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2021年11月

2021年11月29日 (月)

「ヴェネツィアの冬」:秋の西麻布

211129 霞町音楽堂バロック・シリーズ第6回
ヴィヴァルディ9つのチェロ・ソナタ全曲公演1
会場:霞町音楽堂
2021年11月16日

チェロの懸田貴嗣監修のバロック・シリーズ、6回目にして初めて行ってみた。
6~8回はモダン・チェロで活躍する新倉瞳と共にヴィヴァルディのチェロ・ソナタを全曲演奏するという企画である。さらに日替わりでもう一人のゲスト参加があって、この回はリュートの佐藤亜紀子だった。

3回の公演で出版譜で出された6曲と近年発見された手稿譜の分を合わせて9曲を3曲ずつ演奏という趣向。元の6曲は新倉+懸田、手稿譜は懸田+為国健太という組み合わせである。
なお、出版譜についてはヴィヴァルディの真作かどうかはアヤシイというのは初めて知って驚いた。
休憩なしでもう1曲同時期の作曲家バッサーニのソナタも演奏された。

この会場は初めて行ったけどサロン風の小さな親密な会場なので(ドリンクも頼めます🍸)、それぞれの奏者の違いがチェロの弦の微細な響き自体に感じ取ることができた。
その点は良かったけど、リュートも含めて楽器の音がアンサンブルとして混ざり合うより前に、ダイレクトにこちらに押し寄せてくるという印象である。聞いててなんとなく緊張を感じてしまった。

近江楽堂が使えなくなったら、こちらの利用が増えるんだろうか。私のウチからは乗り換えが多くてちと面倒だった。六本木から行けば乗り換えは少ないけど今度は所要時間がかかるんだよねえ……。

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2021年11月23日 (火)

「コレクティブ 国家の嘘」:オールド・アンド・ホープレス

211124 監督:アレクサンダー・ナナウ
ルーマニア・ルクセンブルク・ドイツ2019年

ルーマニアのライブハウスでバンドが公演中に火災が発生、客が逃げ場を失って死傷者200人超の大惨事になる(2015年)。問題はそこで終わらず病院で次々に火傷の症状が悪化し、亡くなる人が倍増したという。一体何が起こったのか--その問題を追及するドキュメンタリーである。

冒頭、バンドの頭上で炎が燃え上がるスマホ映像が怖い。その後、前半は事件を徹底追及するスポーツ紙の取材班に密着する。「スポーツ紙」といっても東スポみたいなのじゃなくて、紙面は日本の雑誌「ナンバー」風でスポーツ界関連で社会問題を取り上げるような感じである。
それによって発覚したアヤシイ事案の数々、病院の不正と行政の責任。死人まで出てマフィアの関与も浮かび上がったのであった。
並行して、怪我から立ち直ろうとする被害者の姿も描かれる。

一転、後半は事件のため辞職してしまった保健大臣の代わりにピンチヒッターとして民間から登用された人物に許可を得て密着。
しかしスポーツ紙の記者には脅迫が来て、大臣には妨害と論点ずらしの攻撃が襲う。マスメディアもグルである。ん(?_?)こりゃどこかの国でも見たような。
カメラはひたすら追いかけていく。

結末は救いがない。
選挙は超低投票率(特に若い人)、結局「古くさい国」「希望のない国」なのをあからさまにしてに終わるのだった。
やっぱり日本と同じだ~(>O<)イヤーッ
でも、逆に「日本だけじゃないんだ🆗」ってホッとしたりして……。

そういう実情をあくまでも忖度なく、直截に描き切ったドキュメンタリーであった。

と思ったら--最近の監督のインタビューによると、その後若い人たちの意識も変化し改革を求める動きが出て来たという。
やっぱり日本だけなのか(´・ω・`)ショボ

アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート→結果『アナザーラウンド』が獲得。
同じくドキュメンタリー長編賞ノミネート→結果『オクトパス』。
残念でした💧
なお「コレクティヴ」とは火事になったクラブの名前。分かりにくい。

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2021年11月17日 (水)

「ミス・マルクス」:父の娘の夫の妻

211117 監督:スザンナ・ニッキャレッリ
出演:ロモーラ・ガライ
イタリア・ベルギー2020年

この映画を見るまで「マルクスの娘」のことは知らなかった!
彼には4人の娘と2人の息子がいたそうだが、他の子は幼い頃に亡くなったそうで映画内に登場するのは娘3人である。主人公は末っ子のエリノアだ。
彼女は政治・文学の才能があり、死後に父の跡を継ぐ存在となる……はずなのが、浪費家&プレイボーイのダメ男に引っ掛かったのが不幸の始まりであった。
そもそも妻帯者である上に浮気し放題、借金しまくりのためあきれてエリノアの友人たちも徐々に離れていくという次第。

彼女の社会活動家・フェミニストとしての面も描かれているが、映画の中心として描かれているのはこの疫病神っぽい夫(内縁の)との関係と葛藤だった。
なぜそんな関係を続けたのかというと、偉大な父親の影を相手の男に求めてしまうためのようだ。典型的な「父の娘」である。
夫をかばって彼なしには暮らしていけない姿は、一種の共依存のように見える。
ただ、作品内では彼はどうにも冴えない男にしか見えず、主人公を含めて複数の女を垂らし込んだほどの魅力があるとはとても思えないのが難である。

パンクロックをバックに流して威勢良さげに見せても、その真実は旧弊な「父の娘」から抜け出せなかったというのが結論とあっては、甚だしく落ち込む。「旧弊さ」に反抗しても、結局それに吸い取られていくのが女の宿命だと語っているようだ。

党の集会で演壇に上がっているのは男だらけで、女はエリノア一人--という場面が出て来て、今も昔も女の立場は変化がない(`´メ)と思わせる。
しかし一方で「親の七光り」と書いている映画評を目にした。確かに彼女がマルクスの娘でなかったら一顧だにされなかったろう。
そういう意味では「父の娘」であることは有効なのかもしれない。

それにしても伝記映画で、その人の業績よりも男女間や家庭のイザコザに比重を置いて描かれるのが多いのはどうなのよ💢 例えばジミ・ヘンドリックスを主人公にした『JIMI:栄光への軌跡』なんかその最たるものだろう。
逆に人生で波乱がほとんどなかった人物(例:バッハ)はどんな業績があろうと映画にはなりにくいのだ。

教訓:男の不実さに主義主張は関係なし
付記:エンゲルス、善い人過ぎ~💨

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2021年11月 9日 (火)

「帰ってきたひまな日曜日 第6回 古歌巡礼」:三度目の正直公演

211109a 演奏:つのだひろし&佐藤裕希恵
会場:松明堂音楽ホール
2021年10月24日

つのだひろしが新所沢の松明堂ホールで続けている「ひまな日曜日」シリーズ、今回初めて行ってみた。
といっても、本当は昨年の5月に開催されるはずだったのが、コロナのために2回延期になってこの日になったのである。この日のゲストは若手ソプラノの佐藤裕希恵だった。非常に小さな会場な上に間隔を開けて座るように設定されていたので、チケットは売り切れだったもよう。

「巡礼」と銘打たれているだけあって、中世歌曲の諸国巡りから開始。「聖母マリアのカンティガ」集(この曲だけリュートでなくウードを使用)、マショー、ランディーニと回ってから次はルネサンス編。
ダウランド、モーリーなど英国→フランス勢はランベール、ル・カミュ→最後はイタリアでサンチェス、メールラ。
アンコールはまたダウランドで英国に戻って終了となった。

佐藤裕希恵の凛とした歌声は小さなホールいっぱいに響き渡った。モーリーの他愛ない男女のイチャ付きを歌った曲からJ・ダニエルの夫の死を嘆く妻の歌への切り替えがお見事。
個人的にはランベールの亡霊めいた「愛しい人の影」がよかった。
もちろん、繊細かつ軽妙なリュートの響きも楽しめた。

合間のトークでは、老人力炸裂のつのだと若い生命力あふれるユキエの対話が笑わせてくれた。わざとつのだ氏がどーでもいいような質問をするんだよね💨
「留学中に何を食べていたか」とか「どんな場所に住んでたか」とか。それに対する「コメ」「納豆」という回答に「おお」とどよめく会場。
本当にひまな日曜であった(^^)

なお、二人が対面した(というより、見かけた?)のはなんとこの松明堂ホールとのこと。ロベルタ・マメリのマスターコースを開催した時だったそうだ。
211109b

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2021年11月 6日 (土)

「みみをすますように 酒井駒子展 もういちど」

211106a 会場:PLAY!MUSEUM
2021年9月18日~11月14日

立川にて宿願の酒井駒子展を見てきた。春にも開催していたのだが、コロナ禍で会期が短くなったのでこの秋に再展示してくれたのである。(追加作品あり)

初めて行った会場なのでよく分からなかったのだが、シールを渡されてこれを見える所に貼っておけば1日の内に何度でも入れるようだった。会場内でも付けてなければいけないのかな。とりあえず服の上腕に張り付けてる人が多かった。

多くの作品は絵本の内容に沿って連続して原画を見せる形になっている。
ただ、壁に掲示するだけじゃなくて木製の台の横や上面に設置しているものもあった。中には低いテーブルの天板にガラスをかぶせて置いてあったり……(テーブル脇の椅子に座って眺める)。

211106b

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中には絵本の内容に合わせた展示法も。『よるくま』の原画は黒いカーテンで周囲を囲われた暗いスペース内にあった。夜の気分🌙
また巨大ディスプレイで流す作品もあり(『ゆきがやんだら』だったかな)。

原画のほとんどは小さく、その小さいところにさらに繊細に描かれている。小さい子の髪がボワッとなっているところ、子猫のヒゲやウサギの頭のフワ~としてるところ、夜の闇のボンヤリしているところなどなど、穴が開くほど眺めてしまった(^^)
段ボールに直に描いている作品が結構な数あって、保存が効くのだろうかなどと心配になったり。
駒子ワールドにじっくりと全身浸れて嬉しかった💕

211106d 酒井駒子の絵は美しくて可愛くてホワホワしていてちょっと秘密めいていて、でも芯が一本シンッと通っているのだよね✨
そして、それら全ては現在の私にはない要素ばかりなのだ..._| ̄|○ ガクッ

平日の昼間なので、客は家族連れや子どもはいなくてほとんど女性ばかりだった。男は3人ぐらい見かけた。
図録は小型だけど分厚くて国語の辞書みたい。しかもハードカバーだ。4千円以上するので、迷った挙句買うのをやめた……が、今は激しく後悔している。
買えばよかったーっ(>O<)

代わりにポスターを購入。2種類あったので両方買うべきだった。880円ナリ。
カレンダー売ってたら絶対ゲットするぞーと意気込んでたら売ってなくてガックリだい。


なお同時に、1年間展示の「ぐりとぐら しあわせの本」も併設されていた。あのぐりぐらの世界が等身大(?)に再現されてその中で遊べるというもの。小さいお子ちゃまはこちらの方が嬉しいかな(^^?

巨大片手ナベにこんもりふくらんだ黄色いカステラも、もちろんある。カステラは小さいスポンジ製のかけらが詰まってて絵本さながら取り出してみんなに配れるようになっていた。
若い女の子たちがキャーキャー言いながら自撮りしていた。
オバサン一人ではただ眺めるのみである。無念。
211106e







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2021年11月 2日 (火)

「美男におわす」

211102a 会場:埼玉県立近代美術館
2021年9月23日~11月3日

埼玉の数少ない文化的施設である県立近代美術館にて「美男におわす」展を見てきた。
この美術館はトガった内容の展覧会が多いので(今回の前には「ボイス+パレルモ」展をやっていた)こんなとっつきやすい印象のテーマでやるとは驚きであった。

内容は近世以降の日本美術に描かれた美女ならぬ「美男」を追及するという、ありそうでないものだ。
展示物は近世の浮世絵、近代の日本画・挿絵、現代のマンガ(とゲーム)、現代アート作品からなっている。

特に浮世絵、日本画、挿絵に見る美男の系譜には思いのほか重点が置かれていた。ずっと辿っていくと、既に近世から近代にかけて市民の美男像が形成されているのが分かる。美術史的にも見ごたえがあった。
月岡芳年の描く美男を見ているとついニヤニヤ笑いが浮かんでしまい、マスクのおかげで周囲から見られずに済んでヨカッタ。

少女マンガのコーナーはそもそも美男が頻出するジャンルであるためか、竹宮惠子(ジュネ誌の表紙など)、よしながふみの『大奥』、『パタリロ』に限定されていた。

現代アート作品の多くは大作が最後の部屋に展示されていた。ただ、近世・近代の作品が数が多くリキを入れて見過ぎたので、たどり着いた時には疲労困憊してしまった(~_~;)
以前はこんなことなかったのに、トシは取りたくないものである。

211102b ここ数年の新しい作品が多く、初めて見る作家がほとんどだった。
目立つ場所に「肉食男」と「草食男」を対比して描いた木村了子のド派手で巨大な屏風が鎮座していた。肉食草食といっても恋愛のことではなく、文字通りの「食」である。
右側には派手な若者たちがヒャッハーと牛を追い回してその肉でバーベキューしている。反対側は農作業にいそしむ(でもなんかイヤらしい)若者たちがいる。こんな派手な屏風を購入して置ける場所が果たして日本に存在するのか、などと思ってしまった。
あと、なぜか朝日新聞の近藤康太郎記者を思い浮かべちゃうのは私だけかな(^^; 九州の支局で田んぼを耕し米を作ったかと思えば、次は山の中で猟師をやってる人である。

このコーナーでは「美男」の美をそのまま描くのではなく、距離を置いた位置から検証するような視線で見ているような作品が多かった。
もはや、美術において素直に美男を賛美することは不可能な時代なのだろうか。

他には、金子國義の「殉教」はイヤらしさが充満(誉め言葉)。舟越桂の人物像はどうもいつも静かに怪しい気を放っていて、今回も不気味に感じた。

図録を買おうか迷ったが、いつも買ってはそのまま読まずに放置してしまうから止めたのであった。


さて、失敗したのは美男展の方を見終わって「よし、次はコレクション展だーっ」と地下の展示場に突入💨しようとしたら「作品入れ替え中」で閉まっていたことであった。あまりの衝撃にそのままスロープの床に倒れた。
211102c
←宮島達男の作品は今日もコインロッカーの中でカウントしている。
しかし、美術館のサイトには何の記述もないのはどーしたことよ(ほかの常設作品についても)💢



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