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2018年8月27日 (月)

「白暮のクロニクル」1~11巻

180827
著者:ゆうきまさみ
小学館(ビッグ コミックス)2014~17年

歴史の陰で連綿と生きてきた謎の種属がいた--というのはSFやファンタジーではさほど珍しい設定ではない。ましてや、それが吸血鬼に似ているとなれば、である。

オキナガ(息長)とは不老不死、太陽光に弱く、主に生肉を食し、ごくたま~に吸血することもあるが、彼らが仲間を増やすのはむしろ自らの血を相手に与える行為によるのだ。日本に10万人程度在住、長いものでは千年以上生きている者もいるという。
彼らはその存在を古くから知られ、現在の日本では登録されて厚労省の管理下にあるのだった。

で、オキナガを管轄する部署に配属された新人公務員伏木あかりは、一見18歳の若者、実年齢は88歳の魁と共に、オキナガ周辺に起こる怪事件の解明に関わることになる。

各巻ほぼ一つの事件が起こり、それが解決される過程には謎解きミステリーの面白さがある。しかも、巻が進むにつれて主軸となる連続殺人事件が浮かび上がってくるという、凝った構成である。
さらに、ハラドキ感満載のサスペンス展開に続き、最終巻まで読み進んだ時にはアッと驚く意外な真相にたどり着く。これは、ほとんどの読者に予想が付かないのは間違いないだろう。

また、この手の物語だと謎の種族の設定の説明だけでページを費やし、特殊な設定がさらに別の設定を呼ぶみたいな事態になることが多いが、そういう混乱もない。

加えて、時々に現われる回想場面に伴って日本の歴史の実相が見え隠れする。応仁の乱、キリシタン弾圧、太平洋戦争の沖縄戦……そして、主人公の魁が受ける人体実験は731部隊を想起させるのだ。
彼が追う連続殺人で冤罪により死刑になったエピソードも、実際の同じような事件がモデルだろう。

また、終盤には戦争直後の浮浪児となった戦争孤児たちが登場する。ちょうど最終巻を読んだ同時期に、新聞記事で「狩り込み」という行政による浮浪児の強制収容が行なわれたという話が載っていた。上野駅で捕まえた子どもたちをトラックに乗せて、なんとそのまま山奥に捨ててきたというのだ! 野良犬猫扱い 恐ろしい事である。
一方で、作者は真珠湾攻撃のニュースを聞いて喜ぶ市民(主人公を含む)の姿も忌憚なく描くのも忘れていない。
そこに存在するのは陽光の下にはさらせない歴史の暗黒面だ。

死にかけた人間に血を与えることによってのみ仲間が増えるというオキナガとは、すなわち日本の歴史の血にまみれた暴力による暗部と共に連綿と生きてきた、それを象徴する存在である。陽の当たる表には出られないのも当然と言えるだろう。
それを考えると千六百年も「宮仕え」してきたという、あかりの上司・竹之内の人物造形も興味深い。

こう書くといかにも重苦しいシリアスな作品だと思えるが、全体のタッチはあくまでもユーモラスなのだから恐れ入る。エンタテインメント性も完璧だ。
特に笑っちゃったのは、3巻に登場するオキナガの画家。狩野派から始まって浮世絵、西洋画と三百年間もその時々の「先端」を描いてきた--ってスゴイことではないの。
逆にシンミリしたのは、母親がオキナガになっちゃって娘だけがどんどん歳を取ってしまったエピソード。娘の方は今にも倒れそうな老人なのに、母はいつまでも若いままなのである。

とにかく、これは超力技作品と太鼓判をドンと押したい。
願わくば、復帰したあかり&魁の凸凹コンビによる怪事件捜査ものというスピンオフを描いてもらえんかなあ。新作始まっちゃったから無理だろうけど(ーー;)


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