「ちいさな独裁者」:上官は思いつきでものを言う
監督:ロベルト・シュヴェンケ
出演:マックス・フーバッヒャー
ドイツ・フランス・ポーランド2017年
全員悪人--とまでは言えないが、少なくとも全員善人にあらず、という恐ろしい内容である。
第二次大戦も末期、ドイツ軍はもう敗走状態。逃亡兵たちが食料を求めて農家の納屋に忍び込んで強奪。一方、農民たちも負けてはいない。泥棒を発見したら容赦なくブチ殺すのであった。
そんな若い兵士の一人が広野をさまよううちに捨てられた軍の車と将校の制服を発見。たまたま着ていたところ、別の兵士に将校と勘違いされる。そして次々と勘違いしてついて行く者が増えていくのだった。
嘘も百人信じれば真実になる--いや例え一人でもいればそれはもう真実なのだ。
もちろん、半分疑っているヤツもいる。途中から疑い始めたけど今さらもう引き返せないヤツ、どころか最初から偽物だと見抜いているが、自らの保身のために利用するヤツもいる。
そもそも、主人公は嘘をついて全く臆することはなく、窮地に至ってもペラペラと言い逃れる、いざとなれば平然と他者を犠牲にするのだった。(こういうのをサイコパス気質というんだっけ?)
実際にこういうヤツは存在するんだよね。以前、職場にいて周囲は大変な迷惑を被っていたものだ。
さらに将校の制服の威力の甚大さ💥 本人は童顔で小柄な若者なのに、周囲はひたすらその権威に服すしてしまう。さらには、制服がなくとも権力を行使するような場面まで登場する。
制服は周りに影響を及ぼすが、着ている本人の中身もまた変えるのか。とすれば人間の本質はどこにあるのか。そもそもそんなものはないのかね。
そして成り行きで恐ろしい事態へと転がっていくのだった。
しかし、さらに恐ろしいのはこれが実話だということだ(!o!) なんてこったい。
監督は『ヒトラー 最期の12日間』を見て、ヒトラーだけに悪をすべて押しつけて他の人間は善人だったというような内容に怒りを感じ、「良いナチスが一人も出てこない映画を作りたかった」と語っている。その意気や良し👊
いや、マジに善人が一人も出てこないドライな徹底ぶりに感動した\(^^@)/
脱走兵の収容所で開かれる将校のパーティーでの余興、これが収容されている兵士の漫才で、徹頭徹尾最低最悪くだらなさの限り(しかも面白くない)で見ていてあきれるばかりだ。やる方も見て笑ってる方も正気を疑いたくなるほど。これに比べれば『第十七捕虜収容所』なぞ極楽のようなものだろう。
アイデアだけでなく、映像による心理描写も巧みである。重低音でドヨ~ンと入ってくる音楽もいい。
「サウルの息子」っぽい映像もあり。エンドクレジットの部分は完全に『帰ってきたヒトラー』のパロディとなっている。
主演の若者役もうまい。飄々とツルツルと言い抜けていく無神経さがよく表現されていた。
なお、この作品は元々モノクロだったらしいのだが、なぜか日本ではカラーで上映したというので一部で話題になった。と言っても、かなりセピアっぽい色味ではあるけど。モノクロだと世間でウケないという話を聞いたことはある。でも内容的からするとカラーだから客が増えるという映画でもないだろうに(^^?
それから、一カ所ボカシが入っていたが、遠方のシルエットなんでほとんど分からない代物である(むしろボカシで目立つ)。『ROMA ローマ』なんかモロに映っていたのにボカシなし。基準が分からない。レイティングの関係だろうか。
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