「ムーンライト」:テンダネス タフでなくては生きていけない
監督:バリー・ジェンキンズ
出演:トレヴァンテ・ローズ
米国2016年
日本では果たして公開されるのか危ぶまれていたほどだったのが、アカデミー賞取り違え事件によって劇的なまでに盛り上がり、なんと「今ここで公開せずしていつやるかーっ」という勢いで前倒しで日本でも公開されたのだった。
広告の写真が3分割になっている通り、一人のアフリカ系でゲイの少年が成長していく過程を三つの時代に分けて描く(その度に呼び名も変わる)。その描写は地味で淡々としているが、映像は計算され尽くしていて色彩もその空気も美しい。
引き合いに出されていたのがウォン・カーワイで、監督も影響を認めている。しかし、私はカーワイ作品を見たことがないのだった。許して~_(_^_)_
アフリカ系少年、貧困地区、同性愛、ドラッグディーラー、毒母、いじめ、児童虐待……とある意味刺激的な要素が並ぶが、先に書いた通りにその描写は奇をてらうものでもなく、感動をあおるようなものでもない。非常に内省的であり、深夜に微かな虫の声に耳を澄ましているような印象だ。えー、言い換えればエンタメ感は全くない作品ということである。
ヤク中の毒母一人子一人暮らしで、いじめられっ子で繊細な少年が生きていくにはこの世界はハード過ぎる。結局、親切にしてくれたドラッグ・ディーラーの男を仮の父親のようにして、自らも同じマッチョな道を歩む。他に身近なロールモデルがいないから。
しかし、身体はいくら鍛えられても魂はそうはいかない。強固な肉体と身振りの内側はまだ柔らかい少年のままなのである。
そして「初恋の男」との再会……。
あまりに繊細ロマンティック
これ以上行ったら陳腐になってしまうのではないかというギリギリのところで成立しているように思えた。
監督も舞台になっているのと同じ地区の出身だそうだ。自分の過去の状況も投影されているのだろうか。
オスカー作品賞で勢いを得たついでか?新聞の夕刊に8ページに渡る全面広告が載っていたのには驚いてしまった(!o!) 全面広告って高いのに採算取れるんかい--なんて余計な心配をしてしまったですよ。
助演男優賞の獲得のマハーシャラ・アリは出演時間は短いものの、さすがに渋~い味を出して引きつける。TVシリーズ『ハウス・オブ・カード』でも曲者ぞろいの役者の中で目立っていただけはある……といっても、元々いい役なんだけど。
M・アリつながりで、ぜひ彼も出演している『ヒドゥン・フィギュアズ』の公開を願うと祈って(^人^)いたら、公開決定でメデタイこってす。(邦題問題が炎上したが)
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