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2020年2月14日 (金)

「アイリッシュマン」:別れろ殺せはマフィアの時に言う言葉

監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ
米国2019年

昨年の映画で話題性では一、二を争う本作。
その理由の一つはスコセッシが盟友の役者三人と共に作ったこと。もう一つはネットフリックス製作で本来なら加入者以外は見られないはずが、映画賞獲得のためか事前に(どころか配信開始後も)映画館で公開したことだ。
しかも尺が209分💨 映画館でイッキ見するにはつらいし、単品TVドラマ1本としても長い。帯に長くてタスキにはもっと長いのであった。

内容は実話で、数十年に渡り労働組合委員長とマフィアが協力して組合を牛耳り、年金を勝手に運用。やがて双方が離反して謎の失踪事件が起こる。
これは米国では有名な事件とのこと。いまだに元委員長のホッファがどこへ消えたのか分からない。この映画は彼を殺したと証言する男が主人公である。

時系列は戦後すぐ、失踪事件直前、さらに事件を主人公が老人ホームで回想するという三つの時系列に分かれている。
数十年に渡る話だが、昔の場面は若い役者を使うのではなく顔をCGで若返らせている。ただ、シワを減らしても髪形などはほとんど変わらないし、そもそも体格や歩き方は本来の年齢そのままに年寄りっぽいので正直あまり区別がつかないのであった。

長丁場で見応えあるものの地味すぎる。ネットで見たら中途脱落者が多いかも。
そういう意味では映画館向きか。ただ全体の97%がオヤジの顔ばかりで占められているので、ヒットは見込めそうにない。ハリウッドで企画が通らなかったのは「きれいなおねーさんの出番はないのか」という要請に応えられなかったからでは?なんて余計なことを考えたりして。

ストーリーとしては、第二次大戦以降の米国現代史を背景とした義理と人情の板挟み💥止めてくれるな娘よ、誓いの指輪が重たいぜ、みたいな調子だ。
ジョー・ペシのマフィアから、ホッファ(アル・パチーノ)に派遣された用心棒兼助手(?)のデ・ニーロの煩悶……スコセッシ的世界&人間関係を彼のお気に入りの役者を使って思うままに描くという、まさにスコセッシ節全開の作品と言えよう。

さぞファンは大喜び\(^^)/……かと思ったらそうでもないらしい。
例として挙げると→こういうことらしい。「暴力のアミューズメントパーク」を期待して行ったのに「有害な男性性」が描かれていて、しかもスコセッシは心ならずもそうせざるを得なかったというのだ。
これには驚いた。まともに見ていれば背景はマフィアの世界であっても、前作の『沈黙』にかなり近い作品だと分かるはず。すなわち周囲の世界の重圧と自らの信念の相克、である。このような監督のファンを自称してる人は『沈黙』をどう評価してるのよ(?_?)

役者の演技としては、攻めのパチーノ、受けのデ・ニーロといったところか(いかがわしい意味ではありません!)。そして怖いジョー・ペシ、彼は本物の迫力--確かコッポラ(だと思う)が「J・ペシは本物だ」と言っていた--をジワジワと発揮。
しかし一方で完全にブロマンスであり、フ女子が燃え上がっても仕方ない。意味ありげに三人の男の間で行き交う腕時計と指輪でさらに燃料投下🔥だ。

スコセッシも含め四人は様々な映画賞にノミネートされたが、多くは受賞はできなかった。彼らはオスカーも過去に貰ってるし……やはり世代交代ということですかね。元々スコセッシはオスカー運が悪いけど。

このホッファという人物は『ホッファ』(1992年)でジャック・ニコルソンが演じている。アカデミー賞とラジー賞双方の主演男優賞にノミネート。どんなものか、ちょっと見てみたいぞ(怖いもの見たさ)。

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