« 「ジュリアン・マルタン氏を迎えて」:一心同笛 | トップページ | TVドラマシリーズ「ウエストワールド」シーズン1:アンドロイドは永遠の愛を夢見るか »

2018年5月 9日 (水)

「ハッピーエンド」:ファミリー・トラブル 幸せならスマホしよう

180509a 監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール
フランス・ドイツ・オーストリア2017年

前作『愛、アムール』がカンヌのパルムドールやさらにはアカデミー賞外国語映画賞まで取ってしまったハネケ。しかし、最新作はそれを反省したかのようにまたもやイヤミと皮肉に満ちたものであった。

冒頭、スマホの画面が写る。どうやらどこかの家庭で洗面所にいる女性を撮って、明らかにSNSに流している。続く映像も同じ家のようだが、ペットのハムスターを殺し、さらに穏やかならぬ事態を映し出していく。
と思えば、突然に工事現場で大規模な事故が起こる様子を淡々と捉えた監視カメラの映像が続く。

イザベル・ユペール扮するアンヌは親の事業を継いだやり手の経営者(こういう役多いですな)で、その息子は先ほどの事故を起こした工事の責任者である。しかし、有能なアンヌに対し、「無能」で引け目を感じている。
引退したどうも父親はボケかかっているように見える。
アンヌの弟は離婚して二度目の妻子と共に実家の豪邸に同居しているが、元の妻が急死し小学生の娘も生活に加わる。その少女が冒頭のスマホ映像を撮った本人なのである。

その穏やかならざる一族に、さらに何やら不穏なことがヒタヒタと続いて描かれる。
工事で怪我をしたとおぼしき作業員の家へ息子が(恐らく)謝罪に行った揚句、ブン殴られる。その一部始終をロングの長回しで捉えるカメラのイヤらしさよ 同様に老父が車椅子で街をさまようのをやはり延々と撮る。ハネケ流のイヤミ炸裂だ。
おかげで、近くの座席で見てた中年女性は途中で席を立って出て行ってしまったではないか。どーすんのよ~(^_^メ)

加えて、パソコンのモニター画面に出現するいかがわしく濃厚なメール。誰が誰に送っているのか?

自殺願望をチラつかせる老父を演じるのはジャン=ルイ・トランティニャンで、ユペールとの父娘組合せは、どう見ても『愛、アムール』を思い起こさせる(人物の設定は全く異なるのだが)。その彼に亡き妻を介護した体験を、毒舌で否定的に孫娘へ語らせるとなると、「どうあっても、もう『愛』なんて語らねえぞ、コンチキショー」という監督の決意を感じるのであった。

「死」という共通する要素を見出した少女とその祖父と繋がりは、「家族」からはみ出した者同士の共感であり、抵抗である--とも解釈できる。
だが一方で、ヒマや金を持て余したら「死」を引き寄せて戯れるほかない空疎な姿に見えた。

最後にまたもスマホの映像で終了するが、そこに描かれているのは悲劇なのか喜劇なのか、もはや観客の側には分からないのである。
ちなみに、映画のチラシも通常のB5でなくてスマホサイズの比率で作られている。最初、気付かなかったですよ(^^ゞ

名優たちの中で、少女役のF・アルデュアンの目力の強さに驚いた。(彼女が「IJAPAN」のTシャツ着ているのは、日本の某事件をモデルにしているから--というのはホントか?)
また、クラシック・ファンにはガンバ奏者のヒレ・パールが出演しているのも驚きだろう(そのままにガンバ奏者の役)。『愛、アムール』ではA・タローの出演が話題となったが、今作の彼女は重要な人物とはいえ、セリフは一言ぐらいしかない。ただし、マラン・マレ(?)の「フォリア」の終章をかなり乱暴に弾く場面あり。
コンサートでの彼女は明るい美人さんという印象だが、作中では淫蕩でビョーキな雰囲気だ。加えて、かつてハネケ映画の常連だったJ・ビノシュにかなり似ているのに気付いた。

 

ところで、スマホでなんでもかんでも撮りたがる風潮、全く今どきの若いモンは……と言いたくなるところだが、翻って考えてみるに、頼まれてもいないのに見た映画や読んだ本の感想を延々とネットに綴るという行為も似たもんではないか。
さらに、私の父親の世代は(戦前生まれ)文学青年のたしなみとして、日記をつけるというのがあったらしい。他人に知られたくない行為をわざわざ文章にして記録し、さらにそれを他人の見られるような所に放置するというのは、やはり他者に公開したいという欲望があったのではないかとしか思えない。
それを思えば、昔も今もメディアが変わっただけでやってる行為は変化なし、といえるだろう。

180509b ←このスチール写真、少女だけカメラ目線になっている(もちろん意図的)、という指摘があった。

 

 

 

| |

« 「ジュリアン・マルタン氏を迎えて」:一心同笛 | トップページ | TVドラマシリーズ「ウエストワールド」シーズン1:アンドロイドは永遠の愛を夢見るか »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「ハッピーエンド」:ファミリー・トラブル 幸せならスマホしよう:

« 「ジュリアン・マルタン氏を迎えて」:一心同笛 | トップページ | TVドラマシリーズ「ウエストワールド」シーズン1:アンドロイドは永遠の愛を夢見るか »