるとハッキリわかるので、見上げると小スピーカーの存在が分かるのも興ざめだ。(一部は床に設置)
幾つかのフレーズを繰り返して流しているのだから、もっとスピーカーの設置場所を色んな所にしてみたり、音声も聞き取れないぐらいの音量のも混ぜるとかすれば、声の亡霊が浮遊している感じになったかもしれない。
まあ、文化財のお屋敷だから余り手を加えられないだろうけど--。
写真を撮っている人が多数。なんと平日は自由に撮影できるそうで、シャッター音が結構うるさい。中にはダンナはデジカメ、奥さんはスマホで撮っているという夫婦連れもいた
土日曜は人が多いだろうし平日はシャッター音というのでは、快適な作品鑑賞はやや難しいかも。
2階の二つの小部屋には、小さな紙人形やおもちゃに光を当てて影絵のように投影した「影の劇場」があった。彼の代表的作品とも言えるものだ。片方の部屋の人形は首つりをしていた(^^;)
四角い穴から暗い部屋の中を覗きこむと、ひんやりした空気が顔に当たる。中の様子はクモが巣を張るように悪霊たちが安住の場所を見つけたように見えた。
細長い小部屋である書庫では、香川県豊島で保存されている心臓音のサンプリングが。たまにテンポがずれるところがあって、聞いてて不安になる。
その後は残りの部屋を見て回って、新設されてた新館へ向かう。
こちらでは4種の巨大インスタレーションが展開されていた。何枚もの半透明カーテンが連ねられた中を歩く「眼差し」は、絵本「きりのなかのサーカス」を思い起こさせる。(絵本はトレーシングペーパーを使用したもの)
そのカーテンの真ん中には持ち主不明の大量の衣服の山を、金色のエマージェンシー・ジャケットで包んだ「帰郷」が展示されている。しかし、事前に解説を読んでいない人間には巨大なウ×コの山にしか見えないのが大いなる難点であった
隣の部屋ではワラが敷き詰められた部屋の中央に巨大な両面スクリーンに、チリのアタカマ砂漠と香川県豊島の森の中に、それぞれ吊るされた日本製の多数の風鈴の映像が映し出されている(十数分でループ)。
大切な人の名前を短冊に書いて風鈴をつるすという豊島の企画は今でも続いているそうだ。短冊がキラキラ光って瑞々しい森の風景とは対照的に、荒涼とした砂漠の風鈴はそのまま放置するように依頼してきたので、今ではほとんど残っていないだろうとのこと。
この話は、一室でボルタンスキーのインタビュー映像をやっていたので、それで知った。しかし、このように意図を聞かないとよく分からないというのは現代アートにはよくあるとはいえ、なんだかなあという気がした。もっとも、彼の話自体は興味深いものであったが。
見たことはなくてもそのようなものが存在する、ということを知っているだけでも意義はある、というのだ。
2019年に国新美で大々的な回顧展が開かれるということで、その露払い的な意味もある展覧会であった。まあ、内容がショボいという意見もあるが、会場の旧朝香邸との組合せによって一見の価値はあったと思う。
2019年に期待することにしよう。
ただ、広げるとA2判の無料ガイドはいただけなかった。デカ過ぎだし、灰色の紙を使用しているので薄暗い場所ではよく見えない。老眼やド近眼の人間の事も考えて欲しい。
【関連リンク】
《はろるど》:写真多数あり。
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