「歌声にのった少年」:ビザはなくとも歌えば英雄
監督:ハニ・アブ・アサド
出演:タウフィーク・バルホーム、カイス・アタッラー、
パレスチナ2015年
2013年にエジプトのTV番組「アラブ・アイドル」(中東版「アメリカン・アイドル」)で、優勝して一躍ヒーローとなったのが、ガザ出身のパレスチナ青年ムハンマド・アッサーフ。彼の生い立ちを映画化したものである。事実80%、フィクション20%とのことで、かなり実話率は高い。
なんでこれを見に行く気になったかというと、監督を『オマールの壁』のハニ・アブ・アサドが担当しているからだ。
子ども時代、活発で頭が良くてガキ大将の姉と共にバンドを始める。婚礼などのイベントで演奏しながら日銭を稼ぐも、なんと姉が突然病気で亡くなってしまう。
一度は音楽をあきらめかけるが、成長してタクシー運転手をやりながら歌手を目指すのであった。
スカイプでオーディション番組に参加するも電力事情が悪くて停電で中断--なんて笑っちゃいかんが笑ってしまう。
意を決してビザを偽造してエジプトへ行き「アラブ・アイドル」に参加しようとするが、なんとチケット(応募券&整理券みたいな感じか)がないと入れなかった さあどーするよ。
……と、完全に立身出世物語のフォーマットを取っている。監督の過去作とは違って、のんびりとした演出・編集だ。依頼を受けて作ったんで作風も変えたということか。
実際にガザ出身の子どもを起用した子役たちは元気いっぱいで、見ているとこちらも活力を貰えるようだ。一方で、主人公が青年になってからのガザの撮影は当地にロケしたそうだが、ガレキだらけの街の光景に言葉を失う。
そんな状態だから主人公が優勝したというのは、パレスチナを鼓舞してエライ騒ぎになったらしい。
なぜか最後のステージ場面で、それまで俳優が演じていたのが突然ご本人にすり替わって登場(!o!) さらにものすごく熱狂する市民の姿も、実際にその時撮影された映像が使われているのだった。
感動的ではあるが、ここで当然疑問が浮かぶ。
最後にご本人がすり替わって登場するなら、むしろ最初から実物のムハンマド君を主役にして撮ればよかったんじゃないの(^^?)
ところが、本人はオーディションを受けたが合格しなかったらしい--ということはよほど演技が下手だったのかね。(劇中の歌も本人の吹替えではない)
ちょっと、このラストはビックリしてしまった。
伝記ものよりもアラブ歌謡愛好者に推奨。途中で歌われている歌の歌詞には字幕付けて欲しかった。当然、その場面に合わせて選曲されているはずだろうに。手抜きであるよ。
子ども時代にパーティーでバンド演奏している場面で、男たちは乱闘寸前みたいに歌って踊り狂っているのに、ヘジャブ姿の女たちはじっと片隅に座って無表情で聞いている光景が何度も出てきて、なんだか強く印象に残った。
ところで、公開に合わせた監督のインタビューを読んだら、なんと『オマールの壁』はまだ資金が回収できていないとのこと。
えーどうしてじゃっ(~_~メ) あんなに出来がいいのに~。
監督によると、どこでも客が入るのはハリウッド・エンタテインメントのような娯楽大作で、アート系劇場で公開されるような作品は採算が取れないらしい。寂しい話である。
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