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2018年10月14日 (日)

「文字渦」

181014
著者:円城塔
新潮社2018年

何やら文字についての妄想を連ねたような連作小説集である。
ある時、漢字は物や人そのものであったり、遺伝情報のように組み合わせを変えて全く別のものに変化したり、漢字同士が闘ったりもする。文字の歴史を遡り、どれほど先か分からぬほどの未来の姿を見る章もある。
またある時は、本文に対しルビがレジスタンスを企てたり、文字が地層のように集積したり(字層?)、遂には横溝ミステリーのようなオドロオドロな殺人事件ならぬ殺字事件まで起こるのだ。
かと思えば、大量の文字によってプログラムされた世界は、独自の宇宙を形作り、冥王星の側にスターゲートならぬ「文字門」を存在せしめる。

かように、利己的な文字は自らをその界によって自由に形を変えて生成し、生き延びていくのである。
とすればその時、小説とは予め配列された文字によってしか書かれないものとなる。つまり、読むにあたって重要なのは文字そのものであり、「ストーリー」とか「メッセージ」ではないのだ。

そして私がこの本の「参考文献」「初出一覧」まで読み終え、最後のページの奥付にある「文字渦」の文字(明朝体か)を目にした時、その文字がグルグルと渦巻いてピチャンとさんずいに飛沫が撥ね上がるのまで確かに感じたのであった。

そうなると、全てが怪しくなってくるではないか。一体、各ページの余白は本当に余白なのか? 実際はスペースの連なりが余白を装っているのではないか。ところどころ「一行明け」がページの終わりや初めにわざとらしく置かれているのも気になる。そもそも、ページ数を表わす漢数字は正しいページを示しているのだろうか。
加えて、数多く現れる見たこともない漢字の数々--実在するとは到底思えない、でっち上げられたに違いないと思われるようなものが、実は存在したりして。あるのかないのか俄かには判断付け難い文字が目をくらます。
そう、文字は信用できない語り手、なのである。
181014b

と、あちこち本を繰っている間にも文字がスルリと抜け出して、何気ない振りをして裏側へ紛れ込んで張り付いているような気がする。。
しかし、ド近眼・乱視の上に老眼である私には、メガネを外したり掛けたりと読むだけで苦労しなくてはならず、文字のたくらみを見抜くことは非常に難しいのであった。
ああ、残念。


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