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2017年1月 4日 (水)

「ティエリー・トグルドーの憂鬱」:情に棹さし意地を通して地に働けず

170104
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:ヴァンサン・ランドン
フランス2015年

失業した中年エンジニアが主人公。邦題の通り見ているとウツになってくるような内容だ。

前半は職探しをする過程が描かれる。時間を費やして資格を取ったが役に立たず、就職セミナーでは自分の子どもぐらいに若い参加者から叩かれる。歳を食っていると融通も利かず、身につまされる(ーー;)
だが、一人息子には障害がありふさわしい学校にやるには金が必要だ。トレーラーハウスを売ろうとするが、見に来た男とはケンカしてしまう。

後半は、これまでのキャリアとは全く無縁なスーパーの監視員になっている。万引きをする貧しい老人、細工して小金を稼ごうとする店員などが出現して、さらに主人公と映画の観客をウツに陥れるのだった。

全体の作りは全くもって劇的ではない。感動させようとか泣かせようとする要素は一切ない。肝心の場面をすっ飛ばして描かない手法(スーパーに就職する過程とか、万引きを発見する場面など)を取り、主人公の顔の表情を見せずに背後から延々と撮る。音楽も付かず、かなりドキュメンタリーぽい作りになっている。

これがフランス本国では大ヒットしたというから驚きである。日本同様閉塞的な社会状況なのだろうか。ただ、日本で同じ内容の映画が作られてもヒットはしないだろうが……。

この映画は『サンドラの週末』に極めてよく似ていると思った。職を確保するために必死に色々な場所へ出かけて回る。結末で主人公が取る行動までほとんど同じと言っていい。
だが、希望と生を強く感じさせた『サンドラ』とは、向いている方向は全く逆である。どうしてこうなってしまうのだろうか。

陰々滅滅な気分の中で、「これからどーすんの~っ」と主人公の背中に向けて叫びたくなったのは私だけではあるまい。
それでもずっと画面を見ていられるのは主役のヴァンサン・ランドンの演技のたまものだろう。さすがカンヌで男優賞を獲得しただけはある。

ただ正直、主人公の反応はナイーヴ過ぎると感じた。万引き老人の訴えに彼は動揺するが、いざとなれば人間あのぐらいの嘘は堂々とつくだろう。老人は実際には家に小金を貯めこんでいるかもしれないのだ--とか思っちゃったですよ。


全く関係ない話だが、私の隣には若いカップルが座っていた。全くもってデートにはふさわしくないこの映画をどうして選んだのか、そして二人のうちどちらが選んだのか、など聞きたくなってしまったがじっとガマンしたのであった。

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