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2021年4月21日 (水)

セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選:行列に並べば福来たる

210421a ロズニツァはベラルーシで生まれモスクワの映画大学で学び、現在ドイツ在住の監督である。過去にドキュメンタリー21作、劇映画4作を発表とのこと。
日本で彼の作品(比較的最近のもの3作)が一気に初公開された。

「国葬」
オランダ、リトアニア2019年

1953年スターリンが亡くなり、赤の広場で国葬が行われた。死の直後から公式映像が撮影されたのだが、なぜかお蔵入りになっていたらしい。残された大量のフィルム37時間分と国営ラジオ局の放送音声からロズニツァが当時の状況を再構成したものだ。

尺は135分だが、そのほとんどはスターリンの死を悲しむ大衆のプロパガンダ映像が延々と続く。
場所はモスクワだけではない。広いソ連の各地津々浦々に飛んでいる。様々な人々がスピーカーの元に集まって死亡の報を聞いて茫然とし、涙を流しつつ祭壇を作り献花する。

赤の広場では安置されたスターリンの遺体を参るために長大な行列を作り進んでいく。それがちょっとやそっとの長さではない。
よくあんなに行列を作って混乱が起こったり将棋倒しにならないなと驚くが、当時の東側特有の配給の行列慣れ(^^;なのか、それだけ統制されているからか。
シメはさらに大規模な国葬。軍も参加してここでも大行進が続く。

その間、字幕も撮影場所を示すぐらいで解説はない。ただただ人々の姿が圧倒的だ。ソ連が広大で多民族国家だったのも実感した。

映像はモノクロとカラーが混じっていて、極めて鮮明で驚く。さらに映像に重ねられた放送の音声、背景の雑踏や生活音も明瞭。後者は直接同時録音したものではないが、同時期のものをダビングしたらしい。経過した年月を考えると、相当の手間かけてブラッシュアップしたのだろう。

国葬の場面で、運ばれる棺の前を小さな赤い布団(?)みたいなのを捧げ持った軍人が十数人歩いている。一体何を持っているのかと思ったら、一個ずつ勲章を大切そうに乗せて歩いているのだった。
それを見て、しばらく前に行われたナカソネを送る会で祭壇に巨大な勲章(の模型?)が飾られていたのを思い出した。

個人崇拝の行きつく先は宗教と全く同じ形である。今それが鮮やかに立ち現れる。似たようなことは少し前の日本でもあったし(戦前ではなく)これからも起こる--などと考えてしまった。

ところで、弔問に訪れた若き中国人は周恩来だそうな。


「アウステルリッツ」
ドイツ2016年

こちらはベルリン近くの元・強制収容所を見学に訪れた人々をひたすら延々と撮ったいわゆる「観察映画」だ。

こういう場所を見学するのがダーク・ツーリズムというらしい。
事前に知らなければレジャー施設と思うだろう。晴れた夏の日なので人々の多くはTシャツ短パン姿。笑いさざめき自撮りに忙しい。門の外の混雑は休日の上野公園なみだ。建物内は芋を洗うが如し。長い行列に団体行動。解剖台や焼却炉を覗き込む。中には死者を冒涜するような行動をする者もいる。

固定カメラは施設ではなくもっぱら人々に焦点を合わせている。しかもモノクロだ(なぜにモノクロ……?)。
一か所だけ見る者が一様に沈鬱で困惑した表情を浮かべるのだが、そこに何があるのかは映画の観客には分からない。
字幕が付くのはツアーガイドの説明の部分だけである。しかも説明の声はアフレコしたらしい。人々のざわめきなどの環境音はダビングとのことだ。(加えて焼却炉場面は別の施設の光景とか)

全ての要素を並列して投げ出し、映画の観客に「さあ、どうだ」と言っているようである。しかしずっと見ていると虚しくなり疲労のみが溜まってくる。
とにかく場面転換も少ないので眠気が這い寄って来るのに要注意だろう。


「粛清裁判」
オランダ、ロシア2018年

世評では三作のうち一番面白いと言われていたが、個人的に眠気度最高値💤だったのがこれだっ(>O<)

1930年スターリン独裁下のソ連、モスクワでクーデターの容疑で8人が逮捕される。
その公開裁判の記録映画が残っていたのを発掘し、編集したものである。これも映像がクリアなのに驚く。
オリジナルの方の記録映画は2時間半あったそうだが、2時間強に短くしてある。それでもかなり長~く感じた。

ソ連でのトーキー最初期の映画とのことだが、裁判の発言はともかく背景のざわめきや椅子の音はダビングらしい。それに対比するように市民の行進場面が付け加えられている。

裁判の容疑はクーデターを企てたということでいずれも地位の高い技術者たちだ。彼らが市民が埋め尽くす公開の法廷の場で弁明する。
彼らは容疑を認めているのだが、どうもその容疑も釈明も具体性に欠けていてひたすら謝罪に終始している。まるで懺悔大会のようだ。

スルスルと進行しながら実態のつかめぬ裁判の映像--問題はこれらの容疑が全てでっち上げだったということだ。裁判自体がプロパガンダだったのである。しかし、死刑判決が下されても被告たちは受け入れる。
その時の裁判長や検事を務める者の行く末(多くは悲惨な運命)も合わせてみると、スクリーンに浮かび上がってくるのは「闇」なのであった。


以上、結局三作皆勤してしまった。最初はそのつもりはなかったのだが(◎_◎;)
多分コロナ禍で外国映画の公開が滞っていたせいだろう。大作エンタメ映画が公開されていたら絶対そちらに行ってたに違いない。
見てしまったのは怖いもの見たさか。あるいはゾンビ愛好者がゾンビ映画を見に行くのと同じ気分なのか。
果たして私はロズニツァ監督に手玉に取られていたのだろうか。
得られた教訓は「大行列、目的が違えど並んでしまえば皆同じ」である。

パンフレット買ったけど1400円ナリでかなりの厚さ、単行本と言っていいくらいだ。彼の劇映画もどんなものか見てみたい。
210421b

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