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2021年4月14日 (水)

「ウルフウォーカー」/「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」:異種族との接近遭遇

210414a「ウルフウォーカー」(字幕版)
監督:トム・ムーア、ロス・スチュワート
声の出演:オナー・ニーフシー
アイルランド・ルクセンブルク2020年

秀作アニメを生み出すアイルランドのカートゥーン・サルーン長編第4作目である。内容をかなり乱雑にまとめれば、アイルランド版「もののけ姫」といったところか。
絵柄が超個性的だ。中世絵画風の立体感なしに描かれる町の遠景や城内。対して森はケルトの渦巻き文様に彩られた生命にあふれている。

舞台は17世紀半ばの英国統治下のアイルランドの町である。周囲は人を拒む森林に囲まれ、森とそこに住む狼への攻撃はその支配の一環なのだ。
父親が狼ハンターでイングランドから街にやって来た少女は、半分狼の種族の少女と知り合い仲良くなる。敵対する立場だが、二人は共にここではアウトサイダーでもある。

主人公の少女は最初向こう気が強くて狼を狩る気満々なのだが、厳しい現実にぶつかって泣くしかない。しかし、さらに成長して変貌を遂げる。
父親は娘に森でなく城の台所(これがまた、森と違って陰々滅滅とした場所)に行くよう命じる。だが、子どもの自立を止めることはできないという事実を認めるざるを得ないのだった。

映像、ストーリー共によく出来ているが、難点はあまりに「もののけ」過ぎるところだろう。
ただ狼少女は「もののけ」みたいに美少女ではないし(野性味あり過ぎ💦)、絵柄やデザインが非情に独特で、日本の商業アニメとは一線を画している。また、シスターフッドが強調されているのは今風だ。
最初、少年少女だった組み合わせを少女二人に変えたと監督がインタビューで語っていたが、代わりに父親の方は「やはりそう来たか」という定番な展開だった。

ところで登場する羊が『ひつじのショーン』ぽいのは、わざとかな(^^?

過去の3作品『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『生きのびるために』(劇場公開名は『ブレッドウィナー』)は全てアカデミー賞にノミネートされているが、この作品もめでたく2020年長編アニメ賞ノミネートされた。


210414b「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」(字幕版)
監督:クリス・バトラー
声の出演:ヒュー・ジャックマン
カナダ・米国2019年

こちらは米国のスタジオ・ライカ新作。過去4作品のうち私が見たことあるのは『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』と『コララインとボタンの魔女』である。特徴は精緻なストップモーション・アニメだ。
なお、こちらは2019年アカデミー賞の候補となった。

ストーリーはインディ・ジョーンズ+『失われた世界』+『八十日間世界一周』というところか。
未知の生物を探す英国紳士の探検家がいざ遭遇したら、外見はコワいが人語を解し知識も教養もあった!--ということから、その仲間を探す旅に共に出る。世界一周とは言わないが半周以上はするだろう。

映像はCGかと思っちゃうほどの繊細さと大胆さである。風になびく毛や密林の風景、特に人の表情は生きているようだ。
冒険ものとしては定番の酒場での乱闘から氷の山のアクションまで、とてもストップモーション・アニメとは信じられねえ~。
芸が細かすぎてモニター画面なんかでは分からない。大きなスクリーンで見られてヨカッタ(^.^)

自己チューな主人公が生き方を変えるというのはよくあるパターンの話だが、中心となる3人(2人と1匹?)の付かず離れずの関係がよかった。
ただ折角たどり着いたシャングリラの描写(映像面ではなく)が物足りない。あれほど行きたかった割にはなんだか表面的にスルーしてしまったような。映像面は完璧な反面、『KUBO/クボ』も脚本がイマイチだったからそこら辺を補強してほしい。

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