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2020年9月28日 (月)

「ハリエット」:聖女か闘士か紙幣の肖像か

監督:ケイシー・レモンズ
出演:シンシア・エリヴォ
米国2019年

米国で公開された時から「懐かしい(#^.^#)」と思ってぜひ見たかったものだ。
なぜ懐かしいかというと、子どもの頃小学校と中学校の図書館に新日本出版社の児童向け世界全集が入っていて(『世界新少年少女文学選』)、その中にこの映画の主人公であるハリエット・タブマンの伝記『自由への地下鉄道』があった。
それを気に入って、子どもなので何度も何度も繰り返して同じ本を読んだ。……とはいえ、××年も前の昔のことであり、内容はあまり覚えていない(^^;ゞ

時は19世紀半ば、ハリエットは米国中部メリーランド州の農場の奴隷だったが、南部に売り飛ばされそうになり脱走する。しかし逃げたままでではなく、奴隷たちを逃す「地下鉄道」の活動に参加。危険を承知で農場一帯と北部を危険を冒して行き来する「英雄」となる。
彼女はドル紙幣の肖像になることが決まっている(トランプは嫌がっているらしいが)ほどだ。

折しも米国から始まったBLM運動が世界を揺るがす真っ最中。意気込んで見に行ったのである。が、実際には歴史映画として社会構造に鋭く切り込むというような作りではなく、あくまで真面目な文科省推薦風「偉人伝」であった。教科書にそのまま載ってもいいぐらい……(・o・)
タイトル役のシンシア・エリヴォの顔力と歌声に引っ張られて見るような印象である。

恐らくは青少年が見てもいいように、農場主息子との関係が曖昧にしか描かれない(「大人は察してください」的)、ジャネール・モネイ演じる保護施設の女主人の描写が曖昧にぼかされているなど、物足りない印象がある。
とはいえ、年若い黒人の女の子たちはこの映画を見て勇気づけられることだろう。

初めて知ったのは、同じ農場の中に既に自由となっている解放された奴隷とそうでない者が混ざって働いていること。確かハリエットの夫も解放奴隷である。
あと「所有している奴隷の数で家の格が決まる」というのもオドロキであった。

史実を離れて見てみると『キャプテン・マーベル』『ハーレイ・クイン』と同じ構造を持っているのに気づく。すなわち「私に男の干渉も承認は要らない、所有もされない」だ。白人男はもとより同胞の男に対してもそういう態度を示す。
やはり同じくテーマは「女の覚醒と自律」なのである。

特徴的なのはかなり宗教性が強調されていたこと。彼女はジャンヌ・ダルクのように神がかりになって特別な能力を発揮し、象徴的存在として周囲からみなされる。
『自由への地下鉄道』ではそういう部分はなくて黙々と逃亡活動に従事していたように描かれていたので、こんな人物だったのかと驚いてしまった。

それから、黒人問題を扱った歴史ものだとこれまでメインキャラクターに一人ぐらいは「黒人を助ける善良な白人」が登場するものと思っていたけど、全く出てこなかったのは珍しい。(端役には登場する)
もはや「善い白人」は必要ないのか。あの、良い子には絶対見せられない恐ろしい『バース・オブ・ネイション』だっていたのに……。時代は変わったのであろうか?

ここにも最近流行の美男の敵役が登場。ハリエットにシツコク執着する農場主の息子は一部で人気のジョー・アルウィンが演じている。
白人の追跡者に協力する黒人の若者役(ヘンリー・ハンター・ホール)が若い頃のジミヘンを思わせる印象で注目だ。

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