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2018年3月

2018年3月12日 (月)

「残像」:戦争に勝ち革命に裏切られ権力に負けた

180312 監督:アンジェイ・ワイダ
出演:ボグスワフ・リンダ
ポーランド2016年

アンジェイ・ワイダ渾身の遺作は、ポーランドの画家ストゥシェミンスキの最後の数年を描くものだ。
この画家は第一次大戦で片手、片脚、片目の視力を失ったという。その後、画家としての名声を得て、第二次大戦終了後は大学で美術を教えている。面白そうな授業が、短いながら描かれる。

しかし、そこへソ連の影が覆い始める。アトリエの窓に赤い旗が降りてきて、部屋が真っ赤になってしまうのは極めて印象的な場面だろう。
アヴァンギャルドな抽象絵画を描く彼に大学は共産主義を賛美するリアリズム作品を求めるが、それは到底無理な話だ。かくして、展示室から彼の作品は外され教授の職もクビになってしまう。無職では配給切符も貰うことができず食料も絵具も入手できない。
支える教え子たちも逮捕されたりして周囲から去っていく。

誠に陰々滅滅とした展開といえよう。ラストシーンに至ってはさらに追い打ちをかけるようだ(> <)
半身を国家に捧げたにもかかわらず、最後はこの仕打ちである。体制の如何を問わず、権力が個人をやすやすと叩き潰せるのを容赦なく描いている。
画家の人生に託して監督自身を描いているからだろうか、何やら恨みの感情がヒシヒシと伝わってくるのであった。

もっとも、娘(中学生ぐらい?)が登場するエピソードはまた別の色合いを見せていた。母と共に別居していた少女は体制に順応して生きているが、父親の愛人の存在にはガマンできない。まあ、娘としては仕方ない反応かと思うが、彼は笑ってやり過ごすのである。(正直、この娘の存在をどうとらえたらいいのかよく分からん)

ラストのクレジットの背景には彼の作品の色鮮やかなコンポジションがアニメ化されて、躍動的に動く。しかしバックに流れる曲は陰鬱だ

芸大の講義で、彼はゴッホの絵のスライドを見せながら「絵画とは認識である」と語るのが面白かった。そして「人は認識したものしか見ていない」とも。
そういや、将棋の藤井四段(当時)は中学校で、なんで美術を勉強しなければならないのかと質問したそうだが、こういう風に答えれば良かったかもね(*^^)b

 

 

 

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2018年3月 9日 (金)

「サイモン・スタンデイジと仲間たち」:BCJの陰で大盛りだくさん

180309
会場:所沢ミューズ キューブホール
2018年2月12日

かつてのイングリッシュ・コンサートでの活躍も懐かしい、サイモン・スタンデイジが再来日。日本の若手演奏家と公演を行った。おっと、第2ヴァイオリンの天野寿彦やチェロの懸田貴嗣はもはやベテランの域ですね。
会場のキューブホールは真四角で、座席の配置からして音の聞こえ方が場所によってムラがあるのでは(あとステージ上の見え方も)と思われるが、致し方ないだろう。

ほぼ協奏曲尽くしという感じで、ヴィヴァルディ、バッハ、ヴァレンティーニ、ヘンデルの作品に加え、前半では広瀬奈緒をゲスト歌手に迎えて、パーセルの「妖精の女王」の抜粋まで(!o!) 休憩入れて2時間半という、大変盛り沢山なプログラムであった。

スタンデイジは外見も動作も、もうおじーさんという印象だがヴァイオリンの音色は若々しかった
「妖精の女王」の「おお、泣かせてください」では、懸田氏のチェロとの掛け合いがしみじみと美しく泣けた(T_T)

また、ヘンデルの合奏協奏曲6-12はヴィヴァルディみたいにハッタリのきいた躍動感ある曲だが、昔NHK-FMでイングリッシュ・コンサートがどこかの古楽祭でやったライヴ録音を放送したことがあった。それを録音して(当時はカセットテープ)何度も繰り返し聞いていたので非常に懐かしかった。その生き生きとした躍動感は今でも変わってなかった。

ヴァレンティーニの作品では教育テレビにも出ていた丸山韶が、文字通りステージからはみ出さんばかりにして(実際体格大きいし)第3ヴァイオリンを弾いていた。もっとも、ちょっとはみ出し過ぎではないかとも思えたが……。(サイモンとの年齢差、もしかして半世紀ぐらい

この所沢の公演のみ、フランチェスコ・コルティという若い演奏家がチェンバロを弾いていた。ライアン・ゴズリングをちょっと長四角っぽくしたような顔である。
バッハのチェンバロ協奏曲での演奏がすごかった(☆o◎;) 速さとパワーの相乗、最後の「アレグロ」なんてまるで新幹線みたいな怒涛の勢いである。思わず会場からため息であった。

アンコールは再び広瀬女史が登場してヘンデルのオラトリオから。これほどの重量感ある内容だったのに客入りが今イチだったのは、やはりBCJの「ヨハネ」と重なってしまったせいもあるだろう。残念であります(>_<)

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2018年3月 4日 (日)

「HORIZON 3 フランス・バロック ヴィオル・デュオ」:二重奏なら二乗の響き

180304
演奏:平尾雅子&福沢宏
会場:近江楽堂
2018年1月19日

詳細不明だが、「HORIZON」という連続演奏会のシリーズの一つがガンバ演奏会だった。他の公演はモダン演奏あり、現代音楽ありで、関連性はよく分からない。
そのせいか照明の使い方も通常のクラシック公演とは異なる印象。(ピンスポットな感じで照らしているので、奏者が立ち上がると上半身が暗くなってしまう)

平尾・福沢の両者キャリアは長く、ともそれぞれ色んな演奏会でお見かけするも、なんと二人で共演するのは初めてだという。驚きであるよ。

取り上げたのは、フランスものとしては王道のマレ、サント・コロンブの他、ケ・デルヴロワ、ボワモルティエも。
前者は明瞭な曲調が快い。ボワモルティエの方はフルートの曲をよく耳にするが、ガンバ二重奏のソナタを複数作曲しているという。知らなかった(~o~) 演奏されたソナタは哀愁を帯びた美メロを含んだ曲。思わず聞き入りました。

サント・コロンブの「ピエロティーヌ」は録音でも聞いたことのない作品だった。二つのガンバがそれぞれ互いを模倣するように変奏していく。息もつかせず聞きごたえあり。
クープランも「コンセール13番」から一曲。アンコールも彼の作品だった。

ありそうで、実際にはなかなか聞けないガンバ二重奏コンサート。堪能させていただきました(#^.^#)


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