「アンテベラム」:パニック!逆襲の奴隷農園(仮題)
監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
出演:ジャネール・モネイ
米国2020年
*後半にネタバレ感想があります。
完全ネタバレ禁止⚡作品である。
米国の南北戦争最中の頃か、黒人奴隷たちが農園で南軍兵たちに監視されつつ綿摘みをしている。映画はその一人の女性の日々を追う。
虐待を受け、理不尽な暴力を振るわれる。農園の一隅にある、燃え盛る炎をちらつかせる小屋がとても不吉だ。
一方、現代の米国で平和な家庭生活を送る社会学者にしてベストセラー作家の朝が並行して描かれる。冷静に社会を論じてマスメディアでも人気で大統領候補とも囁かれる彼女は、オプラ・ウィンフリーとナオミ・クライン(←白人だけど)を合わせたような人物だと言えるだろう。
ジャネール・モネイがこの両者を演じている。
この二つの隔絶した時空の謎はなんなのだろうか?……という答えが分かった時にナルホド❗やられた~と思うのは間違いない。
伏線が巧みに張ってあり、セリフも複数の意味に解釈できるようになっていて、それらがちゃんと回収される。お見事である。
それにしてもこりゃ恐ろしい話だ(>y<;)
製作年は2020年となっているから米国の議事堂襲撃事件より前に作られたのだけど、観れば明らかにあの事件を連想するだろう。不吉な予言のように思える。
前半の歴史・社会派スリラー調から終盤はバイオレンス・アクションになってしまって、落差が激しいという意見も見かけた。確かにモネイの暴れ方はやり過ぎ感が大きいけど、彼女の最後の咆哮に爽快感を感じたのも事実だ。やったれーっ( `ー´)ノ
以前、『ゲット・アウト』をDVDで見た時に特典映像に「もう一つの結末」があった。そちらの結末を選んでいたら現代社会の恐怖を描いたとして高く評価されたかもしれないけれど、代わりにあれほどはヒットしなかっただろう。そして、見て「快」を感じるのはオリジナルの方なのだ。
同様にジャンル映画として成立させるために強調する部分の、リアルさのさじ加減は難しいと言わざるを得ない。
とりあえずアマプラのTVシリーズ『地下鉄道』(バリー・ジェンキンズ監督脚本)、第2話まで見て止まってたけど早く続きを見ようと心に誓った。こちらはホラーではなく「純文学」的である。あと、やはりオクテイヴィア・E・バトラー読むべきかな。
以下、ネタバレ感想行きます。
★ ★ ★ ネタバレ注意 ★ ★ ★
映画の結末まで見た人だけお読みください。
「農園」はユダヤ人収容所を想起させる不気味な場所である。
火葬の小屋(窯をのように見える)の存在、また折角つんだ綿をわざわざ焼かせる作業(←これも伏線ですな)など。
連れて来られる黒人のほとんどは若い女であり、一部が知的な職業の男だ。もし「兵士」たちが単にアフリカ系を気に入らないというなら、ラッパーとかギャングのボスを連れてきて貶めてやってもいいようなもんだが、そういう選択をしないところに奴らの本質が透けて見える。
特に主人公は大統領になると期待されていた溌溂とした女性である。後から連れてこられた若い女が無抵抗でおびえる主人公を半ば非難するように「あなたはリーダーだと思っていたのに」というセリフでそれが示唆される。彼らはそのようなマイノリティの女の存在が許せないのだ。
ラストで彼女はやはり無抵抗のままに終わる人間ではないことが示される。
また、彼女は講演先のホテルで予約したレストランでひどい席に案内される。あるいはホテルの部屋はきちんと掃除がされていない。白人の友人の部屋はちゃんとしていたのに、である。
掃除の件は議員の娘が仕組んだことではあるが、これらは黒人の「日常あるある」ではないか。差別とは明言できないような小さな出来事でも、積み重なると神経を削られていくに違いない。
恐ろしいのはそんな小さなトラブルが「農園」と地続きに見えるということだ。つまり「陰謀」なのか「偶然の悪意」なのか区別が付かない。
多分、米国の黒人にとってはこれは決して絵空事ではなく、リアルな悪夢かつ恐怖なのだろう。奴隷制の復活はいつでも起こりうる。過去にあったのだから。
さて、もう一つレストランでの「ナンパ事案」はどうなんだろう(?_?)
私はてっきり誘った男(顔が映らない)が、議員のムコの奴だと思ったのだが違うかしらん。それとも単にガボレイ・シディベに息抜きのお笑いタイム💨を演じさせただけなのかな。謎である。
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