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2022年7月25日 (月)

「大塚直哉レクチャー・コンサート バッハ"平均律"前夜」:少年老いやすく楽譜写し難し

220725a 月明りのもと書き写した楽譜たち
演奏:大塚直哉
会場:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
2022年7月3日

これまで7回に渡りバッハの平均律第1集・第2集をチェンバロとオルガンで弾き比べしてきた本シリーズも完了した。(1回目7回目
この番外編は時代をさらにさかのぼってバッハ先生の若い頃……どころか少年時代のバッハをオルガンとチェンバロに加え、クラヴィコードも使ってたどるという豪華版だ。

9歳の時に両親を亡くして、28歳の兄の下に引き取られたバッハ少年。有名な逸話として伝わっているのは、教えられた分だけではもの足らず、鍵のかかった棚に入った兄の楽譜を夜中にこっそり取り出して書き写したという。

まずその時に書き写された可能性が高い曲を大塚直哉が3台の鍵盤を使って演奏した。
後年、バッハとの演奏対決を直前に逃走したというエピソードが残るマルシャン、フローベルガー、ケルル、パッヘルベルである。
ケルルはクラヴィコードを使っての演奏だが数百人のホールではさすがにキビシイ。聞こえないということはなかったけど。
パッヘルベルのオルガン曲は良曲なのに録音があまり出ていないようなのは残念である。

さて、そこでゲストの羊皮紙研究家八木健治登場。しかし第一声が
「今日は羊皮紙研究家として来ましたが、実はバッハは羊皮紙を使ってないんです」
聴衆「な、なんだって~(>O<)」ドドーッ(←一斉に椅子からコケる音)

220725b では羊皮紙の代わりにどのような筆記具を少年バッハは当時使ったのか--ということで俄かに舞台上が実験室に変身、となったのであった。

代わりに使用していたのは古着を回収して作った手すき紙だそうな。インクはなんと虫こぶから作成(実際に製造過程をやってみる。仕上げは赤ワイン🍸よ)。
最後には照明を月明り程度に暗~くし、当時の紙、インク、羽ペンを使用してナオヤ氏が手稿譜を書き写してみるという追体験を行なったのであった。(一応書き写すことができた)

トークならぬ実験の後は当時のバッハ作品「最愛の兄の旅立ちに寄せるカプリッチョ」が演奏された。この曲はタイトルのせいだろうか有名だけど、なかなか実演で聴く機会は少ないので新鮮だった。あと、旅立った「兄」は実の兄のことではなくて「近所のおにーさん」らしいというのは初めて知りました(!o!)

これで前半終了したが既に1時間半近く経っていた。
220725c 続いて後半はやはり八木氏が登場して今度は専門の羊皮紙について解説。実際の道具など持ち込んで製作工程をたどって見せた。作るのに手間がかかるし、羊一匹でA4サイズ6枚しか作れないという効率の悪さ。しかも値段は高い。ただ丈夫なので楽器の部品・補強にも使われていたというのは驚きの史実だった。

その後の演奏は、バッハが「平均律」でテーマを借用したらしいフィッシャー、寄宿生時代に勉強したであろうベームの作品に続き、トッカータニ長調(BWV912)でシメとなった。

全体に普段あまり演奏されることの少ないバッハの先輩格作曲家たちの作品を色々と聞けてよかった。
レクチャー部分も聞きごたえ十分。毎度のことながら2200円は超お得価格であった。
手すき紙と羊皮紙の見本(小片だけど)貰えたのも良かった。
羊皮紙はかなり固いのでビックリ。手すきの方は厚めの和紙っぽい。実物に接しないと分かりませんなあ。


さて、まもなくさい芸は2年間の休館になる。しかしポジティフ・オルガンを使った企画を他のホールへ移動して続けるということで、一年後を予定しているらしい。一年と言わず、ぜひ半年後ぐらいにやってほしいものよ。
しかし会場がもし埼玉会館だったら……(;・∀・)ビミョー
2年もの間、埼玉は文化不毛の地と化すのであろうか💧

220725d

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