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2020年11月14日 (土)

「ランド」全11巻

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著者:山下和美
講談社(モーニングKC)2015~2020年

2014年に連載が始まった『ランド』が遂に終了した。

舞台は江戸時代末期か明治初期ぐらいのように見える農村、そして名主の住む町である。きわめて旧弊で不可解なしきたりや禁忌が存在し、お告げに人々はおびえ、生贄を捧げ、互いを見張っている。
実際、「この世」の東西南北にはそれぞれ巨大な異形の神が存在して人々を監視しているのだ。

この世界には老人がいない。住民は50歳まで病にもならず運良く生きながらえるとそこで寿命となって亡くなり、彼方の「あの世」に迎えられるらしい。
そんな村に双子の女の子が誕生する。凶兆……。

そして、不意に全く異なる世界が外に存在することが明らかにされる。一体「この世」と「あの世」の関係は? そしてタイトルになっている「ランド」とは何を指すのか。

このように少しずつ異様な状況が見えてくるのだが、全ての謎が判明するのは最終巻に入ってからである。
その真相は正直なところ完全に想像の斜め上を行くものだった。読んで愕然「こ、こういうことだったのか(~o~;)」と口アングリだ。
長期連載で謎をほのめかした挙句、明確に片を付けずに期待外れで終了してしまうというパターンもある中、ここまで期待値以上というのは貴重だ。

一面としてはSFであるが、この閉鎖的な世界にあるのは全て現在の日本社会そのままの写し絵と言っていい。
大災害、疫病、偏見、格差、同調圧力、情報統制、大衆扇動--。
中でも「老人がいない」という状態は、まさに頭文字の大臣が「政府の金で高額医療をやっている。さっさと死ねるようにしてもらうなどいろいろ考えないと」と発言したその通りではないか。
無駄飯食いの人間を排除し、規範から外れる者を非難し、名指しされた者に皆で石を投げる。程度の差はあれ同じだ。

「この世」は社会の負の要素を集積したような世界なのである。そこで生きていくのは厳しいが、疑問を抱いたりしなければなんとかやれるかもしれない。
しかし、主人公の少女か疑問を抱いてしまったことで波乱が起こる。

どうして「この世」と「あの世」が存在しているのか。
なぜ「双子」なのか。
理想はどのように潰えていくのか。
それへの解答は痛烈で容赦がない。だが解答はあっても解決は果たしてあるだろうか。

鋭い社会と人間への視線がなければここまで描けまい。
ともあれよくぞ完結しましたm(__)m 「傑作❗」のタイコ判を押したい✨ペタッ


しかしラストの1ページは……それまでと違って、語っているのは作者自身だよね。なんとな~く不安が迫ってくる。

【追記】
長く引っ張った挙句にラストでガッカリというのの一番の例は、マンガじゃないけどTVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』だと思い出した(もちろん「オレはがっかりしていない」という人もいるだろうが)。あの時は、7年(?)かけて継続して盛り上がってきたのにラスト2回で地の底に転がり落ちてしまった気分になった。
『ランド』の終盤はその盛り上がりの期待を達成したどころか、さらに超えていたのであるよ。

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