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2020年11月

2020年11月23日 (月)

「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」:被害者からの脱出

201123 監督:フランソワ・オゾン
出演:メルヴィル・プポー
フランス2019年

フランソワ・オゾンがいつもの作風を封印✖ カトリック教会の聖職者による少年への性的虐待事件(実話)をシリアスに描いたものである。

とある司祭に虐待の被害を受け、数十年経過した後に告発した3人の男性をリレー形式に取り上げている。彼らは社会に広く呼び掛け、被害者団体を作って加害者の司祭だけでなく隠ぺいした教会をも告発するのだった。
だが、教会からは無視、社会からの反発など様々な困難が続く。

中年になって自分の妻や子どもに被害体験を明らかにするのは勇気がいるだろうが、身近な人の支えがなくては戦うのは難しい。そのようなジレンマがあるし、被害者も一枚岩ではない。
一人は信仰が揺らぎ、別の一人は団体のリーダーになって行動し、もう一人は完全に人生が破綻している。
さらにまだ一人いるのだが、彼は「仲間に嘲笑される」と告発に参加するのを拒否するのだった。

カトリック教会と言えば国境を越えた巨大権力組織でもあるわけで、それに対する闘いをあくまでも個人の視点から訴えている。
これらを淡々とじっくりした調子で描いていくから、所によっては単調に感じられるかもしれない。しかし、数十年間にわたる沈黙の意味と個人の煩悶を描き、さらに団体を作る経緯やその意義という面まで踏み込んでいるのはこれまでになかったことだ。
社会派作品として見る価値大いにあり💡

ところで、被害者は資産家が多いなあと思って見ていたら、加害の舞台となったスカウト活動は費用が掛かるので金持ちの子弟じゃないと参加できない、とのことである。なるほど……(;一_一)

 

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2020年11月21日 (土)

ヘンデル「リナルド」:戦わぬ主人公に勝利はあるか

201121 演奏:バッハ・コレギウム・ジャパン
会場:東京オペラシティコンサートホール
2020年11月3日

コロナ禍の中、BCJによる『リナルド』が上演された。指揮は鈴木優人である。神奈川でもやったが、私は初台の方に行った。チケットはだいぶ後に取ったので座席はかなり後ろの方。もちろんオペラグラス持参だ。
そもそもは海外から歌手を招くはずだったが、コロナウイルスの影響で全員日本人のキャストとなった。

過去にこの作品を見たのは、NHK-BSで放映されたグラインドボーン音楽祭でR・カーセンが演出したものと、昨年の北とぴあ音楽祭である。
そして忘れていた……というか他のヘンデル作品だと勘違いしていたっぽいのだが、2009年にもBCJが上演していたのだった。この時は演奏会方式で、歌手は衣装を着けていたが装置やセットはなしだった。

今回は「セミ・ステージ方式」ということでオーケストラの手前に簡単なセットがあった。一角にオタクっぽいスペース(?)があってそこがリナルドの部屋ということらしい。
オタク少年のリナルドが新作ゲームを購入、初回特典のアルミレーナのフィギュアを眺めてニヤニヤしつつ本編開始。
というわけで、十字軍の戦いはゲーム内の出来事で主人公はプレイヤーとして参加しているという設定なのだった。ホールのロビーには「バンダイ」ならぬ「ヘンデル」のゲーム・ポスターまで貼ってあった。

タイトル役は鈴木大地で安定感ある歌唱、森麻季はいかにも華やかなお姫様然としていて役柄にぴったりだった。アルガンテの大西宇宙は敵役らしく貫禄あり、魔女アルミーダの中江早希のユーモラスな演技と迫力ある歌声に会場は大喝采だった。特に一升瓶を振り回して暴れる場面は非常にウケていた。
しかしそのバックで鈴木優人&大塚直哉が2台のチェンバロで向かい合い、往年のヘンデルが腕を見せたであろうパートを引きまくっていたのを忘れてはならぬ。
鍵盤男子萌え~💕

コンミスは若松夏美、パーカッションの菅原淳がエラーい迫力で会場をギョッ💥とビクつかせていた。水内謙一はリコーダーの他に鳥笛(?)を吹き、さらに最後は鳥(長い針金の先につけた紙製のヤツ)まで飛ばせていたのはご苦労さんでした。

この演出では、リナルドはほとんど実質的には戦っていなくて「アルミレーナたん(^Q^;)ハアハア」とゲーム内をウロウロしているだけだ。実際に闘うのはゴッフレード&エウスタツィオ(久保法之&青木洋也)なのである。アルミレーナは仮想空間アイドルだから自分から能動的に動くことはない。
なので真の主役は敵方のアルミーダ&アルガンテとしか見えない。まあ、元々ヘンデル・オペラの主人公は情けないパターンが多いのではある。とはいえあまりにリナルドは空洞化してないか、という印象だった。

振り返ればグラインドボーン版では学園のいじめられっ子、北とぴあ版では童話に登場するような少年少女--だったからやはりリナルドは頼りなくても仕方ないのか。


オペラシティのコンサートホールはオーケストラ用で段差があまりなく、やはりオペラ向きではないと感じた。リナルドが座ってて何か持っているのは分かるのだがオペラグラスで覗いてもなんだか分からない。理屈で考えてゲームのコントローラーかと推測した。
それとゴッフレードが手に持っていた鎖の付いた物も不明(2階席なら分かったかも)。方位磁石だろうか?時計?

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2020年11月14日 (土)

「ランド」全11巻

201114a
著者:山下和美
講談社(モーニングKC)2015~2020年

2014年に連載が始まった『ランド』が遂に終了した。

舞台は江戸時代末期か明治初期ぐらいのように見える農村、そして名主の住む町である。きわめて旧弊で不可解なしきたりや禁忌が存在し、お告げに人々はおびえ、生贄を捧げ、互いを見張っている。
実際、「この世」の東西南北にはそれぞれ巨大な異形の神が存在して人々を監視しているのだ。

この世界には老人がいない。住民は50歳まで病にもならず運良く生きながらえるとそこで寿命となって亡くなり、彼方の「あの世」に迎えられるらしい。
そんな村に双子の女の子が誕生する。凶兆……。

そして、不意に全く異なる世界が外に存在することが明らかにされる。一体「この世」と「あの世」の関係は? そしてタイトルになっている「ランド」とは何を指すのか。

このように少しずつ異様な状況が見えてくるのだが、全ての謎が判明するのは最終巻に入ってからである。
その真相は正直なところ完全に想像の斜め上を行くものだった。読んで愕然「こ、こういうことだったのか(~o~;)」と口アングリだ。
長期連載で謎をほのめかした挙句、明確に片を付けずに期待外れで終了してしまうというパターンもある中、ここまで期待値以上というのは貴重だ。

一面としてはSFであるが、この閉鎖的な世界にあるのは全て現在の日本社会そのままの写し絵と言っていい。
大災害、疫病、偏見、格差、同調圧力、情報統制、大衆扇動--。
中でも「老人がいない」という状態は、まさに頭文字の大臣が「政府の金で高額医療をやっている。さっさと死ねるようにしてもらうなどいろいろ考えないと」と発言したその通りではないか。
無駄飯食いの人間を排除し、規範から外れる者を非難し、名指しされた者に皆で石を投げる。程度の差はあれ同じだ。

「この世」は社会の負の要素を集積したような世界なのである。そこで生きていくのは厳しいが、疑問を抱いたりしなければなんとかやれるかもしれない。
しかし、主人公の少女か疑問を抱いてしまったことで波乱が起こる。

どうして「この世」と「あの世」が存在しているのか。
なぜ「双子」なのか。
理想はどのように潰えていくのか。
それへの解答は痛烈で容赦がない。だが解答はあっても解決は果たしてあるだろうか。

鋭い社会と人間への視線がなければここまで描けまい。
ともあれよくぞ完結しましたm(__)m 「傑作❗」のタイコ判を押したい✨ペタッ


しかしラストの1ページは……それまでと違って、語っているのは作者自身だよね。なんとな~く不安が迫ってくる。

【追記】
長く引っ張った挙句にラストでガッカリというのの一番の例は、マンガじゃないけどTVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』だと思い出した(もちろん「オレはがっかりしていない」という人もいるだろうが)。あの時は、7年(?)かけて継続して盛り上がってきたのにラスト2回で地の底に転がり落ちてしまった気分になった。
『ランド』の終盤はその盛り上がりの期待を達成したどころか、さらに超えていたのであるよ。

201114b

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2020年11月 9日 (月)

「SKIN/スキン」:チクチク来る

監督:ガイ・ナティーヴ
出演:ジェイミー・ベル
米国2019年

白人至上主義者の若者の実話だそうである。今なおBLM問題密かに進行中、差別する側に焦点を合わせ密着して描いた本作はまことに時節に合っているといえよう。

冒頭に同じタイトルの短編(アカデミー賞獲得)が併映になってて、先にそれを見ただけでもう倒れそうになってしまった。内容は本編とは異なるのだがあまりにも驚異的な描写である。

その後にさらにプラスして本編2時間弱はヘヴィ過ぎだった。
少年の頃に白人至上主義グループのリーダー夫婦に拾われ、親代わりと思って活動してきた主人公。その身体には差別的なシンボルのタトゥーだらけだが、しかし心の方は段々と疑問を抱くようになっていた。

重苦しくて耐えられなくてつらい--このつらさを見続けるのは限度を越える。結末が前向きだからかろうじて救われるが、正直もう少しテンポよく短くしてほしかった(=_=)
それと、どうして主人公がグループを受け入れがたく思うようになったのかが描かれていない。(シングルマザーと出会う前から既に兆候があった)
差別主義グループを描いた映画としては『帰ってきたヒトラー』の監督の過去作『女闘士』の方が完成度は高かったかなあ。
ただタトゥー除去の場面は……絶句としかいいようがない⚡

ヴェラ・ファーミガが暖かくて冷たい矛盾した存在の「ママ」を好演。メアリー・スチュアート・マスターソンが出ていたのに全く分からず、後になって知ってようやくFBIか(!o!)と気付いた。
なおワンコ🐶が好きな人は見ないことをオススメする。

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2020年11月 8日 (日)

映画落ち穂拾い 2020年後半その1

「悪の偶像」
監督:イ・スジン
出演:ハン・ソッキュ
韓国2019年

政治家が息子のひき逃げ事件の隠ぺいをはかる(;一_一)……というのなら、政争サスペンスだろうと思って見に行った私が悪かった。

登場人物が全員モンスター化するという斜め上どころか異次元突入の展開である。暴力てんこ盛りの終盤に至って、これは社会派ものではなくて『コクソン』と同系統だと判明したのだった。
「全員怪物」って「全員善人」と同じくらい詰まらない状況だと理解していただきたい。
またやたら長いんだよなー。見終わってガックリしてしまった_| ̄|○

素朴な疑問→一人の人物の怪物度が後半に突出して明らかになってくるのだが、そんなだったら最初から逃亡しないで凶暴さを発揮してたらいいんじゃないの?


201108「グッドライアー 偽りのゲーム」
監督:ビル・コンドン
出演:ヘレン・ミレン、イアン・マッケラン
米国2019年
DVD鑑賞。

騙されるミレン×騙すマッケラン……💥 名優二人が丁々発止のコンゲームを繰り広げるのかと思ったら、実際は全然違った。
前半はともかく、後半はにわかに重苦しい内容になっていく。見ていてこんなはずではなかった感が押し寄せるのであった。

ネタバレするわけにもいかないが、色んな要素を詰め込み過ぎな印象だった。一つのアイデアから全体を構築する力業の技術がないからこうなっちゃうのかね。
役者の「それらしさ」に頼りすぎなのもどうかと思う。
まあ、ロードショー料金払って見なくてよかったな、というのが最終的な結論である。

「悪人伝」
監督:イ・ウォンテ
出演:マ・ドンソク
韓国2019年

原題通り(「極道、警官、悪魔」)にヤクザと刑事と殺人鬼の三つ巴の闘いである。
シリアルキラーを捕まえるために暴走刑事とヤクザの組長が協力するという発想はよし!と言いたいところだが、暴力の三乗で刺激が強すぎて私などは胃もたれが(^^ゞ
わんこそばならぬ「わんこから揚げ」のように、食べても食べてもシツコイから揚げが上から降ってくるようだ。

マ・ドンソク組長が超人過ぎて、比べると殺人鬼が小物にしか思えないのが問題。もっとも、あの組長の車をブチ当ててさらに狙おうとする神経自体が、イカレている証明と言えなくもない。私だったら地球の果てに逃走しちゃうよ。
終盤の、狭い路地でのカーチェイスはお見事であった。

謎なのは二人の私生活の描写が全くないことである。普通、組長にはケバい愛人が3人ぐらいいて日替わりで巡回。刑事には給料の安さを愚痴る悪妻がいるのがお約束ではないだろうか。
そういうのは一切出てこない。二人の相合傘💓のシーンはファンへのサービスですかね。

ともあれマ・ドンソクのファンは見て損なし🆗--と言いたいところだったが、平日の昼間で観客が少ないとはいえ、その中で女は私一人だった。
なんで(^^?

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