「マーティン・エデン」:進むも後悔戻るも絶望
監督:ピエトロ・マルチェッロ
出演:ルカ・マリネッリ
イタリア ・フランス・ ドイツ2019年
原作は作者J・ロンドンで舞台は米国、それをイタリアに移して映画化したものである。
文字もろくに読めぬ無学な船乗りの若者がブルジョワ階級のお嬢様と知り合い、知識と教養を身に付けて変貌していく。作家を志して苦労の末に人気と富を得るが、結局は幸福ではなく虚無にとらわれるというストーリーだ。
港町ナポリを舞台にし全体に古めかしい印象で、見る者がネオレアリズモを想起するような画作りになっている。しかし、いささか変なところがある作品でもある。
突然脈絡もなくイタリア歌謡ヴィデオクリップ風な場面があったり、モノクロ記録映像が挿入されるのだ。
さらに時代が全く判然としない。冒頭、作家である主人公がオープンリールのテープレコーダーに口述で吹き込んでいるのを見ると60年代かと思える。前半はその彼が若い頃というのだから40年代末か50年代初めあたりだろうか。
だが戦後ではなく、第一次大戦と第二次大戦の間の出来事といってもおかしくない。
一方、令嬢宅で知り合った老紳士に連れられて行ったサロンは19世紀末っぽい退廃さを醸し出しているし、大時代的な決闘の場面に至ってはバロック期の仮面劇の扮装で登場する。
このような不明確な混乱した時間の描き方は『未来を乗り換えた男』を思い起こさせる。こういうの個人的に好き(^o^)
一人の男の変転にあたかもイタリア近現代史がミッチリと凝縮されているようだ。
無垢な時代を過ぎれば、当然ながら政治や階層格差も看過できなくなる。集会で組合活動を批判した彼は逆に社会主義者だと誤解され、令嬢の母親から敵視される。
後年、人気作家となった彼の前に再び彼女が現れるが……耐え難いほどに皮肉な展開となる。
いずれの時代であっても主人公は満足と幸福を得ることはできない。一つを得れば他の一つを失う。絶望と後悔が付きまとい、遂には無学で何も知らないままでいる自分の姿を夢想するが所詮は虚しい。そのような世界である。
だが、それにしては一体このラストはなに(^^? まるで安っぽい青春映画のようにベタ過ぎではないか。最後でこれはないだろう💥
と思ったけれど、他の人の感想を読んでなるほどと考え直した。右に移民家族、左にファシスト、そして戦争の始まりを告げる声……となれば、彼はああするしかないのだ。
やはり一筋縄ではいかない映画だった。
それにしても、主役のルカ・マリネッリである⚡
彼の吸引力はすごい。長身で精悍な身体、目ヂカラが強く、その容貌はある時はアラン・ドロン、またある時はヘルムート・バーガーに似て見える。時代を超越した無垢と退廃が矛盾なく同居している。久々に現れた「ブロマイドが似合う男優スタア✨」といえよう。あと往年の手書き映画看板にも映えそうだ。
まさに絶妙のキャスティング。彼なくしてこの映画も成立しないと思えるほどにハマっている。彼の存在自体が映画の手法である「時代の惑乱」を体現しているといえる。
ヴェネチア国際映画祭の主演男優賞を獲得したのもむべなるかな、だ。
おかげで見終わった後に「俳優の身体における表象」ということをつらつらと考えこんでしまった。単なる「見かけ」とか「外見」とは異なる話である。
ということで、いつになったら大型ポスターとブロマイド5枚組発売してくれるのよ~。もう待てなーいO(≧▽≦*)Oキャー
【追記】DVDで再鑑賞し、記憶違いの部分を数か所訂正しました。その感想を新たに書きました。
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