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2020年1月27日 (月)

没後20周年キュー祭り「キューブリックに愛された男」「キューブリックに魅せられた男」

200127a スタンリー・キューブリックに関するドキュメンタリー二本が公開! まとめてイッキ見した。

「キューブリックに愛された男」
監督:アレックス・インファセリ
出演:エミリオ・ダレッサンドロ
イタリア2016年

タクシー運転手をやっていて『時計仕掛けのオレンジ』の小道具(あまり人目にはさらせないあの物体)を運んだことをきっかけに、Q監督の専属運転手を30年間務めることになったイタリア人エミリオ・ダレッサンドロのインタビューを中心に構成。
既に回想録を出しているので、内容自体に衝撃の新発見の事実!みたいなのはないようだ。

近所に住んで運転だけでなく、私的な雑用係までやっていたとのこと。昼夜問わず電話がかかってきたり、メモで色々と指令が飛んできたりと、様々なエピソードを通して大変だったのが語られる。
一度辞めてイタリアに帰ろうとしたのにズルズルと2週間後のはずが2年引き止められたり、また英国に戻ったり。結局『アイズ ワイド シャット』にチョイ役で出たりしている。

ドキュメンタリーとしてはあまり出来は良くない。編集がうまくないし、Q作品の映像が使えずスチールだけなのも単調になってしまって寂しい。
ただ、エミリオ氏の屈託ない人物像(まさに愛されキャラか)に引っ張られ見てしまうのであった。
また、この人は保存魔でメモや箇条書きの指令書の実物を取ってあって、それを見られるのは面白い。あと個人的に撮ったスナップ写真も貴重だろう。

イタリアに戻ってから初めてキューブリック映画を見たそうだ。「どれが面白かった?」と本人から聞かれ、答えたのは……自作とは認められていないあの作品(^^;;


200127b「キューブリックに魅せられた男」

監督:トニー・ジエラ
出演:レオン・ヴィタリ
米国2017年

『バリー・リンドン』に主人公の義理の息子役で出演していたレオン・ヴィターリ、役者として評価され始めたのに、製作の仕事をやりたくてキューブリックの撮影現場で働くことを志願したのであった。

彼のインタビューを中心に、作品に出演した俳優たち(ライアン・オニール、リー・アーメイ、マシュー・モディンなど、お懐かしや)の話も挿入される。ステラン・スカルスガルドが出ている(結構含蓄のあることを喋っている)のは何故?と思ったら、これはレオンと『ハムレット』の舞台で共演してた関係らしい。

エミリオ氏同様、彼もアシスタント・雑用係兼任となり公私を問わず四六時中働くようになる。やはり電話と指令メモが矢継ぎ早に来る。あまりに頻繁なので、よくその電話やメモする時間があるなあと変なところで感心するほど。
『フルメタル・ジャケット』の時などはスゴ過ぎてドレイ状態に等しくなる。

とはいえ、そのように使われたのは彼が有能だからとも言える。
『シャイニング』の時はオーディションでダニー役を発見し、さらにはあの双子少女を見つけたのも彼だというのには驚いた。「ダイアン・アーバスみたいだ💥」と報告に行ったという。
加えて、全く経験ない効果音係を突然やれと命じられたとか(前任者が辞めちゃった?)、逸話は尽きず。その割には報酬をあまり貰ってないっぽいし、彼の子どもたちは父親を奪われた感じで恨み節なのであった。
ここまで来ると二人は共依存の関係にあったのではないかと思えるほどだ。

またキューブリックの死後は権利関係で色々あったらしい。まあ、これは利益と権利が絡んだりするとどこでも起こる事案だろう。

エミリオ氏の話も合わせて感じたのは、天才とは自身だけでなく才能や天分ある者を見つけて活用していくものだということ。そして才能なき凡才ならば決して近寄らず、遠くからその創造物を眺めていた方がいいということだ。

どちらの方に出てきたのか忘れたが『バリー・リンドン』(だっけ?)の「美術監督が倒れて担架で運ばれてった」なんてエピソードを聞くと、もっと他の人の言い分も聞きたくなった。

200127c なお、両作合同パンフレットはモノリス型の横長で、さらにひっくり返して後ろ側からも読むという凝った体裁。そのため、乱丁と勘違いした人がいましたよ。
同じ値段でオリジナル布製バッグも売ってて一瞬どちらを買うか迷った。



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