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2017年7月

2017年7月29日 (土)

「ツィマーマンのコーヒーハウス」:タダより嬉しいものはない

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調布国際音楽祭2017
演奏:バッハ・コレギウム・ジャパンほか
会場:調布市文化会館たづくり
2017年6月17日

いつのまにか「国際」が付いていた鈴木優人プロデュースの調布音楽祭、ご当地密着型とはいえ扱うジャンルも増えていた。休日に行ける古楽系の公演はこれか……と行ってまいりました。

「バッハの音楽会へタイムスリップ」というサブタイトルが示すように、和気あいあいとした楽しいコンサートであった。

前半は「3台のチェンバロのための協奏曲」が中心で、3台を担当するのは大塚直哉、海外からのゲストのフランチェスコ・コルティ、そして優人氏であった。録音では珍しくない演目だが、ナマで聞くとなると3人と3台揃えるのはなかなか大変だろうから希少価値である。
共演するのはBCJの面々で安定感ある演奏だった。

間にはバスのD・ヴェルナーによる独唱曲「裏切り者なる愛」、これも3人のチェンバロが交代で順繰りに共演という豪華版であった。なんだかやたらヘンデルっぽい劇的な曲だなあ、こんなのバッハ先生にあったっけ(?_?)と思ったら真作かどうか不明なのか。
でも聞きごたえありだった。

後半はご存じコーヒーカンタータである。優人氏は指揮に専念。ソプラノ娘が小林沙羅、バス父がD・ヴェルナー、そしてテノールが櫻田亮だった。
ステージは今どきのカフェ仕様になっていて、器楽の面々はその客という設定である。途中でなぜか「日本珈琲党」なんてビラも登場したりして……

しかし一番の驚きは、櫻田氏がカフェのウェイターとして出現したことだ。そのエプロン姿があまりにハマリ過ぎなので、思わず笑ってしまった(^○^) ご家庭でも、エプロン姿で家族サービスしてるのかしらんなんて思っちゃったですよ。
小林女史は初めて聞いたと思うが、若くてハツラツとした魅力大で、この内容に適任。ヴェルナー氏も頑固オヤジがピッタリだった。
それとフルートの鶴田洋子という人はその前のBCJ定期にも出てましたな。こちらも達者な演奏だった。


会場のあるビルは複合施設で、上階には市役所など公共施設があり、また他に予備校(?)のイベントもあったりして、かなりの人のにぎわいがある。一階のロビーではオープンコンサートもやっていて、ちょうど休憩時間に聞くことができた。しかもスターバックス・コーヒーの無料サービスもやってて、ちょうど暑い日だったのでアイスコーヒーをありがたく頂戴した。(1人で何杯もおかわりする人も
無料バンザイヽ(^o^)丿
優人氏はじめ演奏者がロビーに出没することもあり、施設をうまく利用しているなという印象だった。

ただ駅前が工事中だったせいか、地下から地上に出た時に出口の方向を勘違いてしまい、90度方向を間違えたまま歩いてしまった。本来なら5分かからずに到着できるはずなのに、20分もかかったのだった 自分で誤ったとはいえ、暑くて最悪だった(@_@;)


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2017年7月22日 (土)

「ネーデルランドのリュート音楽」:踊る国歌

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演奏:佐藤豊彦、櫻田亨、櫻田美紀
会場:近江楽堂
2017年6月14日

佐藤豊彦が弟子と娘と共にCDを出し、同じタイトルのコンサートを行った。
リュートだけのアンサンブルで、彼はアルトリュート、櫻田氏はバスリュート、佐藤美紀は珍しくもトレブルリュートを主に担当した。
トレブルはマンドリンと同じくらいの大きさで、これより小さくなると一つの弦を指で押さえることが出来なくなってしまうらしい。

ネーデルランドったらオランダと思ってしまいがちだが、ベルギー、さらにはフランスの一部も指していたとのこと。
演奏されたのはほとんどが知らない作曲家だが、中にはスウェーリンクやダウランドの曲もあった。1600年前後、アムステルダムやユトレヒトなど主要都市で出版されたリュート音楽の曲集によるものである。
中には「オレンジ公のアルマンド」つまり現在のオランダ国歌なんてのもあった。
それらが、曲によって3重奏から独奏まで、またある時は楽器も変えて様々な組合せで演奏された。

ガンバの合奏とは違って、リュートだけだとなんとなく牧歌的というか素朴な響きになってしまうのが面白い。
また曲間には豊彦氏の、結構長いオランダうんちく話が入った。鎖国時代もオランダとは貿易が続き、外国語と言えばオランダ語なので、ペリーの黒船が来た時も英語ではなくて、船内にいたオランダ語を喋れる者を介してコミュニケーションを行ったとか また一つ賢くなりました(^^♪

なかなか滅多に聞けない内容のコンサートだったが、客が少ないのが残念無念であったよ。


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2017年7月17日 (月)

「ムーンライト」:テンダネス タフでなくては生きていけない

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監督:バリー・ジェンキンズ
出演:トレヴァンテ・ローズ
米国2016年

日本では果たして公開されるのか危ぶまれていたほどだったのが、アカデミー賞取り違え事件によって劇的なまでに盛り上がり、なんと「今ここで公開せずしていつやるかーっ」という勢いで前倒しで日本でも公開されたのだった。

広告の写真が3分割になっている通り、一人のアフリカ系でゲイの少年が成長していく過程を三つの時代に分けて描く(その度に呼び名も変わる)。その描写は地味で淡々としているが、映像は計算され尽くしていて色彩もその空気も美しい。
引き合いに出されていたのがウォン・カーワイで、監督も影響を認めている。しかし、私はカーワイ作品を見たことがないのだった。許して~_(_^_)_

アフリカ系少年、貧困地区、同性愛、ドラッグディーラー、毒母、いじめ、児童虐待……とある意味刺激的な要素が並ぶが、先に書いた通りにその描写は奇をてらうものでもなく、感動をあおるようなものでもない。非常に内省的であり、深夜に微かな虫の声に耳を澄ましているような印象だ。えー、言い換えればエンタメ感は全くない作品ということである。

ヤク中の毒母一人子一人暮らしで、いじめられっ子で繊細な少年が生きていくにはこの世界はハード過ぎる。結局、親切にしてくれたドラッグ・ディーラーの男を仮の父親のようにして、自らも同じマッチョな道を歩む。他に身近なロールモデルがいないから。
しかし、身体はいくら鍛えられても魂はそうはいかない。強固な肉体と身振りの内側はまだ柔らかい少年のままなのである。
そして「初恋の男」との再会……。

あまりに繊細ロマンティック
これ以上行ったら陳腐になってしまうのではないかというギリギリのところで成立しているように思えた。
監督も舞台になっているのと同じ地区の出身だそうだ。自分の過去の状況も投影されているのだろうか。

オスカー作品賞で勢いを得たついでか?新聞の夕刊に8ページに渡る全面広告が載っていたのには驚いてしまった(!o!) 全面広告って高いのに採算取れるんかい--なんて余計な心配をしてしまったですよ。

助演男優賞の獲得のマハーシャラ・アリは出演時間は短いものの、さすがに渋~い味を出して引きつける。TVシリーズ『ハウス・オブ・カード』でも曲者ぞろいの役者の中で目立っていただけはある……といっても、元々いい役なんだけど。
M・アリつながりで、ぜひ彼も出演している『ヒドゥン・フィギュアズ』の公開を願うと祈って(^人^)いたら、公開決定でメデタイこってす。(邦題問題が炎上したが)


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2017年7月 9日 (日)

コンチェルト・イタリアーノ来日公演

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*「聖母マリアの夕べの祈り」
会場:神奈川県立音楽堂
2017年6月3日

リナルド・アレッサンドリーニ率いるコンチェルト・イタリアーノがモンテヴェルディ生誕450年ということで来日した。誠にメデタイことである。
こういう記念イヤーでもないと、有名な古楽団体でもなかなか来日してくれないものだ。

一方で、モンテヴェルディはあまり好きな作曲家ではない--と書くと、不快に思う人もいるだろうが、こればっかりは相性の問題だからどうしようもない。
音楽史的に重要な作曲家であることは重々承知しているが、聞いてみてもどうにも「優れている」とは思っても「好き」という心境にはなれないのが事実である。
この「聖母マリアの晩課」も美しく、よく出来ていて完成度が高いが、それが高過ぎてどうも親しみにくいという印象だ。とはいえ、コンチェルト・イタリアーノが来るなら聞きに行かずばいられないだろう。

ということで、横浜まで足を運んだ。三鷹でも公演があったが、平日だと行きにくいので土曜の横浜公演を選んだのだ。
とはいえ、残響が少な過ぎるこの県立音楽堂はあまり古楽向きではないので(おまけに座席が超狭い)、できれば他の所で聞きたかった。
もっとも、逆に残響あり過ぎる東京カテドラル聖マリア大聖堂みたいな会場もいただけない。何事もほどほどがよろしいのよ(^^♪

さて、舞台に上ってきたメンバーの数がかなり少ないのに驚いた。過去に数回この曲の生演奏を聞いたことがあるが、これまでで一番小規模である。器楽13人、歌手10人。ヴァイオリンなんか二人しかいない。
だが、音は立体感にあふれてまるで音の建築のようだった。しかも自在に形を変化させる。さらに、比較的前の方の座席だったので、ダイレクトに生々しくこちらを直撃した。後ろの方の座席だとどう聞こえたかは不明だが。

その起伏ある音作りが、この曲を生き生きとよみがえらせているようだった。ソプラノ2人は最初、いまひとつ調子が出ていなかったようだったが、テノールの片方の朗々とした歌唱が場を牽引した印象がある。

どの曲も「あれっ?こんな曲だったっけ」と感じてしまうような新鮮さあり。
特に後半の11番「聖なるマリアよ、私たちのために祈ってください」はソプラノと器楽が交互に歌い交わす曲で、いつも「完璧に構成されたキレイな曲だなー」という感想で終わっていたが、この日の演奏ではなんだか踊り出したくなるようなリズムを持つ曲になっていたんで驚いた(!o!)

その後、ラストのマニフィカトでさらに華麗に盛り上がり、最後の最後にはコルネットとそしてトロンボーンの強力な音が奔流のように座席の間を駆け抜けて会場を満たしたのであった。正にこの時私は感動したっ。
そして、感動のあまり「モンテヴェルディ先生、正直言ってすまんかった。今まで誤解していた」と土下座体勢でm(__)m謝りたくなったのである。

歌手の何人かはLFJやバロックオペラの上演で過去に来日してた人もいたようだ。声楽のアンサンブルは文句なし。ただ、エコーの部分は、舞台の端で後ろ向いて歌うという方法はあまりいただけないと思った。会場の関係なのか? 三鷹ではどうだったのだろうか。
管楽器の演奏もまた素晴らしいものだったが、コルネットが一人来日中止になったらしく、代わりに上野訓子が入っていた。
面白かったのはテオルボの二人。真ん中で指揮するアレッサンドリーニのよりも前面、左右に配置されて半ば向かい合うように座っていた。それが、休憩明けの9番「天よ、聴いてください」では半円状に並ぶ歌手たちの両端に座って完全に歌手の方に向かって弾き、客席には背中を見せていたのだった。

久方ぶりに古楽魂を色々刺激されたコンサートだった。横浜まで行ってヨカッタ(*^^)v
フォーチュンクッキーを買って帰ったですよ。
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*イタリアバロックMazzo di Madrigale(世俗歌曲の花束)
会場:ヤマハホール
2017年6月8日

「コンチェルト・イタリアーノ・スペシャル・アンサンブル」と銘打たれて、アレッサンドリーニ御大がチェンバロで、さらにテオルボ2人、ソプラノ2人の残留組によるコンサートがあった。
モンテヴェルディの世俗歌曲を歌うものでどうせだったら、他の男声歌手も残ってくれたらよかったのに~……というのは我儘過ぎかね。

曲目はソプラノのデュオ、ソロのそれぞれ定番有名曲だった。「苦しみが甘美なものなら」もしっかりありましたよ 歌手の声質のせいもあるだろうが、ラ・ヴェネシアーナあたりの官能や濃厚さとは異なり、かなりアッサリめな印象だった。
それにも関わらず、私の後ろに座っていた中年夫婦は前半で落ち着きなくガサガサ雑音を出していた揚句、休憩時間になると「なんかよく分からないや」と帰ってしまったのである イタリアオペラの名曲選みたいのを期待していたのだろうか(?_?)

予期せず良かったのは、テオルボ二重奏によるカプスベルガーだった。流れる水のように美しく、ミニマリズムにも通ずるものがあった。今度、録音を探してみよう。

ヤマハホールでは今回が初めての古楽コンサートとのことである。ビルの上階にあり、あまり横幅はなく、天井が高く段差をかなり取っている。音響も悪くなく、室内楽あたりにはちょうどよさそう。ただ、エレベーター乗るのに行列したり、さらにホールの入り口にたどり着くまで階段昇ったりと、客にはあまり優しくないようだ。
今後の公演ラインナップを見たが、古楽は入ってないようで……(+_+)


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2017年7月 8日 (土)

「午後8時の訪問者」:エマージェンシー 堕ちた女医、真夜中の往診

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監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:アデル・エネル
ベルギー・フランス2016年

ケン・ローチと同様にカンヌの常連、ダルデンヌ兄弟。その新作は珍しくサスペンス そんな触れ込みで宣伝や予告もその線だったが……やっぱり違ったですよ(^^;)

町の小さな診療所で臨時の医師を務める女性医師。診療時間が過ぎた後にドアのベルが鳴った時、彼女は応対に出ず、若い研修医に対しても引き止める。しかし、それが翌日死体となって発見された若い娘だったことが判明する。
自責の念に駆られ、せめて娘の身元をハッキリさせて葬りたいと調べて回ることになる。

一体殺人なのか、殺人としたら誰が犯人なのか……作品の主眼はそこにはない。
彼女が娘の知り合いを探して街を歩き回るうちに様々なもの、そして人が浮かび上がってくるという次第だ。そういう点では前作の『サンドラの週末』と似ている。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』と同じような社会問題を扱っていても、タッチは全く正反対。こちらは暗くて地味だし、話が進むにつれて人間の卑小さ、弱さがジンワリと滲み出してくるようだ。思わず机に突っ伏して泣きたくなっちゃう。
でもやっぱりケン・ローチよりこっちの方が好きなんです(*^^)b

サスペンスといやあ、電話(スマホ)の呼出音と診療所の入り口ブザー。鳴るたびにギャッと飛び上がっちゃった

それにしても、いつもダルデンヌ兄弟の作品を見ていて引き付けられるのは、ストーリーとはさほど関係ないような、主人公の身振りである。
『息子のまなざし』で大工である主人公がスタッと家具の上に飛び乗ってしまう描写、『ある子供』の「子供」が所在無げに池の水をかき回す場面、『少年と自転車』の美容師のハサミと手の動き、あるいは『サンドラの週末』でまぶしい陽射しの中を歩き回るサンドラ……。
他の監督の映画ではここまで役者の動作が気になることはない。不思議である。

今作では、ヒロインは顔は常に愛想のない仏頂面をしていて喋る時もぶっきらぼうなのに、一方診察する動作は極めて相手に対して親密なのだ。診察場面以外でも「ああ、若い娘さんがトレーラーの中で見知らぬ男とそんなに接近してはイカン(>O<)」とオバハン心をハラハラさせてしまう。

そのような相反する人物像が導き出す結果は、やはり複雑で不条理で一つの面からは割り切れないものであった。

驚いたのは、診療所に医者一人しかいないこと。看護師も受付もいないのだ。医療事務なんかどうするの? ベルギーでは実際こうなのかね
日本だったら、都市部にこんな診療所あったら待合室が常に満杯状態になりそうで、とてもやってられません。


余談だが、エンドクレジットやってる(客電ついてなくて暗い)時に、隣のオバサンがスマホ取り出して眺めててまぶしくてマイッタ。ダルデンヌ作品だから音楽も流れないし、画面見てないんだったら外に出ればいいじゃないの。他人には眩しいんだよ

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2017年7月 2日 (日)

聞かずに死ねるか:マイナー・コンサート編 7月版

早くも一年が半分経過(ーー;)

*7日(金)タブラトゥーラたなばたライブ:ハクジュホール
*9日(日)太田光子&平井み帆デュオ第30回記念コンサート前夜祭:近江楽堂
*17日(月)海に語る愛~中世ガリシアとポルトガルのファド(藤沢エリカほか):ミューザ川崎音楽工房
この日はBCJ定期もあり、コンサートラッシュの日ですかね。
*20日(木)真夏の夜のパーセルの夢(高橋美千子ほか):日本福音ルーテル東京教会*26日(水)愛と情熱のスカルラッティ(gmt):近江楽堂
*30日(日)ヴェルサイユのグラン・モテ(コントラポント&フォンス・フローリス):渋谷区文化総合センター大和田

これ以外にはサイドバーの「古楽系コンサート情報」もご覧ください。

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