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2021年2月

2021年2月24日 (水)

「メイキング・オブ・モータウン」:音楽と産業、その深い仲

210223c 監督:ベンジャミン・ターナー
出演:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソンほか
米国・イギリス2019年

米国はデトロイトの地に発するモータウン・レーベル。創始者ベリー・ゴーディJr.がスモーキー・ロビンソンと共に爺さん漫才して笑わせつつ、その音楽とビジネスの歴史を語るドキュメンタリーだ。
ゴーディが頑固オヤジ風なのに対して、ロビンソンの喋り方がなんとなくオネエっぽいせいもあって対照的でいいコンビである。
テンポよく進み……進み過ぎて全く知識のない人には付いていけない可能性はあるけど面白かった。

基本的には「光と影」ではなく「光と光」を描いている。ヒット曲を製作する方法をデトロイトの自動車工場から学ぶという発想が語られる。
また天才少年時代のマイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーの映像が登場し、その輝きには目がくらむ。
一方、あの悪評ふんぷんだったダイアナ・ロス主演『ビリー・ホリディ物語』は名前が出て来たと思ったら、瞬時に通過であった。

70年代以降になると駆け足になってしまったのは、いかに「産業」を目指しても時代の変転についていくことは難しかったためか。それとも発祥の地デトロイトを離れたためだろうか。
それにしてもようやく今になってマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」をしぶしぶ認めるとはゴーディもとんだ頑固者である。

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2021年2月22日 (月)

「ダンサー そして私たちは踊った」:明日なき舞踏

210223b 監督:レヴァン・アキン
出演:レヴァン・ゲルバヒアニ
スウェーデン・ジョージア・フランス2019年
DVD鑑賞

個人的にはほとんどなじみがない国ジョージアが舞台。ジャンル分けしたら青春ものプラス、ダンスといったところか。
伝統的な民族舞踏があり、その舞踏団の研修生たちと同性愛を絡ませて、社会に充満する因習と閉塞感からの解放を描いている。
なので公開当時はかなり物議をかもしたらしい。ちなみに監督はスウェーデン系ジョージア人とのこと。

国立の舞踏団だというのに床は剥げてるし手すりは壊れてるし、本当に「未来はない」感が甚だしく伝わってくる。まさに青春の悶々……そのせいか若者たちはみなタバコ吸いまくりだ🚬(最近の映画では珍しい)

ただ挿入される伝統音楽は素晴らしい。ダンスの伴奏で奏でられるパーカッション、そして静かに加わってくるアコーディオンの響き。
さらに、誕生日の集まりに男たちが歌う美しいアカペラ曲。ブルガリアンヴォイスの男声版のようである。

主人公の青年は頭のてっぺんからつま先まで完全ダンサー体型、目が大きくて小顔である。実際に本物のダンサーだそうだ。
彼がヤケになって自室のポスターや何やらはがしまくる場面があるのだが、ヨレヨレになった『千と千尋』のカオナシのポスターだけ思いとどまるシーンがある。なぜにカオナシ?(ちなみに演じているご本人の私物だとか)
それほどまでに好きだとは……✨ 遠い異国まで達するハヤオの威力恐るべし。

あと見た人はみんな思うだろうが、バイト先レストランの肉まんとギョーザ足したような郷土料理食べてみたい(^^)

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2021年2月21日 (日)

「真夏の夜のジャズ」:真昼のヨットハーバーにモンクの硬質なピアノが流れるのだ

210223a 監督:バート・スターン、アラム・アヴァキアン
米国1959年

コンサート映画の名作としてよく知られるドキュメンタリー。これで4回目のリバイバル上映だそうだ。ジャズは門外漢なので今回初めて見た。
1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルに加え、同時期に行われたヨットのレース場面、そして風光明媚な港町の光景が並行して(バラバラに)収められている。

一番驚いた点は「なぜにチャック・ベリーが出ているの?」である。当時だとまだジャンル分けが緩いのだろうか。バックのベテラン・ジャズミュージシャンたちがノリノリで共演している。特にクラリネットのソロのおじさんがド迫力の吹きまくりだ🎶

その後のチコ・ハミルトンは一転して情念と沈思渦巻く演奏を展開して、これまた引き付けられる。それから昼間の緩い時間に登場したアニタ・オデイが強烈だった。
ルイ・アームストロングやマヘリア・ジャクソンは生きてる姿を拝ませてもらっただけでもアリガタヤ(^人^)という感じ。

聴衆の場面は、明らかに仕込みや別撮りが多そう。ファッショナブルな客についてはモデルや役者に頼んだのかしらん。夜の公演で踊っている場面もアヤシイ。それだったら演奏の映像をもっと入れてくれと言いたくなった。
ヨットの試合場面も中途半端な挿入だし、オシャレな映画を目指したのかね。

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2021年2月20日 (土)

「スウィング・キッズ」:前半よいよい後半はこわい

監督:カン・ヒョンチョル
出演:D.O.、ジャレッド・グライムズ
韓国2018年
DVD鑑賞

朝鮮戦争中、米軍が管理する捕虜収容所あり。対外メディア向け宣伝のために、捕虜の中でダンスチームを結成させて踊らせようとする。任務を任されたのはタップダンサー出身の黒人兵士である。
というわけで、定番『ロンゲスト・ヤード』風にまずダンスできそうなヤツをスカウトすることから開始だ。

デコボコなチームがなんとか息を合わせ晴れて踊りまくる--という感動系ドタバタコメディかと思って見ていると大間違い(!o!)
確かに前半は完全笑わせモードなのだが、後半は一気に陰惨で暗い展開に。こんな話になろうとは誰が想像したであろうか💥ってなもん。

しかも収容所が極めて変な設定になっている。北朝鮮側の捕虜が入れられてるのが、韓国側支持に回る者たちが現れ、二つのエリアに分かれて対立して暮らすようになる。
その中で互いにいがみ合おうと殺し合おうと管理者たる米軍は放置。外部のスパイがウロチョロしようと気にしない。それどころかとばっちりで米軍兵士が被害を受けても何もしないのである。

こんな収容所実際にあったのか?と思ったけど、これはまさに朝鮮半島そのものの状況を象徴しているのではないか。となればハッピーエンドになるわけもない。対立と混乱と死者だけが積み上がっていく。
気合の入ったダンスシーンは楽しいだけにつらい。

なお、兵士役はブロードウェイの一流ダンサーを招いたとのこと。エンドが出た後を注目するべし。

 

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2021年2月13日 (土)

「リコーダー・コンチェルトの夕べ」:笛吹く門には福来たる

210213 平尾リコーダー工房40周年記念演奏会
会場:石橋メモリアルホール
2021年1月10日

緊急事態宣言発令直後のこの日、不要不急だけど県境越えて聞いてきました(^^;
なんでもこの平尾リコーダー工房の記念演奏会は10年ごとに開催しているそうな。今回初見参であります。

5人の後期バロック作曲家のリコーダー作品を工房製作の様々な楽器を使って4人(山岡重治、太田光子、浅井愛、向江昭雅)が演奏という趣向。他にヴァイオリン高田あずみを初めとする弦楽アンサンブル、さらに朝岡聡の司会付きという豪華布陣である。

中でもヴィヴァルディは色々とクサされることが多い作曲家であるが、やはりノリがよくてこういう場では華やかで目立つ。太田光子の吹いた「ソプラニーノリコーダー協奏曲」は名人芸的演奏で拍手喝采だった。彼女は20周年、30周年の時もこの曲を吹いたとのことだ。
また、アンコールも同じく「フルート協奏曲」で全員総出の演奏でますますパワーアップしていた。

リコーダーと言えば忘れちゃならないのはテレマン。山岡&太田コンビで「2本のリコーダーのための協奏曲」、そして最後にリコーダーとフルートという珍しい組み合わせの協奏曲の2作品をやった。
ゲストで前田りり子が共演するはずだったが、病休ということで菅きよみが代打出演だった。

楽器の解説も入り、同じく製作家である山岡氏の息子さんも登場した。ホールの外は寒いが、リコーダー愛💓あふれる熱~いコンサートであった。市松模様配置座席だったが満席ではなかったのが残念。このご時世では仕方ないか。
また10年後の50周年もよろしくお願いしま~す(^O^)/

ただ、これまではずっと石橋メモリアルホールで開催してきたそうだが、ホールの閉館の噂が流れる中どうなるのだろうか。次回も同じ会場で出来るのか。
ここは音の良い中規模ホールで古楽向きなので、ぜひ存続してほしいもんである。

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2021年2月10日 (水)

「大貫妙子 Symphonic Concert 2020」

210210 会場:昭和女子大学人見記念講堂
2020年12月20日

フルオーケストラをバックに歌うのは4年ぶりである。(前回の感想はこちら
共演は、指揮は前回同様に千住明、そしてグランドフィルハーモニックトウキョウだった。

ター坊の曲をメドレーにした序曲から開始。ルグラン風の「グランプリ」はかなり人気の高さで大ウケであった。
しかも途中で坂本龍一がゲストとして登場である(聴衆盛り上がる)。なんでもニューヨークから来日して、自主隔離期間明けということだった。彼は「タンゴ」とアンコールで共演した。千住明は後輩ということで、やたらと恐縮していたもよう。

また、後半の冒頭は千住明の「還暦&音楽活動35周年特設コーナー」もあった。本来は独立した公演を予定していたらしいのだがコロナ禍のため中止、そこで今回のコンサートに間借りしたという。ドラマ版の『砂の器』のために作曲したピアノ協奏曲(抜粋)を若いソロピアニストが登場して演奏した。
ただ、聴衆の多くはクラシックのファンではないだろうから、熱演もちょっとモッタイナイ感じであった。

ター坊は海外での人気に加えアナログ盤再発など気運上昇中につき、かなりノッていた様子である。「ベジタブル」は新しいアレンジに変えていて意欲的だった。
それにしても、教授とトークしていると漫才みたいになっちゃうのは一体何なのよ(^^?

というように全体に盛りだくさんで、ゴージャスな響きを堪能した。
終演してから帰り道で「オーケストラすごい!シンセと違う❗」と大感動してた若い人がいて、やはり実物に遭遇するのは良いことだと思った。私も普段は古楽器アンサンブルをコソコソと聞いているぐらいなので、フルオーケストラを久し振りに聞くと圧倒される。
この日は2階席には人を入れてなかったようだが、U25に安く開放するなどしたら将来のファンを増やせるかも、なんて思ってしまった。

今回の座席は市松模様形式であった。感染を考えると安心度が高くなるのはいいが、広いホールにオーケストラ付きで、採算取れるのかしらん(◎_◎;)などと余計な心配をしたくなった。
入場が比較的スムーズだったのは検温しなかったからか。

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2021年2月 7日 (日)

ネトフリ温故知新「シカゴ7裁判」「Mank/マンク」

「シカゴ7裁判」
監督:アーロン・ソーキン
出演:サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン
米国2020年

「Mank/マンク」
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン
米国2020年

ネットフリックス配信前の限定劇場公開作品で過去の事件を知る。便利な世の中になったもんです。

今は昔、1968年8月にシカゴで民主党大会の際に暴動あり。どこかで聞いたような気が……と思ったら、シカゴ(←こちらはバンド名)がこれを題材に曲を作ってましたな。
ベトナム反戦運動がらみで警官隊や州兵と衝突👊、首謀者とされて逮捕されたシカゴ・セブンこと、7名の裁判は米国法廷史に残るほどの悪名高いものであった。

市民デモと公権力の対決となると、本作公開時にまだくすぶっていたBLM問題を嫌でも想起せずにはいられない。まさに時節にあった内容と言えるだろう。
共謀したと訴えられても7人は立場も所属する団体も思想も異なっていて、告訴されたという以外はバラバラである。そんな7人や関係者を演じる役者はまさに「豪華出演陣」と強調文字で書きたくなる。
ただ人物が多過ぎで名前が覚えられない事案が発生。老化脳でスマン(^^ゞ

特に皮肉とジョークで全てをはぐらかせていくホフマン(サシャ・バロン・コーエン)と、真面目な活動家ヘイデン(エディ・レッドメイン)は衝突必至の対照が面白い。トム・ヘイデンて聞いたことある名前だと思ったらジェーン・フォンダと一時結婚してたのね。
それと裁判官のフランク・ランジェラの超悪役ぶりも見事だ。

アーロン・ソーキンは脚本を書いてスピルバーグの監督で話が進んでいたが、結局ダメで自分で監督することになったらしい。
題材は興味深いし、脚本にも文句はないけど、正直言って「もし他の人が監督していたら……」なんて想像してしまうのも事実である。終盤の盛り上がりが怒涛の勢いになるはずが、感動するより先に観客を置いてけぼりにして、音楽がうるさいほどに盛り上がってしまうのはかなりの問題ではないだろうか。


210207 続いての『Mank/マンク』はオーソン・ウエルズの『市民ケーン』の内幕を描く--となれば、オールドな映画ファンは見ずにはいられないだろう。
とはいえ、私は『市民ケーン』自体は昔(●十年前)に数回見たきりである。今さら見返すのもなんだかなあということで、あらすじをネットで確認するだけの手抜き復習で見に行ってしまった。

内幕と言っても、基本的には脚本家のハーマン・J・マンキウィッツが一軒家に閉じこもって(怪我をして動けない)『市民~』の脚本を書く経過をたどるだけである。
彼が監督のジョセフ・L・マンキーウィッツの兄とは知らなかった。一応、ウエルズと共同で書いたということになっているが実際には諸説紛々らしい。本作ではハーマンが一人で書いたことになっていて、ウエルズはほとんど登場しない。

そして戦前のハリウッド事情、モデルとなった資産家とハーストとその愛人マリオン、MGMのメイヤー、大恐慌などについてハーマンの回想が交錯する。かなり暴露的内容なので完成前から噂が噂を呼ぶ。
それだけにハリウッドの歴史を知らないと分かりにくいだろう。要・事前学習(人名も多いし)である。

モノクロ画面で冒頭のタイトルから当時の映画のスタイルをなぞっているのは大変なこだわりだ。レズナー&ロスの劇伴音楽もそれっぽいし。画面にフィルム交換のマーク(だよね?)まで入れているのは笑った。
ただ白黒のコントラストが少なくて照明も暗いので、かなり不明瞭な映像である。その割にはスクリーン・サイズがスタンダードではないのは手抜きではないか。配信前提だからかな(^^?

ゲイリー・オールドマン演じるハーマンはかなりアクの強い人物である。アルコールが手放せず、反骨精神に満ち誰に対しても常に皮肉満載の辛辣な物言いをする。
主人公とそっくりな人物どこかで見た(アル中と家族への態度以外)……と思ったら『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』だった。こういうのが理想の脚本家像なのであろうか。

分からないのは、事前に脚本家としてのクレジットは無しというのを念押しされて頷いてたのに、結局なぜそれを翻したのかである。それに関しては描かれていなかったような。
また、本来の「バラのつぼみ」の意味を分かって書いていながら、マリオンに対して「君のことじゃない」とどうして平然と言えるのか。そりゃ無理だろう、と言いたくなる。
さらにこの映画が何を描こうとしているのかも曖昧としている。つまらなくはないけど。
私としては、ウェルズとハーマンが共謀して「ケケケ、やったぞ。ざまーみろ」とほくそ笑むような話が見たかったかな(^◇^)

当時の選挙と捏造ニュースの件りについては、トランプ政権下の米国を重ね合わせていることがよーく分かった。ただ、公開された頃には既に選挙でバイデン勝利が決まっていたために、ちょっと時機を逸した感があったのは残念である。


さて、『市民ケーン』についてケネス・アンガーの『ハリウッド・バビロン』にどう書かれてるか見たくて本棚から必死に堀り出した。
「新聞界のおぞましき帝王」ハーストとマリオンについては「周知の事実でも、一度として新聞は、その関係を報じたことはない」。

そして自分のヨットでマリオンとチャップリンがイチャつくのを目撃したハーストは銃を発砲。しかし撃たれたのは別の人物で、病死としてもみ消してしまったのであった。
また彼女の演技をけなしたメエ・ウエストには、風紀団体を隠れ蓑にして誹謗中傷を繰り返した。

L・B・メイヤーは「イタチのようにずる賢く、根っからの女好き」。
「金物屋」から成り上がった彼はボクシングの腕に覚えあり、シュトロハイムとチャップリンをぶん殴ってKOしたエピソードが載っている。

映画公開されて、作中の主人公があの言葉をつぶやくことが性行為(どういう行為かはご想像)を思い起こさせるためハーストは激怒した。しかし「ピストル沙汰に及ぶこともなく、オーソンとマンキーウィッツはなんとか勝利をくすねとり、カネでは買えない栄誉をものにした」とある。

そして「『市民ケーン』、映画史上に燦然と輝く悪ふざけ」と締めくくっている。
やっぱりハリウッドって所は……(◎_◎;)


ネトフリで温故知新--『シカゴ7』は劇場公開する予定がコロナ・ウイルスのせいで配信に回されてしまい、『マンク』はフィンチャー監督が父親が書いた脚本をなんとか映画化したくてネトフリでようやく可能に、と経緯は異なれど作品自体の「帯に短しタスキに長し」という印象は相変わらずであった。

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