「令和元年のテロリズム」
他の人の感想を見かけて興味を持ったルポルタージュ書である。
平成31年=令和元年に起こった4つの事件を取り上げている。「川崎殺傷事件」(R元年5/28)、「元農水省事務次官長男殺害事件」(同6/1)、「京都アニメーション放火殺傷事件」(同7/18)、「東池袋自動車暴走死傷事故」(H31年4/19)。
読み始めて衝撃だったのは、第1章の川崎の殺傷事件(スクールバスを待つ小学生・保護者などを襲撃)は20人もの被害者を出したのだが、私は事件以降スッパリと完璧に忘れていたことだ。
そういえば、確かにその事件あったな……と思い出した自分がイヤ~ッ(><)
この事件と長男殺害事件は明確に関連がある。同じような事件を長男が起こすのではと恐れた父親が正当防衛で殺害したのだ(と自身が動機を語っている)。
第4章は後者の事件の裁判傍聴記となっているが、一番驚いたのは同じ家にいた母親が犯行後に「事態を察し」て荷物をまとめてタクシーに乗りホテルに避難した、という件りだった。「ええー(!o!)」てなもんである。
第3章は説明も必要のないであろう京アニ事件である。
著者はこの三件の事件を広義のテロリズムと解釈している。すなわちその「恐怖が社会に対して影響をもたらす犯罪」である。そして改元時に起こったこれらの犯罪の加害者二人と被害者一人について、共通のものを見出そうとしているようだ。
居住地は川崎、練馬区、さいたまということで実際に現地を訪ねて取材している。
しかし世代が近いとはいえ彼らの生育環境や階層はかなり異なるし、その土地の雰囲気は何も語らないであろう。果たしてそこに関連あるのか。著者(および読者)の勝手な思い込みが生じているだけと思えなくもない。
ただネット上での反応は苛烈なものがある。かつて昭和時代にあったようなある種、犯罪に対するロマンチシズムのようなものは存在しない。
唯一平成の元号下に起こった池袋の暴走事故の、加害者に対する根拠なき陰謀論めいたネット論議が沸騰した。そのことが現状を示すようだ。
いずれの事件も原因は明確にならないまま通り過ぎていく。ネットを騒がせるネタとして消費されただけに終わらないように願う。
そういえば、つい最近起こった小田急線刺傷事件の犯人は登戸駅から快速急行に乗り換えたそうな。「床にサラダ油をまいて火をつけようとした」というのは明らかに京アニ事件を思い出させる。やはり悪意は伝染するのか。
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