「〈性〉なる家族」
これまで語られず闇へと葬られてきた家族内のDV、性虐待、セックスレス、トラウマなどをあからさまにして論ずる書である。特に母→息子、どころか母→娘への性虐待は読んでて恐ろしい。かなりヘコむ。
そも、近親「相」姦という言葉自体に虚偽が既に存在するのだ。そこには双方の上下・権力関係を覆い隠す効力がある。
家族のシステムを支えるロマンティック・ラブ・イデオロギー、個人の問題だけではない不妊治療、虐待によるPTSD、WeToo運動など問題は多岐に渡る。
そして最後は、国家の暴力と家族間の暴力の類似性を明らかにする。それは外部から見えにくく、内部では容認されていることで共通している。
それを端的に表すのが、国家の暴力の最たるものである戦争神経症だ。元々は第一次大戦で注目され、ヴェトナム戦争では帰還兵が社会的問題となった。
日本国内の問題としては知られなかったが、少し前のNHKのドキュメンタリーが太平洋戦争時の兵士を取り上げて大きな反響を呼んだという。
常時の暴力的な状態から帰還した戦争神経症の日本兵は、今度は家庭内暴力を振るった。国家の暴力である戦争が、家族にダメージを与える……。
私はこのドキュメンタリーを見ていないが、この本に紹介されている事例を読んで、私の父親もこれに当てはまるのではないかと初めて思った。
二十歳前に徴兵されて、満州に派遣され、終戦後はシベリア送りとなってから帰還した父親は、その後に酒で家族に多大なる迷惑をかけた。それは若い頃よりも歳をとるにつれ顕著になった。(結局、酒の飲み過ぎで死んだ)
今でも思い出すのが嫌になる。まあ、私より母や兄の方がもっと長い年数付き合ってたんだから、よけい大変だったろう。
本当に戦争神経症だったのかは分からないが。
ここに国家の暴力と家族の暴力がピタリと転写されている姿を見ることができる。覆い隠されたシステム内でのほころびである。
「家族、そして性については再学習」し、再定義し、過去を変えること--と著者は語る。「家族」に疑問を抱く人にお勧めしたい。
いや、逆に「家族」なるものに全く疑いや不安を抱いていない人にもお勧めしよう。
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