「荒野にて」:父一人馬一匹子ひとり
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:チャーリー・プラマー
イギリス2017年
思い出したのはケン・ローチの『ケス』である。あれは孤独な少年とタカの物語だったが、こちらは競走馬と少年の物語。ロードムービーであるところが『ケス』とは違っている。
米国の田舎町、少年は父親と共に引っ越してきたばかりで完全に孤独である。それまではハイスクールに通っていたようなのだが、父親は全く無関心で、そもそも不在が続き生活費すらろくに渡していない。家の中はまだ段ボールが積んであるままだ。
たまたま馬主の男に気に入られて、その厩舎でバイトすることになる。そして年老いた競走馬の世話を熱心にする。もはや勝てないその馬が処分されることを知って、連れて逃げるのだった。
そして邦題にあるように荒野をさまよう。道もないのでロードムービーでなくて荒野ムービーだろう。馬を連れて出たはいいが、少年自身は乗馬も出来ないのだ。運搬トラックのガソリン代もない。
しかし荒野にいた時はまだよかったかもしれない。本当の荒れ野は広野でも山でも道路でもなく、人間が殺伐と暮らす都会の方だったのが分かる。それが淡々と語られる。
見ていてこの世界のつらさ苦しさがじわじわと迫ってくる。
果たして約束の地はあるのか。わずかに明るい結末が救いであり、それが『ケス』とは異なる部分である。「刑務所に入ってもここに戻ってもいい?」という台詞が泣ける。
しかし、こうして見ていてなんだか私は派手なエンタメ映画を鑑賞しているのと同じように、孤独な少年の苦悩や悲しみを娯楽として消費しているだけではないのかとも思えてきた。
そうしてますますウツウツとなってしまった。だからといって、どうするわけでもないのだが(=_=)
最近、ルーカス・ヘッジスを始め若手の役者が才能を見せているが、この少年役のチャーリー・プラマーもかなりのものである。
父親が入院してしまい、今は疎遠になってしまった伯母を頼ろうと提案するのだが父親に却下されてしまう。その時の微妙な表情が大変うまくて驚いた。瞬時に入れ変わるかすかな期待と落胆……。
ここで演出(監督は『さざなみ』の人)や役者が下手だと、観客は台詞のテキストで判断するしかない。父親の言うことをよく聞く少年の真意は果たしてどうなのか--と疑問に思うより前に瞬時に見る者を納得させる。これって当たり前のようでなかなか実際には難しい。
馬主のオヤジさんは最初帽子かぶっていて、アップの場面がなくてよく顔が分からなかったのだが、喋る声がどこかで聞いたような……と思ったらスティーヴ・ブシェミだと気付いた(^^ゞ(遅い!) いい味出してます。
モロにアメリカな話なのだが、イギリス映画なのね。
原題は馬の名前「リーン・オン・ピート」。「ピートに任せとけ」って感じ?
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