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2022年6月23日 (木)

「スティルウォーター」:全てを得て、全てを失う

監督:トム・マッカーシー
出演:マット・デイモン
米国2021年

「見ると聞くとは大違い」というのをまざまざと実感した一作である。
実際に見る前の、目にした予告や宣伝の印象だけだとこんなストーリーに違いないと思った。
《フランスに留学中の一人娘が殺人の嫌疑を受けて獄中に💥 米国オクラホマの田舎町に住む父親は怒り心頭に発し急遽フランスに渡り、言葉も通じぬ中で真犯人を探し回る。
ひょんなことから知り合ったシングルマザーの女性と衝突しながらも協力し、米国とは異なる制度の中で弁護士に食い下がり、マルセイユで不良と渡り合い、執念の調査を続ける中で遂に真実への糸口をつかむのであった--。》

こりゃ、よくある星条旗を背負ったアメリカ人が他国フランスに殴り込みかけて暴れるというパターンではないか。しかも主役がマット・デイモン(ジェイソン・ボーンを想起せよ)とあってはなおさらである。見る気な~し<(`^´)>
--と決め込んでいたら「そういう話じゃない」という感想を幾つか読んだ。そして考えを変えて見ることにしたのだった。

主人公は建築現場で働いているが不況で仕事は少ない。そんな中でも彼は定期的にフランスへ出かけては、数年前から収監されている娘と面会する。差し入れをして洗濯物を受け取り、弁護士に事件調査の進展状況を聞く。
娘を救おうとする地道な繰り返しに男の性格がうかがえる。食前には必ず祈り、他人との会話では丁寧に「サー」と「マム」を付ける。

しかし一方でフランス語をあまり覚えようとはせず、アメフトがスポーツの頂点でありサッカーなど児戯に等しいと考えている。平均的な保守派白人男性であり、選挙では当然トランプに投票する。
娘はそもそもそのような父親に反発して、フランス留学に行ってしまったらしいのだ。

長くフランスにとどまるうちに彼は異文化と接さざるを得ない。
応援するチームが勝ったにもかかわらずサポーターが暴れて火をつけるサッカー場。移民が多く、恐ろしい暴力と敵意に満ちた港町マルセイユ👊こわっ(>y<;)
知り合ったシングルマザーの女性にしても、マイナー劇団の女優であり排外主義を憎むリベラルな人物である。米国にいたら接点は全くない人物だろう。

やがて物語は驚く展開を遂げる。男の意外な真の姿も露わになってくる--いや、意外なことはないのだ。それは事前に全てあらかじめ告げられていたことなのだから。

あらすじを思い返せば確かに紆余曲折波乱万丈なのだが、淡々と話が進んでいくので全くそういう印象はない。だから余計にしみる。
すべての原因が結局主人公に帰していくのは見ててつらい。結末の後に思い返すと目がショボショボしてしまう。
指折り数えて人生で得たものより失ったものの方が多くなったような年齢の人間には、さらに心に刺さるものがあるだろう。静かなる力作と言える。

監督は『スポットライト 世紀のスクープ』のトム・マッカーシー。私はこちらの方が気に入った。次作に期待である。
主役のマット・デイモンについては、実はこれほどうまい役者だとは思っていなかった(すいませんm(__)m)。普段言いなれない皮肉をシングルマザーに向かって言おうとする場面とか。
そのフランス女性を演じているのは『ハウス・オブ・グッチ』で「愛人」役だったカミーユ・コッタンである。あちらではパッとしなかったけど、ここでは溌溂と魅力的で別人のよう。
娘役のアビゲイル・ブレスリン、なんと『リトル・ミス・サンシャイン』のあの子役がすっかり大きくなって✨ 私も歳を取るはずだわなー(+o+)


感想書くのが遅れて、ドタバタしている間にソフトが出て配信にもなってしまった。反省である。

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