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2020年8月15日 (土)

「レ・ミゼラブル」「ルーベ、嘆きの光」:生まれは双子、育てば別人

200815 「レ・ミゼラブル」
監督:ラジ・リ
出演:ダミアン・ボナール
フランス2019年

「ルーベ、嘆きの光」(「ダブル・サスペクツ」)
監督:アルノー・デプレシャン
出演:ロシュディ・ゼム
フランス2019年
*日本未公開、WOWOWで放映

『レ・ミゼラブル』はサッカー・ワールドカップの応援に沸くパリの街から始まる。熱狂して三色旗を振り回す人々--その中にアフリカ系の少年たちが混じっているが、彼らが無賃乗車して帰っていくのは近郊の犯罪多発地区である。

というドキュメンタリー的な冒頭からつかみはオッケーだ🆗
その街では複数の人種・民族によるグループが対立し、その間を警官が威圧するようにパトロールする。それは安全や秩序を維持するためではなく、権力を背景にした差別振りまく示威行動なのである。
他所から異動してきた刑事はそのやり方に違和感を抱くが、打開するのは簡単なことではない。

そして、悪ガキのいたずらに端を発してその危うい均衡が壊れ、一触即発状態へと向かう。もはや国家秩序自体が底辺からグズグズと崩れかけているのを、イヤというほどに見せつける。恐ろしい。
見たら絶対ドヨーンとした気分になるだろうなと思って行ったら、やっぱりドヨーンとなった。
さすがドキュメンタリー出身の監督、その場にいるような迫力に終始ハラハラドキドキしていた。血圧も上昇してたに違いない。

ラストについては、第三者の立場から見れば少年に対して「ギャーやめて~。投げないでー(~O~;)」と叫びたくなる。しかし少年の立場からすれば当然「投げる」。やらない理由はどこにもない。
でも、少年の方に同調してその行為に快哉を叫べるのは、自分が「やられない」側だと信じている者だけだろう。日本人の大人にそれに該当する者はいるかな(^^?
ああいうエンディングは結局、観客はその先に自分の見たいものだけを見るのだろう。

さて、驚いたのは映画に描かれた全てのシーンはこの地区の出身者である監督が実際に目撃したものだということだ(ラストも含めて)。
彼の立場はカメラ小僧の少年で(演じているのは実の息子らしい)、全三部作になるとのこと。次を見る気になるかどうかは、気力体力次第である。

もう一つビックリなのは役者に素人を多く使っているのにも関わらず、アドリブは全くなくほぼ脚本通りだという。畳みかけるような映像や編集のせいか、そんな計算されたものとは思わなかったので意外だった。

なお、この映画は朝日新聞の「働く」というコーナーで「映画配給」というシリーズに取り上げられていた。
邦題をどうするか迷った挙句(31も案があった)あえて原題のままに決めたそうな。「下手な邦題や副題を付けたら作品のニュアンスを崩す」から。
また監督はカンヌで審査員賞を取った後、買い手が殺到してネットフリックスからも話があったが断った。配信では不可能な、観客と交流することを望んだからだという。


『ルーベ、嘆きの光』は『レ・ミゼラブル』の後に見ると驚くこと請け合いである。
舞台であるベルギー国境近くにあるルーベという町は監督の出身地であり、フランス国内で最も貧しく住民の45%が貧困状態で、凶悪犯罪が多発するという。冒頭の字幕のメッセージには、作中の事件は全て事実だとある。ドキュメンタリー映画が原作とのことだ。
この町の警察に刑事が赴任してくるのが発端となり、彼を通して町を見ることになる。
そして主要人物以外は現地の住民を役者として起用している。

えっ❗これって『レ・ミゼラブル』とほとんどソックリじゃないですか(!o!)
しかしこれほどに成り立っている要素がかぶりながら、出来上がった作品は全くの正反対だった……なんでこうなるの?

作品のタッチは極めて内省的。うらぶれた街に起こる犯罪は車の保険金詐欺から放火殺人まで大小さまざまに起こるが、どんな犯罪であっても、さしたる激動もなく淡々と通り過ぎていく。
バックに時代遅れではないかと思うほどにクラシカルで流麗な音楽が流れるのが、それに拍車をかける。

新任の刑事は敬虔なカトリックだが神に祈っても効き目はないようだ。
移民出身の署長はオバマ似のアフリカ系で思索家のように見える。彼の家族がみな故郷の国に戻ってしまったと聞き、刑事が「なぜ戻ったんですか」と尋ねると「それよりなぜ私が残ったのかを問え」と答える。

例えここに善が存在しているとしても、夜のうらぶれた街へと吸い込まれていくしかないのだろう。
見ていて退屈に思う人がいるかもしれないが、心にジワジワとしみてくるものがある。私も歳をくったせいだろうか、『レ・ミゼラブル』よりこちらの方に引き寄せられるのだ。

本作はレア・セドゥがスッピンで出演してるのも話題になったらしい。彼女が演じているのは今や死語だが「はすっぱな女」、まさにこれである。
が、スッピンであれだけキレイなんだからやはり超が付く美人✨に間違いないだろう。もしフルメイクして豪華なドレスを着て現れたら、目がくらんで倒れ伏してしまうかもしれない。

このブログを書くのに検索してみたら、なんとつい最近『ダブル・サスペクツ』というタイトルになってソフトが出ていた。だがパッケージのジャケ写真や宣伝文句を見るとあたかもサスペンス映画……全く違~う(>O<)


さて、似ているようで似ていないこの二作はフランス国内の映画賞を争った(発表は今年の2月末)。一体、国内ではどのように比較されたのだろうか、知りたいものである。
『レ・ミゼラブル』はセザール賞12部門候補で4部門受賞。観客賞という一番ヒットした映画への賞まで取ったのは驚きだ。またカンヌ審査員賞獲得、アカデミー賞の国際映画賞候補。
『ルーベ』はセザール賞7部門候補で主演男優賞受賞。さらにこちらもカンヌのコンペに出品されたというのは、どういうことよ(?_?)
セザール賞の監督賞には両者ともノミネートされていたが、受賞したのはポランスキーで大騒動……なんかフランス映画界、波乱と嵐を求めていないか。

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