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2017年2月

2017年2月25日 (土)

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」:安全でも楽じゃない

監督:ギャヴィン・フッド
出演:ヘレン・ミレン
イギリス2015年

ケニアにいるイスラム過激派(イギリス国籍)のテロリストを捕えるために、イギリスが主導して米国、現地政府軍と共同作戦を立てる。
現地以外はすべてそれぞれ自国から指令を下し、無人戦闘機で遠隔操作の爆撃を行うというものだ。

舞台は四つに分かれる。ヘレン・ミレン扮する大佐が自宅から出勤して計画を遂行する英国の基地、それを見守るアラン・リックマンの国防相と政治家たちがいるロンドン、そしてドローンを操作するネバダの米軍基地、現地の工作員がいるナイロビだ。
離れてはいても、ネットでつながり情報を共有し、同時進行する。

小規模なピンポイント爆撃で捕獲するという計画だったのが、状況が急に変わり、大爆発で殺害してしまう上に近隣住民の少女を巻き込まざるを得なくなるという事態に。
だが、このまま放置すれば自爆テロを起こして民間人の犠牲者が多数出る……という二律背反状態である。さあ、どうする(!o!)

単純に被害者の数を比較すれば、自爆テロを防ぐという結論になるが、政治的には民間人の少女を事前に分かっていながら見殺しにすれば、国民から非難轟々となるので躊躇する。
もっとも、これは政治というよりは人間の心証の問題だろう。

ということで今度は英国政府側がてんやわんや。国内の閣僚はもとより、一緒にいる米国籍の人間も殺害してもいいか米国側の承認を得なければならない。
米国側がいかにも「当然だろ」みたいに簡単にOKしちゃう様子は、ちと英国流のイヤミを感じたけど、うがちすぎかしらん)^o^(

なんとか強引に計画を実行したい大佐、少女の姿を間近に(映像で)見て動揺する米軍の兵士、議論が紛糾する国防相と政治家たち、敵陣で危ない橋を渡らざるを得ない現地エージェント……四つ巴の様相である。
どう決着をつけるのかドキドキしてしまう。

結局のところ、少女のことを一番考えて行動したのは現地の人間だった。他所の人間ではない。なんと武装派グループの人間さえ、助けを求められるとジープの銃座から機関銃を外して怪我人を病院へ運ぶのである。(この場面は意表をついていた)

ドローン操作担当の兵士の消耗振りも印象に残る。最近報道されたニュースで知ったのだが、実際この操縦者は離職希望が多いそうで、引き留めるために報酬を増額したのだとか
離職の理由は、戦場ではないこちら側の日常との落差が激しいことと、被害の状況が手に取るように鮮明に見えてしまうからだそうだ。遠隔操作なのがかえってストレスらしい。

「TVゲームのよう」という形容が付く現代の新しい戦争の様相を、手堅い俳優たちを使って地に足ついたものとしてうまく描いていると言えよう。
ヘレン・ミレンの大佐はカッコエエけどコワ過ぎです(>y<;) アラン・リックマンは映像として姿を見せているものとしては遺作になるらしい。
監督のギャヴィン・フッドは『ツォツィ』を取って評判になった人だが、その後ハリウッドで監督した『ウルヴァリン』『エンダーのゲーム」』は全くパッとしないもんだった。ようやく本領発揮か。

ところで、アラン・リックマンの国防相が対立した政治家に最後に「私は地雷でやられた仲間の兵士の死体を拾い集めた。軍人にそういうこと(遠方から論議しているだけ)を言ってはいけない」というような意味のことを述べる。これが他の感想を見ると、結構共感を得ているようだった。
だが、上には上がいるものだ。『ハウス・オブ・カード』という政治ものTVドラマでは大統領夫人が同じようなことを言われてこう切り返すのである。「なによ、あなたなんて誰かに命令されて立っていただけじゃないの。私の夫は毎朝、必死で大きな決断を下しているのよ」だそうだ。

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2017年2月18日 (土)

「愛のかけら」:バレンタインにカンタータの贈り物

170218
演奏:アンサンブル・レ・フィギュール
会場:近江楽堂
2017年2月14日

パリ在住の若手日本人演奏家4人によるグループの公演。これで3回目である。過去の感想はこちらこちら

過去の2回はソプラノの高橋美千子と共演だったが、今回は本場フランスの若手のカウンターテナー、ポール=アントワーヌ・ベノス・ディアンが登場である。
声質はどちらかというと、あまりキンキンしてなくて女声のコントラルトっぽい印象を受けた。

カンタータは前半がN・ベルニエという作曲家で後半がクレランボーを取り上げた。どちらも内容は神話を元にしている。
それぞれ冒頭に器楽曲とエール・ド・クールも演奏された。

クレランボーについては、以前の公演ではオルフェウスの物語を素材にしていたが、今回の「ピュラモスとティスベ」は題名を聞けば分かるように、「夏の夜の夢」に登場する職人たちの劇中劇と同じ話である。

ガンバ(原澄子)が極めて写実的(ライオンに襲われるところとか)な音を出すところが面白かった。また、榎田摩耶のヴァイオリンが強力な磁場を発するような演奏で、日本人でこんな剛腕なタイプの人は珍しいなと思った。

この冒頭にはクープランのチェンバロ独奏曲(こちらは細くてヒョロ~っと背が高いところがが日本人離れしている曾田賢寿)から、スーッとガンバが入ってランベールの曲が始まり、近江楽堂の響きが神秘的なイメージを醸し出す。
さらにフルートの石橋輝樹が横から現われ、榎田女史は客席の背後から演奏するなど工夫が凝らされていた。
楽譜台から楽譜が落下というアクシデントがあったけど気にしない(^o^)丿
フランス趣味の精髄にひたれたひと時であったよ

この日もまた、通常の古楽系演奏会と違って若くてオシャレな女性の客が多かった。ちなみに私はヤボなオバハンであーる<`ヘ´>(宣言してどうする
次回の公演も楽しみにしております。

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2017年2月12日 (日)

「ヒトラーの忘れもの」:君よ知るや地雷の国

170212
監督:マーチン・サントフリート
出演:ローランド・ムーラー
デンマーク・ドイツ2015年

第二次大戦終了時、デンマークから敗走するドイツ軍が220万個もの大量の地雷を埋めていったという史実を元にしている。この数は他のヨーロッパの国よりも桁外れに多かったそうだ。
そして、その地雷の除去作業を捕虜となったドイツ軍の少年兵にやらせたというのもまた実際に起こったこと。当然、ジュネーブ条約違反だ。その事実を知る人はデンマーク国内でも少なかったという。

とある海岸で4万個の地雷除去を命じられた数十名の少年たち、その監督に現われたのはドイツを憎む中年の鬼軍曹だった。食料も少なく爆死者も出る中で少年たちは故郷に帰りたい一心で砂の中を這いずり回る。

誠に不条理かつ殺伐としている。観客がふっと力を抜いた瞬間を見透かすように起こる爆発 いつ起こるか、次に誰がやられるのかとドキドキしてしまい、安心して見てもいられない(>_<)
それでも作業は続けなければならぬ。終了すれば故郷へ帰れるのだから。
軍本部の少年兵いびりも情け容赦ない。--といっても、少し前までは敵軍の兵士だったのだから致し方ないとはいえる。

一方で、軍曹は専門家が来るのかと思っていたら、素人の少年兵が来たんで内心とまどっている。その憎悪と優しさの間を揺れ動く演技が非常にうまい。

また舞台となっている海岸や草原が荒れて果ててはいるが美しい。その風景に比例するように、感情を表に押し出すのではなく、悲惨な話ではあるが全体にアッサリ味で描いている。
音楽も大仰なオーケストレーションを使わずにシンプルな音数の少ないものだ。

さて、ラストはそれまでの光景とは全く正反対の場面が現れる。色彩にあふれ、人物はこれまでにはなかった全く異なる行動を取る。

しかし果たしてこんな結末が可能なのだろうか。主人公の軍曹にそんなことができるとは思えないし、できたとしても彼がその後に無事ではいられないだろう。むしろ、これは主人公の幻想ではないかとさえ思えてしまう。

いや、それよりもこれはデンマーク人である監督(脚本も兼ねる)がこうであったらよかったのに、という願望を込めた場面だったのではないか。そんな風にさえ見えた。
思わず涙が出た(v_v)

それにしても自国の隠された黒歴史を堂々と描く精神には感服であるm(__)m
唯一の難点は邦題だろう。「忘れもの」というホンワカ感が内容に全くそぐわない。

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2017年2月 6日 (月)

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」:今度こそ私は誓う!

170205
監督:ギャレス・エドワーズ
出演:フェリシティ・ジョーンズ
米国2016年

『スター・ウォーズえぴ7』は本当にあきれて、もう二度とSWシリーズは見ねえと心に誓ったほどだった。
それなのに、なぜこのシリーズの新作(番外編?)に行ってしまったかというと、初めて目にした予告が面白そうだったからである。

設定は「えぴ4」直前で、お懐かしやモン・モスマが復活(!o!) そしてフェリシティ・ジョーンズの不良娘っ子に対し罪状を読み上げ、協力を迫るのだ。「ん?もしかしてSF版『特攻大作戦』みたいなのかしらん」と急に見てみたくなったのである。

その後、撮影途中で監督が降板同然の扱いになったなどとウワサが流れてきたが、まあ気にしないで行ってみよう。
しかし……(ーー;)


  ★警告  注意  警告  注意★

以下は本作を熱愛する人には耐えがたい文章が続いています。
避けることをお勧めします(^o^)丿
万が一読んで怒っても自己責任でお願いします。
また、ネタバレがあります。


結論から言えば、
死なせればいいってもんじゃねえぞ(`´メ)ゴルァ」
ということである。

しかし、それより前からおかしなところ、つじつまの合わぬ部分が多数出現。見終わって「そういや、あれは変だったな」と気付くぐらいならいいけど、見ている最中に「え、これおかしくね?」と思ってしまう案件が連続してはいかんともし難い。

例えば、冒頭マツミケ扮する科学者が妻と幼い娘を逃すが、その後でなぜか妻は荒野に娘を置き去りにして戻っちゃう。
ここで早くも第一の疑問--えーと(-_-;)、両親揃っていなくなっちゃったら娘の養育はどうするんですか? いくら友人を呼んだからといって見つからなかったら荒野で飢え死に?(→物語終了)
娘を放り出してまで戻る、なんてことするのは襲来した将校と過去によほどの因縁があったに違いない……てことは三角関係かなどと余計なことまで考えちまったい(~_~メ)

あろうことか、F・ウィテカーの友人は反帝国軍勢力の中でも過激なテロ集団のリーダーで、成長したヒロインは十代で立派なテロリストに育てられ、テロ行為を行なっていたらしい。お母さん、いい加減な友人を頼ってはいけません。

そういや、そのテログループにとっ捕まった情報屋のパイロット、タコ型生物に自白させられてその後「ふぬけ」になると言われたのに、すぐ正気に戻っちゃったのはおかしくないか。脚本改変部分なのかね(?_?)

反乱軍側の将校が科学者の暗殺を密かに命令するのも変。理由がよく分からない。協力するというんだから生かしとけば、さらに情報を得られるじゃないの。こんなに殺したがるということは過去によほどの因縁があったとしか考えられない……さては三角関係か

後半のアクションや戦闘場面はいいけど、とにかく登場人物の行動の論理や感情の流れがメチャクチャ。過去に三角関係があったとでも自らを納得させなければ見ていられないのである!

だが終盤となるとアクション場面でも激しく疑問が突出する。そう、極めつけ「データの塔」であるよ(>O<)

やたら高い場所で格闘してハラハラドキドキというのは、近年「キャプテン・アメリカ」のシリーズなどで流行っているような……(^^?) 今さらながらの感がある。そして、探し求める重要な設計図が入っているメディアがなんとVHS--とまでは言わないが、今は無きベータ方式ビデオテープぐらいの大きさと厚さの物体に入っている、というのはどういうこったい
しかも同じような物体が積み重なって塔を成している(どこかのヲタク部屋か?)。それも一発検索できなくて、タイトル順にリストを辿るしか探しようがないっていうのは……(@_@;)
こりゃ何かの冗談ですかい。見た瞬間に目が点になって、悪いが失笑してしまった。

日ごろ、紙の本の愛好者や音楽をCDで聞く者を「いつまでモノにこだわっているつもりか」などとクサしている人は、この帝国軍の時代遅れなデータ保存法を見たら当然のことながら「ププッ(^'^)遅れている。前世紀ならぬ前銀河の遺物」と嘲笑するであろう。

まあ確かに奪い合いでアクション・シーンやるなら、ある程度の大きさの物体が必要なのは理解できるけどね。これがUSB、どころかマイクロSDカードだったら鼻息で吹っ飛んじまうわな。

一方、戦闘シーンは迫力はあるものの、昔の戦争映画そのまんまみたいなのを見せられてもなあと思ってしまった。
しかし、そもそもこの特攻作戦自体、反乱国(星?)の代表者会議で降伏すると決定したのにも関わらず、一部の「ならず者」部隊が無断で突撃を仕掛けて、それに引きずられて軍全体が追随するという甚だしく問題がある展開なのである。えっ、こんなんでいいのと軍事マニアな人に聞いてみたい。

さらにラストでデススターを簡単に発動させてしまうのも目が点になる事案だ。確か「えぴ4」でもまだ試作段階みたいな感じだったはず(だから終盤の展開でドキドキした)。それなのにあんな簡単に使っちゃあ、有難味(?)が薄れるってもんだ。

同様に、「えぴ4」の設定を尊重しているという触れ込みなのに実は違っているという事例は、他にダース・ベイダーの強さがますますインフレ状態になっていること。あそこまで強くっちゃ「えぴ4」の冒頭にもラストにもそぐわない。
大体にして今度のダース・ベイダー、イモータン・ジョー風味が混ざってませんか(?_?)

最後は、一網打尽になっちゃって「そして誰もいなくなった」状態。私はあっけにとられてしまい、「いやー、簡単に全部片づけちゃったなあ」とシラけてしまった。誰彼突撃して死なせてしまえば、感動したり泣いたりするもんだろうか。冗談ではない。
ラストの「えぴ4」へのつなげ方も、こうなるとわざとらしいの一言である。


主役のフェリシティ・ジョーンズは面構えはいいが、役どころがストーリーに操られた人形のようで魅力半減だ。
ついでに言えば、闘うヒロインが主人公な割には他に女性の主要人物が少ないのも難である。その数少ない女性のうち会議で(愚かにも)降伏論を強硬に唱える人物に、アフリカ系女性を起用しているのもなんだかなあという気分になる。
それから、モフ・ターキン役にピーター・カッシングのCGを張り付けているのもひどい。これがまたつまらない演技で名優の名が泣く代物である。どうせだったら、風貌が似た役者をそのまま使えばまだましだったろう。死んだ後にこんな風に勝手に使われて「お気の毒に」と言いたくなってしまった。

まだまだ言いたいことはあるが不毛なので止める。ともかく、ダース・ベイダーもどきとデススターもどきが登場する映画はもう二度と見ることはないっ(キッパリ)


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2017年2月 1日 (水)

聞かずに死ねるか:マイナー・コンサート編 2月版

先月は2回もチケットを無駄にしてしまいました。号泣(ToT)

*3日(金)恋のうた、酒のうた(村上淳ほか):近江楽堂
*7日(火)コンティヌオ・ギルド(通奏低音ギルド)結成演奏会(坂本龍右ほか):スタジオ・ヴィルトゥオージ
*14日(火)愛のかけら(アンサンブル・レ・フィギュール):近江楽堂
前回はソプラノ高橋美千子を迎えたコンサートだったが、今回はフランス人カウンターテナーと共演とのこと。楽しみ
*22日(水)メランコリア ダルシマーの世界(小川美香子ほか):近江楽堂
*25日(土)ヘンデル最後のオペラ デイダミーア(日本ヘンデル協会):東京文化会館小ホール

これ以外には古楽系コンサート情報(東京近辺、随時更新)もご覧ください。

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