「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」:歌と共に時代あり、時代の陰に政治あり
ロック年表などというものがあるとしたら1969年の項にはウッドストックの野外コンサート開催と太字で書かれるだろう。
一方、同じ年にこんなことがあったのは知らなかった(!o!) ニューヨーク、ハーレムの公園で6週間にわたり無料コンサートが行われたのだという。しかも映像の記録が残されていたというのに映画にもならず長年放置されていた。
50年ぶりにその「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」の記録を掘り起こしたのがこの映画である。
当然ながらソウル、R&Bが中心だが、日によってはゴスペル、ラテン、ジャズなどとテーマを決めてやったらしい。それだけに多彩なミュージシャンが次から次へと登場する。
そして、参加ミュージシャンの立ち位置の紹介から、さらに当時の社会状況、政治情勢、公民権運動後における黒人の立場の変化、ハーレムという街の特徴を重ね合わせ時代と音楽を浮かび上がらせていく。
合間にその時実際に聴衆だった人々にフィルムを見せた感想や証言が挿入される。
ただし、これはコンサート映画ではない。あくまでも「コンサートについてのドキュメンタリー」なのでご注意あれ(^^)b
なので、最初から最後までかかる曲はほとんどないし、多くは曲にかぶせて回想や説明が入る。内容が政治や黒人社会に重点を置いているのは、それこそがこの無料コンサートが行われた重要な要因であり、果たした役割だからである。
そんな中で見どころ聴きどころは、マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズ(若い)怒涛の共演。迫力のあまり聞いてて椅子ごとひっくり返ってしまいそう。
ザ・フィフス・ディメンションは白人グループと誤解されることが多かったので、ぜひ出演したかったらしい。こんなカッコエエとは知らなかった。
スティーヴィー・ワンダーは天才ぶりを思うままに発揮している。これでまだ19歳とは信じられねえ~。既に大成している。ファンは必見だろう。
個人的には終盤のスライ&ザ・ファミリー・ストーンとニーナ・シモンが嬉しかった。
司会がスライたちの名前を出すとドッと聴衆がステージ前に押し寄せる(予定時間通りに始まったのかな?)。やはり突き抜けて先鋭的だ(でもなぜドラムが斜め読み向き?)。
もちろん当時同じようにファンク・サウンドを追及していたミュージシャンはいただろうが、グループが白黒男女混成というのは珍しいし(当時、ブラックパンサーから「なんで白人入れてるんだ」と非難されたとか)、煽っているようなクサしてるようなひねくれまくって360度一回転しちゃうような歌詞も好き✨
ニーナはピアノ弾き語りの毅然とした迫力に思わず拝みたくなっちゃう。アジテーションか音楽か、そのスレスレなまでに混然一体となったメッセージの強烈さが突き刺さる。ラストの詩の「朗読」にもグルーヴあり。
なお、エンドロールの後にオマケがあるのであわてて席を立たないように(^^)
これほどの無料コンサートを6週間も続けられたというのは、よほどの企画力というか資金集め能力がなくてはできないだろう。いくらコーヒー会社を後援につけたとしてもどうやったのかしらん?と謎に思っていたら、たまたま読んだ『ルート66を聴く』(朝日順子)という本にこう書かれていた。
「アメリカの市町村主催の音楽フェスは、無料か格安で参加できるものも多い。シカゴで参加したブルース・フェスティバルやゴスペル・フェスティバルは無料だった。」
な、なるほど……だからNY市長も出てきてたのか。日本では考えられない事である。
ところで、この映画を見て「音楽に政治を持ち込むな」と批判した人がいたそうだが笑止千万である。
音楽の方で政治を避けても、政治の方は決して音楽を見逃してくれないのよ💨
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