「ルート66を聴く」
アメリカン・ロード・ソングは何を歌っているのか
著者:朝日順子
青土社2021年
ルート66って名前はよく聞くが具体的には……よく分かりません(^^ゞ などと曖昧な知識しかないのだが、シカゴからロサンジェルスまで米国の3分の2ぐらいを横切る道路である。しかし、やがて州間高速道路のインターステイトが使われるようになってさびれてしまったそうな。(ピクサーの『カーズ』の背景はこれなのね)
イメージとしては、時代遅れの「各駅停車」といったところなのだろうか。
そのような道路沿いにミュージシャンたちが暮らし、あるいは移動する中で生まれたロード・ソング、それをたどっていくのがこの本の趣旨である。
著者は滞米歴が長いだけあって、その土地に根差した曲が生まれたエピソードがリアリティをもって浮かび上がってくる。
取り上げられているのは有名どころではドリー・パートン、チャック・ベリー、プレスリー、イーグルス、ボブ・ディランと幅が広い。
中にはオザーク・マウンテン・デアデヴィビルスなんて懐かしい名前も登場する。聞いたのは恥ずかしなから「ジャッキー・ブルー」ぐらいだが、ヒッピー・カルチャーを背景を持ったバンドだったのを初めて知った。
ザ・バンドに関しては、彼らの歌に出てくるような米国像は架空のものだという論(グリール・マーカスの説だとは知らなかった)が定番だが、著者は長い過酷なツアー生活の中でのリアルな体験や感情から生まれたものだとして否定している。
また、レーナード・スキナードのロニー・ヴァン・ザントが「素晴らしい詩人」というのは全くの同感である。「スイート・ホーム・アラバマ」がかつて(今も?)派手に「炎上」したのはその文才だからこそと言えるだろう。
大きな特徴として、一般に無視されがちなボストン、ジャーニーといった「産業ロック」(こんな名称考えたヤツは責任取れ💢と言いたい)のバンドも取り上げているのが嬉しい。
「ビジネスの規模にかかわらず作り手の情熱が無ければ、聴き手は耳を傾けないはずだ」
自宅の地下室で一人で黙々と宅録……というのは今だったら珍しくもないが、トム・ショルツは時代が早すぎた。「天才」とは呼ばれていたものの完全に「変人」扱いされていたよね。
その後のバンドのトラブルは、恐らく彼が地下室で作り出した音楽自体と「個人作業」のイメージのギャップが大きかったことによるものだろうか。
他には、50人しかいない客の前でピアノを弾き語りするレオン・ラッセルを5ドルの入場料で見て、その数年後エルトン・ジョンによってカムバックしたというエピソード。
また、ストーンズのライヴでキースが歌い始めると客のトイレタイムになる(^^;目撃談が印象深い。
中学生の頃から中古盤漁りしてエドガー・ウィンターのファンだった⚡という著者は「筋金入り」という印象である。一方で都会派やパンク、ニュー・ウェーブは興味がないようで、読者を選ぶ本ではある。
似たような内容でフー・ファイターズでが過去に映像シリーズ「ソニック・ハイウェイ」を出している。巡っている土地も結構重なっているのが興味深い。当然、取り上げているバンドは当然異なるが、取材に応じているベテラン・ミュージシャンはこの本にも登場する(例えばドリー・パートン、バディ・ガイなど)。
やはり米国の広大さが音楽の重層性を支えているんだろう。日本だと地域の差はあるとはいえ、そこまで行かないよね。
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