「ヒトラーに盗られたうさぎ」:子どももつらいよ
監督:カロリーヌ・リンク
出演:リーヴァ・クリマロフスキ
ドイツ2019年
絵本作家であるジュディス・カーの自伝『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』を映画化したものである。
児童文学なので主人公は少女だが、必ずしも子ども向き作品というわけではない。
1933年、ベルリンで豊かに暮らすユダヤ人一家の9歳の少女、父は演劇評論家、母はピアニストという知識階級だ。しかし、ヒトラーの台頭を予見した父はスイスへ逃げることに決める。
この父親の決断は重大だったろう。というのもグズグスしていて国外へ脱出できず、結局収容所送りになったユダヤ人は多かったらしい。
都市の邸宅住まいから一気にアルプスの山の中へ。これがまたアルプスの少女ハイジそのまんまな豊か過ぎる自然の中の生活だ。
しかし、このままでは暮らしていけぬとフランスはパリへ--と思ったら不穏な情勢に。さらに英国へと移住する。それにつれて財産が尽きて食うや食わずの生活になっていく。
驚くのは少女と兄はその度に違う言語を学び、異なる習慣になじんで適応できちゃうことだ。さすがは子どもはたくましい。大人だったらそううまくはいかないだろう。
しかも、父親は食料を買う金にも事欠くのに、子どもたちに立派な教育を受けさせるために学費がかかっても良い学校を選ぶのである。価値観が違~う💥
そういや、なんでユダヤ人なのにクリスマスを祝うのかな(?_?)と疑問に思って見てたら、ちゃんと少女が父親に質問してましたな。
なぜヒトラーが「ももいろうさぎ」(少女が大切にしていた)を盗んだかというと、逃亡後一家の邸宅を含む財産を没収したからである。その中にウサギを置いてきてしまったのだ。
他にも、一家を見送った父の友人が後にユダヤ人の血が四分の一流れている理由で公職を追放されたりと、日常レベルで市民がどんどん追い詰められていく様子がよーく実感できた。
ただカロリーネ・リンクの演出はよく言えばオーソドックス、悪く言うと古めかしい。今一つ香辛料が足りない印象である。
父親役のオリヴァー〈帰ってきたヒトラー〉マスッチは『ある画家の数奇な運命』でのヨーゼフ・ボイス(をモデルにした役)同様に好演だった。
ところで邦題はなぜ「盗まれた」か「とられた」にしなかったのかね。絶対に後になって検索できなくなるに違いない。
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