「人生、ただいま修行中」:この校門より入る者、全ての希望と絶望を抱け
監督:ニコラ・フィリベール
フランス2018年
パリ近郊の看護学校、入学した若者達の授業や実習の様子を淡々捉えていくドキュメンタリーである。ナレーションはおろか字幕ですら入らない。ただ映像をつないでいく手法だ。
最初はそれこそ手の洗い方から開始。医療関係者にとっては当たり前であろう基礎の基礎授業が続く。この方面に全く無知な人間にとっては「ふむふむ、なるほど(・_・)」などと新鮮に感じる。
淡々とはしていても引きつけられて見てしまうのだった。
さすがフランスだけあって、生徒の人種も民族も様々だ。教員たちが彼らに真摯に助言する様子にも密着する。
カメラは若者たちに寄り添ってはいるが、親和的というわけではなくあくまでも客観的にとらえる。邦題はホンワカなイメージを与えるが実際に見ると違う。冷静な眼差しで、生徒が突き当たる壁も描く。
それでも、実習先で四苦八苦する姿の描き方などさりげないユーモアは忘れない。
病院での実習を終えて、自分の活路を見いだす者、困難な現場をうまく乗り切ったタフな者もいれば、実習先になじめなかった者もいる。
とある生徒は、HIV検査に来た売春婦(お金がなくてゴムが買えなかった)にうまく対応できなかった事案を泣きながら報告する。さらには期間中に自宅で盗難事件発生してピンチ💥なんてケースもあり。
まだ若くて同じスタートラインは同じに立ったばかりだというのに、早くも人それぞれに差がついて分岐点が生じる。
そしてそれは彼ら自身にはどうにもできないことなのだ。
そんな人生の悲喜が映像を通して静かに浮かび上がってくる。優れたドキュメンタリーである。
しかし実習先で慣れない生徒たちの「実験台」になる患者はよくおとなしくしてるなあ。日本だったらキレる💢中高年で怒鳴りまくりそう(ーー;)
子細を見せているのに、生徒や教員の名前や個人情報は一切出てこない。徹底さに感心。
パンフレットから監督の言葉を引用している人がいて、それに感心したので以下にさらに引用させてもらう。
「初めてカメラを手にしたとき、私はプロのカメラマンよりも“綺麗”で素晴らしい映像を撮ろうと考えたのではなく、映す範囲(フレーミング)を制限しようと考えました。すべてを見せたいという誘惑に負けないためです。」
「フレームやカメラの中に収めるもの/収めないものの境界線は美的な問題だけでなく、倫理的、政治的問題でもあるのです。」
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