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2019年6月20日 (木)

音楽と身体その1「ウィーンのリュート音楽」:消えゆく人

190620 演奏:佐藤豊彦
会場:近江楽堂
2019年5月17日

齢400年✨のリュートのグライフ使用、今回のバロックリュートリサイタルは、発売されたばかりのCD「ウィーンのリュート音楽」の収録曲を全曲演奏するものである。
CDではギンター→サン・リュク→ヴァイヒェンベルガーという収録の順番だったが、調弦の関係でサン・リュクの方が先になっていた。

ギンターは17世紀末、ウィーン宮廷合唱団のカストラート歌手にしてリュート奏者だったという珍しい経歴の持ち主である。当時カストラートになる少年は外見の方も良いのが理想条件だったらしいのだが、美声であっても彼はその点について今イチ今ニ……だったそうな。しかし父親の意向でカストラートにされ短命だったとのこと。
リュート曲作品はほとんど残っていず、組曲として完全に残っているのはこの作品だけらしい。

そのギンターが亡くなった時に追悼曲を捧げたのがサン・リュクという因縁である。
両者の曲は短調で暗く地味である。サン・リュクはトンボーで始まるから当然とは言え、ギンターの方はさらに寂しさ横溢な印象。佐藤豊彦はそれを、自分の運命に対する達観から作曲されたと解釈していた。
グライフは相変わらずひなびた(と形容してよいか)響き。サンリュクの終曲メヌエットは微細の極み--といった静けさで、この近江楽堂でなければ聞き取ることさえ不可能なものだったろう。

それだけに客が発する小さな音でも響き渡ってしまい、普段よりも雑音がやたらと大きく聞こえた。
さらに加えて近くにいた奥さんが、椅子が合わないらしく常時身体を動かしていた上に、さらにうめき声やため息を乱発したのでマイッタ(+_+)

次はさすがに明るい作品でギンターと同時代の(しかし遙かに長生きした)ヴァイヒェンベルガーの組曲である。さらにアンコールはCD同様に作者不詳のシチリアーナで締められた。

正味70分の演奏会だったが、なんと休憩なしのイッキ弾きである。佐藤氏の説明によると、昔はLP盤のアルバムに合わせたプログラムだったので、A面B面に分けたところで休憩を入れていたそうな。今はCD時代なのでうまく二つに分けられないのが理由の一つ。
さらにグループで演奏するなら他の人がいるので休憩後にまたボルテージを上げられるが、一人だと戻すのが難しい、ということだった。

早逝した作曲家、曲は現在まで生き残り、彼の倍以上の年齢を生きる演奏者がその作品を弾く。それを奏でるのは4世紀も前に作られた(作曲家よりさらに半世紀も以前に!)リュートである。しかしその音は微細で一瞬のうちに消え去る。
最もはかなくもろいのはどれだろうか。

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