« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »

2020年7月

2020年7月31日 (金)

「ジュディ 虹の彼方に」:スタア再生

200731 監督:ルパート・グールド
出演:レネー・ゼルウィガー
米国2019年

ジュディ・ガーランド47歳、この世を去る直前に行なったロンドンでのショーを中心に、彼女の境遇と最後の日々を描いている。
酷使され悲惨だった子役時代の回想が現在と交互に挿入され、なぜそのような状態になったのかを観客によーく分かるようになっている。

かなり泣かせる内容だ。特に二人組の部屋で歌うところで涙(T^T)
子役時代のエピソードはまさに未成年虐待だろう(さらにセクハラ、あるいは性的虐待も仄めかされている)。常に他人にコントロールされる人生で、その体験が彼女の内部を長年支配してきたことが、終盤のケーキのシーンに表れているようだ。想像するとツライ(>_<)

金銭的に困り、子どもたちと離れてツアーに出かけざるを得ず、ヨレヨレとして精神的に不安定、ロクでもない男に引っかかる--という状態のジュディを、レネー・ゼルウィガーは完璧に演じている。歌ってる場面にも説得力あるのがよい。
アカデミー賞をはじめ主演女優賞連続獲得は確かに納得の出来である。

最後をコンサート場面で盛り上げるのは最近の流行りなのかな(^^?
ミッキー役はロビー・ロバートソンに似ているような気がした。

原作は舞台だったそうである。となると主役の女優の独り舞台的なものになるのだろうか。ステージ上で実力が試されるシビアな作品となるだろう。舞台版も見てみたい。
美空ひばりのAI復活みたいなものでは絶対不可能である。

| |

2020年7月29日 (水)

映画落ち穂拾い 2020年前半その2

「アップグレード」
監督:リー・ワネル
出演:ローガン・マーシャル=グリーン
米国2018年

DVD鑑賞。久々に出会った「よくできたB級SF」だった。
とある夫婦がある日何者かに突然襲われ妻は死亡、夫は首から下が麻痺してしまう。彼はAIによって体を動かし復讐を始める。元の身体よりも遥かに能力が発揮できるし、情報網にも接続できる。
近未来という設定で警察はかなり無能で役に立ってないという前提である。

意表を突く展開に目を離せない。そう来るか(!o!)という感じ。アクションシーンもよく出来ている(グロだけど)。低予算なのをアイデアで見事に克服していた。見終わった後は満足であった。

ラストが主人公にとってハッピーエンドだという意見をみかけたが、かなり微妙だろう。確か昔のTV『スター・トレック』にも似たような結末があって、それはハッピーエンド扱いだったけど……どうなんですかね。
あとお母さんのことが心配よ(*_*;

AIの「ステム」の声はかなりHALを意識していたようだった(^^;
本作の出来が良かったせいか、監督(脚本も担当)は『透明人間』をやることになったらしい。


200729a「さよならテレビ」
監督:土方宏史
日本2019年

劇場公開もされるようなドキュメンタリーをいくつも作ってきた東海テレビ、その開局60周年記念番組がオリジナルである。30分ぐらい追加シーンを付け加えて劇場版にしたとのこと。

TVの報道番組の実際をかなり赤裸々に描いている。営業がらみの取材(実際は宣伝)コーナーや、他局の視聴率を毎回チェックする様子、派遣で来た若者をリポーターにして料理を食べるのをダメ出ししながら撮影とか……。
そのような内幕を見せた最後に、さらにもう一つウラを見せる。これがドキュメンタリーのやり方なのだ!と驚かせる作りだ。

ただかなり長くて整理されてない印象の所に「これが真実だ」と言われても、ゴチャゴチャしていて衝撃が薄れるのであった。
同業者は「ここまで見せるか」と思うかもしれないけど、部外者は「はあ、そうなんですか……」という感想である。

やっぱりドキュメンタリーは編集が命なんだなあ、という印象を強くした。


200729b「ザ・バニシング 消失」
監督:ジョルジュ・シュルイツァー
出演:ベルナール・ピエール・ドナデュー
オランダ・フランス1988年

DVD鑑賞。見ている間中イライラして、見終わった後はさらにイヤ~な気分になること請け合い💥、30年前に作られたサスペンスである。
オランダ人カップルがフランスを旅行中に、突然女の方が行方不明となる。その後、早々に犯人を登場させてしまい、時間をさかのぼって彼が平凡な家庭生活を送る様子を描いたり、犯行の「予行練習」を行うところを見せるのであった(>O<)
そして事件後数年して今度は残された男の方に接近する。

主人公の男に「なぜそこで行く」と言いたくなるが、これはあまりにイヤなのに見るのを止められない観客の心境と同じなのか。
女がつたないフランス語で喋る場面にとことんゾッとした。
あと最後に男の靴下に穴が開いている場面は驚いた。普通はそんな靴下使わないだろうよ。

でも、こりゃもしかしてロマンチックな話なのかな(^^? だって結局二人の夢が実現したんだからさあ……。
同じ監督によってのちにハリウッド・リメイクされたそうだけど、そちらの方はハッピーエンドらしい。
なお監視カメラがよほどの田舎でない限りどこにでもある現在では、成立しにくい話である。

| |

2020年7月19日 (日)

「ハスラーズ」:女たちの悪だくみ

監督:ローリーン・スカファリア
出演:コンスタンス・ウー、ジェニファー・ロペス
米国2019年

リーマンショック後の不景気で立ち行かなくなったストリップクラブのダンサーたちが、ウォールストリートで金のありそうな男から金をかすめ取る--という「女たちの悪だくみ」(あるいは復讐)の実話である。

構成はコンスタンス・ウー演じる主人公が2007年からの出来事を2015年に記者に回想して語るというものだ。
ストリップクラブというとステージ上で踊るのを見るのかと思ったら、それだけではなく客の男の身体の上ですりつけるように踊るのである。知らなかった(!o!) さらに個室に行ったら何をしてようが店は不問、てなこともあるらしい。

新入りで入った主人公が先輩のラモーナ(ジェニファー・ロペス)のダンスに魅入られる場面はまさに圧巻としか言いようがない。御年50歳とは信じられねえ~。
その場面だけでなくロペスの豪快演が見ものである。「男が男に」ならぬ女が女に惚れるたぁこういうことか✨という冒頭から息をつかせず、見ごたえ満点だ。

主人公とラモーナは疑似姉妹関係を築くが、バーに来た男たちから財布の中身を頂く方法は完全に犯罪である。グループのメンバーを増やし荒稼ぎするうちに、女たちの連帯もグズグズと崩れ去る。背景に経済格差が断固と存在することが描かれる。
しかし敗けつつも感動を与えるのはこれまた確かだ。

ロペスがオスカー候補から漏れたのが話題になったが、確かにダンスシーンだけでも大迫力。そして後光の如く放たれる〈姐御〉オーラ\(◎o◎)/!
彼女はインタビューであのポールのダンスの練習が大変だったと語ってたが、私なんかしがみついたまま1センチたりとも動けないに違いない。(小学校の体育で登り棒が苦手なヤツであります)

ダンスシーンをはじめ当時の曲が多く流れるが、ショパンの使い方がうまかった。
客席は白髪頭の高年男性と若い女性という二層に分かれていた。明らかに見る目的が異なりますな。

それから、被害にあった男性の名前の後半にピー音が入っていたのはなぜだろう。字幕も伏字になってたし。公開された後に訴訟か何かあったのか。謎である(?_?)

| |

2020年7月17日 (金)

「大塚直哉レクチャー・コンサート 4 バッハの生きた時代と”平均律”」:脳内ブラボーを送る

200717a 会場:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
2020年7月5日

なんと4か月ぶりのコンサートである(感動の涙)。
しかし、さい芸でも再開初公演(多分)なので感染防止策は厳しかった。マスク着用、検温あり、連絡先提出、チケット半券は自分でもぎる、プログラムは自分で取る、クローク・ビュッフェ・物品販売なし、もちろんブラボー禁止⚡である。
座席は以前に一度発売したものを市松模様に配置しなおして、郵便で連絡したという--ご苦労様です。
ただ左右前後に人がいないのはかなりのストレス軽減効果があった。始まってからタブレット端末で楽譜見てた人がいたが、離れていたのであまり気にならなかったですよ(^▽^;)

さて内容の方は前回「平均律クラヴィーア曲集」第1集が終了したので、今度は第2集に突入。1~6番をやはりオルガンとチェンバロで弾き比べていく。
今シーズンは毎回ゲストを招くもよう。この日は音楽評論家の加藤浩子だった。

よくよく考えると第1集はCD持ってるけど、第2集の方は果たして聞いたことあるかしらん(?_?)という程度の知識である。
前半は間に加藤氏のスライドを使ってバッハの暮らした街を時代順にたどり、後半は二人で対談形式のトークが入った。もしかして、ステージ上でもマスクをするのか💥などと思ってしまったが、さすがにそんなことはなかった(距離を間を2メートル以上取って喋るという形)。

この第2集は楽譜の決定稿がない。練習曲として息子や弟子に筆写させて弾かせた。同時代のテレマンにはそういう優秀な息子や大勢の弟子はいなかった。
バッハの作品は詰め込まれるだけ詰め込んで密度が高過ぎである。最後には必ず「集大成」してしまう--というのには笑ってしまった。

実際に聞いてみると第1集よりさらに複雑に情報量が増してきている印象……素人の感想であります。
とりあえず音のいい会場で生音を聞けてヨカッタ(^^)

同じ日に幾つか再開コンサートがあったらしい。某オーケストラの定演ではブラボーを叫ぶ代わりに紙に印字して掲げたらしい。それなら次は「ナオヤ~ッ💕」という紙を持っていこうか。
なお、プログラムにNHK-FMの「古楽の楽しみ」のリクエスト用カードが挟まっていた。よーしリクエストしちゃおうかなー(*^^)v でもラジオネームは別のにするぞ。
200717b

| |

2020年7月14日 (火)

「深井隆 物語の庭」

200714e
会場:板橋区立美術館
2020年3月14日~6月28日

本来は5月10日までだったのだが、コロナウイルス流行で中断し、終期を延長して再開となった。
行くかどうかグズクズしていたのを最終週にようやく行った。

展覧会の告知を見るまでこの深井隆という彫刻家を全く知らなかった。藝大の教員だったが、退任してから群馬と板橋にアトリエがあって活動しているとのこと。
木彫作品はクスノキを使用して作っているらしい。

200714d

中心はその木彫の馬や椅子の連作である。かなり大型のもので(馬は実物大?)鮮やかに目を引く。置いてあるだけで、その存在のささやかな圧が感じられた。空間を生かした配置のせいもあるだろう。
椅子は実際には座ることのできない幻想の椅子。あくまでも人間は不在だ。

200714b

 

会場に入ってすぐの小さな緑っぽい家や庭は、あくまで明晰で静かな印象だ。緑色の塗料が薄くなってところどころ木の地の色が見えるのがなんともよい。
何やら生とも死ともつかぬものが周囲の空気ににじみ出てくるのが感じられた。

小さな会場なのでじっくりと二度見て回った。
平面作品もあった。特に二匹の青い馬を描いた作品が美しくて引き寄せられた。給付金貰ってそれで買えるかしらん(゜゜)ナンチャッテ
代わりにポスターを購入。図録は--最近は買っても見ないまま放置してしまうことが多いのでパスした。

200714a ただ会場はやはり行きにくい。確か過去にそれを自虐ネタにした展覧会やってなかったっけかな(^^;? 駅からバスで往復するのと同じ時間で見て回れちゃうのはなんだかなあという気もする。

撮影可ということだったが、どうも会期中に撮影しまくり、シャッター音連発してうるさいというトラブルがあったらしい。周囲に配慮して撮るようにと注意があった。
確かに他の展覧会でも見に来たのか撮影しに来たのか分からないような人がいた。特にひどかったのは塩田千春展。撮影に夢中になって背後の作品の糸に引っ掛かりそうだった。

200714c

| |

2020年7月11日 (土)

「黒い司法 0%からの奇跡」:二歩進んでは三歩下がる

200711 監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:マイケル・B・ジョーダン
米国2019年

チラシの写真を見ると、マイケル・B・ジョーダン扮する若い弁護士が人種問題がらみの裁判で悪党をちぎっては投げちぎっては投げ--という胸がすくような実話を期待するけど全然違った。
まあ、監督が『ショート・ターム』の人だから当然と言えば当然だろう。青少年保護施設を舞台にしたあの映画では新人スタッフ(今思い返せばラミ・マレックだったのね)が早々にドジをする。

こちらの若手弁護士は失敗はしないが、色々な壁にぶち当たる。ウヨウヨと紆余曲折、なんでこんな事になるのか、法律も何もあったもんじゃねえという内容だ。壁にぶち当たって三歩後退して二歩やっと進む。
英雄的では決してなく、日常としての「今ここにある差別」に対処していく姿が描かれるのであった。

M・B・ジョーダンは順当にカッコよかっけど、主人公よりも二人の死刑囚と一人の囚人の人物像が迫力だった。
中心となる冤罪事件では、犯人にされたジェイミー・フォックスはこういうサエない普通の男を演じさせるとうまい。
またその隣室の死刑囚はずっと「なんであんな事してしまったのか」と苦しみ悶える。
そして執行当日に自分の好きな曲をかけてもらい「今までこんなに気遣ってもらった日はなかった」と語る言葉がかなり衝撃的だった。(某重大事件の犯人も似たようなことを言ってなかったか?)
それと最初の証言を翻して再証言する囚人役も目を離せない。残っている当時の本人のビデオを参考にしたんだろうけど、それにしても……である。

社会派や裁判もののファンだけでなく、『プリズン・サークル』に興味があるような人にもオススメしたい。

エンド・クレジット後半のギター曲が気に入ったけど、タイトル見損なったのが残念。その他、作中にも色々と当時(1980年代)の音楽が登場する。
なお、邦題は原作の翻訳書のタイトルをそのままを使っている。昔は黒人が主人公の映画にやたらと「黒い」を付けたけど、今はもう変えた方がいいんでは(^^?

| |

2020年7月 3日 (金)

【回顧レビュー】第3回北とぴあ国際音楽祭1997

200614t2 会場:北とぴあ
1997年11月19日~30日

平常が戻るまで昔の公演を振り返る。

この年はクリストフ・ルセが来日し、ソロとアンサンブル公演そしてラモーの「アナクレオン」の指揮をした。
代わりに寺神戸亮はオープニングのモーツァルト公演の方へ回ったのだった。

チェンバロ・エキジビションというイベントも行われ、国内の様々なチェンバロが集められて展示・演奏が行われ、チェンバロ祭りな年でもあった。
ウェスタン・ウィンド・ヴォーカル・アンサンブルが来日し合唱祭があった。他にA・リュビモフ、原田節など。

「アナクレオン」はナタリー・ヴァン・パリスが演出担当だけあって、特にダンスに力が入っていたと記憶している。コンマスは若松夏美だった。
ただこのオペラの「裏番組」になってしまった某鍵盤奏者がブチ切れたという噂があったが真偽のほどは不明である。

古楽関係では他にカナダ(多分)のグループ、ラ・ネフの「快楽の園」という公演があった。H・ボスの同名の絵画世界を南欧や中東の伝統歌曲、マショーやアグリコラの作品によって再構築したものである。
聖と俗が混在する極めて完成度の高いパフォーマンスだった。あまりによかったので、後にラ・ネフの同内容のCDを買ったが実演には遥かに及ばなくて、聞いてガックリした。

200614t3

| |

2020年7月 1日 (水)

聞かずば死ねない!古楽コンサート 7月版

今のところ、以下2公演の予定あり。この先はどうなるのか分かりません。
EUが入国制限解除するらしいので、これからはヨーロッパ圏からの来日はありですかね(実際は国ごとに対応を決めるらしい)。

*5日(日)大塚直哉レクチャー・コンサート4 バッハの生きた時代と”平均律”:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
*28日(火)ルカ・マレンツィオ四声のマドリガーレ(ラ・フォンテヴェルデ):近江楽堂 ♪4月1日公演を延期して開催

| |

« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »