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2020年2月29日 (土)

映画落ち穂拾い 2019年後半その1

200228a「ペトラは静かに対峙する」
監督:ハイメ・ロサレス
出演:バルバラ・レニー
スペイン・フランス・デンマーク2018年

邦題は違っている。全く「対峙」していない。悪人と弱者の物語である。スペインを舞台にしたイヤな気分満載の作品だ。
いきなり物語の途中から始まって驚かされる。ブツ切りならぬブツ始まりである。また映像が人物からずれていくカメラの視線も面白い。そういう映像や構成は個性的である。

だが見ている間はいいけど、並ではない悲劇が次々と起こり過ぎだ。で、その結末がどうなるかと思うと、結局生ぬるい和解になっちゃうのであった。

問題の彫刻家があまりに悪人過ぎてここまで来ると、「幸福なラザロ」が善人過ぎるのと同様にファンタジーの範疇で処理しないとどうしようもないほどである。

フィルマークスで「シェイクスピアにハネケ混ぜたような」と評している人がいて、確かにその通りだけど、ハネケの悪はここまでファンタジーではないよな。


200228b「トイ・ストーリー4」(字幕版)
監督:ジョシュ・クーリー
声の出演:トム・ハンクス
米国2019年

これも今さらだけど、一応感想を書いておく。
見て泣けはしたけど、色々と問題が多かった。これまでの設定がなかったようになっているのはどうよ? ウッディは友情に厚いから仲間を助けるんじゃなくて、単に役目がないんで新人のお世話係になったみたい。バズに至っては「1」の最初の頃のキャラに初期化されてしまったような気の利かなさである。
「3」で一旦片が付いたのだから、無理せずともスピンオフにすればよかったのではないかね。

そもそも玩具の縛りがなくなって、なんだかもう妖精みたい。それから凸凹コンビのダッキー&バニーは最初の目的がどんどん変わっちゃうのもよく分からん。

友人が「旧作でボーが突然消えた時点で、もうこの話考えてたんじゃないの」と言ったんだけど、本当にそうなのか?
子ども部屋からはトトロが消えていた。J・ラセターの縁の切れ目がトトロの切れ目💥


200228c「Girl/ガール」
監督:ルーカス・ドン
出演:ヴィクトール・ポルスター
ベルギー2018年

トランスジェンダーの少女がバレリーナを目指す。そのためにはバレエ学校に通わねばならぬ。
見ててつらい・苦しい・つらい……の連続な気分になる。特にテープの描写が身にこたえる。
だがラストの行為は「えっ、これで大丈夫なの!?」と驚いてしまった。あれでいいのなら、長い時間をかけての投与とか手術とか要らないのではないか。
当事者や医療者はどう考えるのか知りたいと思ってネットを調べたが、配役の問題(若い男性のダンサーが演じている)しか出てこなかった。

同じバレエ学校の若い娘っ子たちの自覚なき悪意がコワい。見終わった後はどっと疲れた。


200228d「田園の守り人たち」
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
出演:ナタリー・バイ
フランス・スイス2017年

第一次大戦中のフランスの農村、兵隊に行った男たちの代わりに農作業にはげむ女たちの姿が、悠然とした時間の中で絵画のごとく捉えられる。まさに「種蒔く人」そのまま。機械が導入される直前なので重労働だが、その地道な姿こそが「生産」だと感じられる。

しかし、自然や農作業の丁寧な描写に比べ人間の描写はややいい加減ではないか。人手を補うために雇った若い娘に対し、豹変する女主人の態度(人間とはそういうもんだと言われてしまえば終わりだが)が突然すぎるし、自分の娘との対立も前触れなく唐突だ。

女性の登場人物が多くてフェミニズムの文脈に乗っているように見えるが、実際にはその行動原理は常に「男」に認められるかどうかなので、それはどうなのよと思う。
しかもそういう生き方を淡々と肯定的に描いて来たのに、最後それをひっくり返してみせるのは意図不明である。

人間関係がどうなっているのかほとんど説明がなく、途中までかなり混乱した。
なお、次男が自国に駐留してきた米兵に敵愾心を抱くのは、自分の領分の「女」を奪われるからだろうとイヤミに解釈したい。

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