「ドンバス」:不道徳かつ不健全な真実
監督:セルゲイ・ロズニツァ
出演:タマラ・ヤツェンコ
ドイツ・ウクライナ・フランス・オランダ・ルーマニア・ポーランド2018年
今見ずしていつ見るか👀というテーマのロズニツァ監督作品、登場である。
ドキュメンタリー「群衆」三部作は面白いんだか面白くないんだか判然としないままに全作つい見てしまったのだが、彼が作る劇映画というのはどういうものなのか、一度見てみたいと思っていた。
それがロシアによるウクライナ侵攻によって急遽、緊急公開となったらしい(もっとも、そもそもはドキュメンタリー『マイダン』をやるつもりだったとか)。
内容はオムニバス形式で13のエピソードを円環状につないだもので、一部の人物が次のエピソードに登場したりするがほぼ相互関係なく続いていく。舞台は2014年から親ロシア派が支配するウクライナ東部ドンバス地方である。
いずれも実際に起こった出来事を元にしたというが、少し前だったら正直バカバカしすぎて「こんなんあるか👊」と信じがたい不条理な内容ばかりだ。でも最近のウクライナのニュース映像を見た後だと、ほとんどそのまんまなのである(゜o゜)
地下シェルターで暮らす人々、検問所、破壊されたバス、捕虜をいたぶる市民、フェイクニュース、突然襲う砲撃(音響がすごい)←特にこれは少し前に見た香港のジャーナリストが砲撃受ける映像が、ほぼ同じような感じだった。コワ過ぎである。
しかしながら、それらの出来事はブラックユーモアを混ぜて突き放して描かれていて、そこには社会性とかヒューマニズムとか感動の類いは何もない。そういうものを期待してはイカンのである。
結婚式の場面に至ってはただただ醜悪でバカらしい。しかも、新郎新婦役を演じているのが本物の夫婦だという……💨
一番イヤ~ッ(>O<)と思ったのは、取材に来たドイツ人ジャーナリストが兵士たちから「ファシストファシスト」と呼ばれた挙句「お前はファシストじゃなくても、お前のじーさんはファシストだったろ」と詰められる場面。
日本人も所と場合によっては似たようなことを言われそうかも(?_?;
逆に言えば、今回の戦争がなかったら果たして日本公開されたかどうか分からないほどの取っつきの悪い内容である(そもそも紛争の背景とか地理関係とかほとんど理解できなかったかも)。
ここまで人間の醜悪さを見せる作品であるから観客を選ぶことは確かだろう。心してご覧くだせえ。
なお、ロズニツァ監督はベラルーシ生まれで、ウクライナ育ち。学校を出て当地で働いていたが、ソ連崩壊後にモスクワの映画学校に入ったという複雑な経歴である(現在の本拠地はドイツ)。しかも母語はロシア語で名前もロシア語読みだという。
ウクライナ侵攻が始まった時にヨーロッパ映画アカデミーのロシアへの対応がぬるいと批判して退会を表明。
一方、ウクライナ映画アカデミーがロシア映画ボイコットを呼び掛けた際に、自国政府を批判するロシア人監督の作品まで含めるのはおかしいと異議を唱えたところ、こちらは除名処分にあってしまった。
さらに今年の秋に日本公開予定のドキュメンタリーは内容的にかなり問題作だったもよう。
「私はこれまでの人生で、いかなる共同体、グループ、協会、または、「圏」を代表したことはありません」(プログラムより引用)
しばらくロズニツァから目が離せないようである。
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