「PLAN75」:明日なき制度
監督:早川千絵
出演:倍賞千恵子
日本・フランス・フィリピン・カタール2020年
超高齢化社会の日本で75歳以上の安楽死推進法案が可決💥--という近未来SFぽい設定だが、脚本も兼ねている監督によると近未来の話ではないそうである。確かにSF的な要素もない。まさに「現在」なのである。
公共施設で流れる安楽死制度のCMを見ると、保険や投資の宣伝みたいで明るく前向きで……あまりに前向き過ぎるのがコワい。
富裕層向けのプランも紹介されるが、この制度の主要対象は貧しい身寄りのない高齢者であり、そちらの方向へ転がり落ちていくように社会全体の構造ができているようだ。
実際、現在の日本の高齢単身女性の半数が貧困状態にあるというから全くもってこれは絵空事ではない。
役所が行なう(多分)困窮者の炊き出し会場にもさりげなくブースが設置されて、高齢者が吸い込まれていく。しかも最後まで「いつでもキャンセルできますよ」と親切めかして付け加えるが、実際には選択した者の自己責任を強調しているのだ。
もっとも「実際には今の日本ではこんなちゃんとしたシステムは作れない」と書いている感想を見かけたが、私もそう思った。役所が直接担当せずに、怪しい団体が中抜きしてヨレヨレした仕様になっているに違いない。
主人公の78歳の女性は失業してから職を探すことができずプランへと追い込まれていく。身寄りのない年寄りには冷たい社会である。
主人公の台所が最初は洗剤やら調味料やら色々置いてあったのが、きれいに片付けられていくのが律儀な性格を表しているが、そのようにいくら誠意を尽くしキチンとした暮らしを全うしても無駄になるだろう。
一方、フィリピン人介護士のコミュニティはそのような日本社会とは対置して描かれているようだ。しかし彼女が「センター」で担当する所持品の場面は、ユダヤ人収容所を想起させゲンナリとしてしまう。
他に登場する若者二人は疑問なく淡々とプランの業務をこなしていくが、担当した相手を身近な人物として知ってしまえばもはや今まで通りには行かない。
合同葬儀の「おまとめプラン」(かな?名称忘れた)の真相にはヒエーッ⚡となった。
架空の制度に仮託して、現実の世界を明確に切り取って提示しているのは見事である。そしてラストの主人公は……私は世評に反して寂し~く感じたのだがどうだろう。
ただ、終盤の展開はやや強引過ぎるように思えた。それと役者の演技をじっくり撮ってみせて、観客になんらかの感情を引き起こそうとするタイプの描写は個人的に苦手なのよ。だから「あと15分ぐらい短くなるのでは」などと思ってしまったです(-_-;)
なお、費用節約のためわざと周囲をボカシて撮っているという批判をいくつか見かけたが、全てを明確に映さない作風でわざとやっているそうだ。
見ているうちにとあるマンガ作品を想起させる場面があって、もしかして影響を受けているのかしらんと思った。しかし、さらに後でTVシリーズ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』を見たらそちらにも似ている部分を感じもした。
主役の倍賞千恵子は演じている年齢より実際は上だとはとても思えない(!o!) あの年齢でスッピンでアップを撮られても、やはり元から美人な人は歳を取っても違うのだなあ👀などと感心してしまった。
この内容では日本で製作資金が集まらなかったのは仕方ない。しかし、カンヌで評価されて凱旋上映大公開なのはメデタイ(でいいのかな)。
映画館は75歳になったらお呼びがかかりそうな中高年が多数。私もそのうちお呼びがかかりそうです。イヤ~ッ(>O<)
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