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2022年9月

2022年9月28日 (水)

映画落穂拾い2022年前半編その2

220928a 忘れた頃にやってくる落穂拾い、書いてる本人も忘れています。

「白い牛のバラッド」

監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム
出演:マリヤム・モガッダム
イラン・フランス 2020年

冤罪死刑問題をテーマにしたイラン映画である。国内では上映中止になったらしい。
夫が死刑に処された後に冤罪が明らかになった未亡人のところに、夫の旧友を名乗る男が現れて親しくなっていく。
ところがその男の正体は……というとサスペンスぽいが、罪をめぐる人間の葛藤と構造的な社会問題を取り上げた作品だ。

彼女は障害児を抱えたシングルマザーでアパート入居断られたり、夫の親族が強引でもめるとか、冤罪が判明しても国側が賠償金出し渋るなどトラブル続きである。そこに立ちはだかる困難はイラン特有というよりは日本でも起こりそうな事案だ。
男はそれを親身になって手助けしてくれるのだった。

ただ、無理筋な展開を押し込めた感じはややぬぐえない。それと男の行動はあまりに自分勝手が過ぎるのでは?
それとラストをどう解釈したらいいのか分からなかった。見る人によって大きく異なっていて釈然としない。なんとかしてほしい(--〆)

一方、映像面では印象的なカットやカメラワークが多数登場。特に、あのカメラが道路を渡ってゆっくり戻ってくる場面はドキドキしてしまった。
でも一番怖かったのは、車を運転しながらCD探すところだった。いつ事故になるかとハラハラした。や~めてくれ~(>O<)

イラン映画で女性がスカーフ取って髪を全部出したのを見たのは初めてのような👀

220928b
「英雄の証明」
監督:アスガー・ファルハディ
出演:アミール・ジャディディ
イラン・フランス 2021年

もはや巨匠と呼ばれるファルハディ監督の新作、日本公開直前にケチが付いてしまった。
若い女性監督のドキュメンタリーを盗作したという疑惑が起こり、裁判沙汰になったのである。まだ係争中らしいが、アカデミー賞の候補に漏れたのはそのせいではないかなどと噂が噂を呼んだ。

取りあえずそれは置いといて\(^-^\) (/^-^)/ ←あえて昔の顔文字を使ってみた。

借金問題で受刑中の男が一時外出中に金貨の入ったバッグを拾う。そしてそれを持ち主に返したという美談がマスメディアで評判になる。
しかしその裏の真実は……嘘を一つ付けばそれを隠すためにさらに嘘に嘘を重ねて、様々な人を巻き込み肥大化して転がっていく。一体どう進んでいくのか先の見えない展開でハラハラしてしまう。

主人公の後先考えないプッツンぶりも悪いが、刑務所側もかなりひどい。かなり容赦なく描かれている。
また、そもそもこの事件が実際起こったことというのがまたビックリである。(世間で騒がれた事件なので、件のドキュメンタリーを盗作したわけではないという弁解も成り立つらしい)

ファルハディ監督の過去作に比べると今一つキレと余裕がないように思えた。とはいえラストシーンは極めて印象的だった。
子役の使い方は相変わらずうまい。息子だけでなく二人のいとこ役もよかった。主演俳優については口元がいつもニヤついているのがちと気に入らず(ーー;)

邦題については過去のレイフ・ファインズ主演作品に全く同じものがあるじゃないの。何とかしてくださいっ💢

220928c
「親愛なる同志たちへ」

監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ヴィソツカヤ
ロシア2020年

激動のロシア情勢、一体今見ずしていつ見るか~🔥という中で日本公開になったコンチャロフスキー監督作品だ。

スターリン後のフルシチョフ時代のソ連、食糧不足と賃下げにより工場ストライキが起こる。大規模な抗議行動は突然に流血の惨事に--という、1962年にウクライナ近くの都市で起こった虐殺事件を元にしている。
ヒロインはスターリン支持者だが現体制に忠実な共産党幹部、しかし娘は工場ストライキへ。一方年老いた父はスターリンをひたすら懐かしむ、という世代によって分断されている状況である。

軍は群衆に発砲をためらうが、KGBが陰で暗躍して事態は急展開する⚡
次々と銃撃される市民、集められる遺体、封鎖された街、迫力あり過ぎな描写で描かれている。現在のウクライナを想起させる場面も出てくる。怖い(>y<;)
スト参加の娘を探すうちに、主人公は自らの価値観が引き裂かれていく。

ただ、やはりロシア近現代史・ソ連史の知識がないと真の理解は難しいかも。それとKGB男が彼女にあれだけのことをしてやった理由が明確に描かれていなくてどうも解せない。
母娘のラストシーンをどう解釈していいのかも戸惑った。


なお、コンチャロフスキー監督とニキータ・ミハルコフ(プーチンの熱烈支持者らしい)って兄弟だったのか。初めて知った。また主役を演じるユリア・ヴィソツカヤは監督の36歳年下の奥さん、とのこと。

彼は朝日新聞のインタビューでウクライナをどうとらえているか、こう述べている。
《西欧と東欧の対立は何世紀にもわたる古い問題だ。西側のリベラルな哲学に誘惑されたウクライナ人に深い同情の念を抱いているが、彼らは東欧の人間で西欧の人間とは違う。》

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2022年9月21日 (水)

「NOPE/ノープ」:見られるうちに見よ

220921 監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ
米国2022年

※後半にネタバレあります。

今季注目作の一つ。公開前から一部で「IMAXで見ないとダメだ」と話題になっていた。はて(?_?)どんなもんだろうと思ったが、あまりホラー系は得意でない人間なので(実際見てみたらホラーではなかったけどな💥)余計に料金払って気に入らなかったら暴れたくなるに違いないので通常版にした。

最初の感想は「なんだかよく分からんけど、強烈で変な映画だなー」であった。
冒頭現れる過去のTVドラマでの陰惨な事件、唐突に紹介される映画史初期での黒人の存在--しかし一貫して舞台はLA近くの馬の牧場なのだ。もっともその馬は映画・TV出演用に飼育されているものである。

中心となる兄妹の人物造形が興味深い。妹は外交的で常にハイな感じ、牧場の宣伝は怠りないがフラフラしてて居所もよく分からない。一方、兄は内向的で口下手で鬱屈したものを抱えているようである。演じるD・カルーヤは帽子をいつも浅くかぶっていて、その頭部が伸びたイメージが生気のなさや投げやりでボヤーっとした印象を常に示している。
二人ともそんな言動や外見のため、未熟と成熟の間をフラフラと漂っているようだ。

で、彼らが突如意欲を燃やすのが近辺に現れる謎の飛行物体を撮影することなのだ。(なんで?)
そして、近所にある西部開拓テーマパークの経営者がからんでくる。(何の関連が?)
ITショップのオタクな電気工事士もなぜか参戦。(まあ、いいけどさ……)

かようにそれぞれの相互関係がよく分からないうちに話がサクサクと進む。その間にもオタクネタは頻出する。恐らく半分ぐらいしか理解できてない。「スコーピオン・キング」は分かるけど『トレマーズ』は見てないしな、とか。それ以外にも、背後に寓意やメッセージが隠されていそうだ。
一方、夜の牧場の光景、人形バルーン(ゆらゆら揺れてるヤツ)をはじめ不穏な映像センスは抜群である。

そして、強引ともいえる決着の付け方については「これでいいのか?」感と共に「一体何を見せられたのか?」という疑問が、ドトーのように湧き上がってくるのであった。
でも何やら見てて不明解な吸引力あるのは事実。そして社会問題や過去の歴史についてオタクなネタなはずのものを結びつける力業に感心してしまうのである。
そんな剛腕のピール監督は今後も目が離せないですよ(^O^)bナンチャッテ

 

 ★ ★ 以下ネタバレモードになります ★ ★


 ★ ★ ご注意ください ★ ★

 

ジャンル的には確かにホラーというより「動物パニック」映画という指摘は当たっているだろう。途中で未確認飛行「物体」でなくて「生物」だというのが判明して、それなら何故兄妹の農場周辺を縄張りにしているのかという理由も不問になる。
……だって動物なんだもん( ̄▽ ̄)

舞台が農場なので西部劇との関連も考えられる。しかし、意図的に「銃」は出てこない。普通だったら空に向かってライフルでもぶっぱなしそうなものだが、そういう方向には行かない。登場人物たちが構えるのが銃ではなくことごとくカメラの類いなのだ。
兄が厩舎に行って闇からサルもどき出て来た時に、彼はいかにも武器を出そうと探るがごとき動作で腰のあたりに手をやる。しかし実際に取り出したのはケータイで、そのカメラで撮影しようとする。しかもスマホじゃなくてそれ以前のガラホではないか(^^?

逆に言えばカメラもまた武器の一つであるということだろう。
終盤、妹の前に出現するネット配信社(でいいのか?)のカメラマンは鏡面のフルフェイス・ヘルメットをかぶり、さらにカメラを銃のように構えてこちらの視線を受け付けない。その禍々しさよ💀

さらに謎なのはIMAXで撮った作品なのに、劇中では結局「IMAXカメラは役に立たなかった(多分)」らしいことだ。ええー、いいのかそれで\(◎o◎)/!
飛行の瞬間にはフィルム交換で手間取ったりしてちゃんと捉えられたのかは明示されていない。カメラマン一人で突撃したのは結局どうなったのか。
どころか、「オプラ基準」の決定的瞬間は、テーマパークのポラロイドカメラの連射によって撮られたことになる。これじゃあ最新技術とは程遠い、映画史前夜の段階ではないの。

さらにラストに馬に乗った兄が登場することで、映画誕生の瞬間を黒人に取り戻したことになる。ハッピーエンドではあるが、なんだか映画マニア以外には盛り上がりにくいテーマではないだろうか💦

一つ問題なのはテーマパーク経営者の扱いである。東アジア系の彼はTVの子役時代に悲惨な事件に巻き込まれたという過去を持つ。しかし、それが農場の騒動との関係が今一つスムーズに結びつかない。
唐突に兄妹に事件を説明しだすのも変だ。脚本に難ありでは思ってしまう。
下手したら、ラストの巨大カウボーイ・アドバルーンとポラロイド・カメラを登場させるための方便として出したんじゃないのかと疑惑を招く。

だが、彼が事件のトラウマから逃れるために自分から過去を語ったり「呼び寄せ儀式」を行なっているのではないか、という説には目からうろこがボロリと落ちた。それならあのような行動も納得だ。
また、事件でチンパンジーが彼を見逃したのは「見る見られる」視線云々という論の観点から、互いに目を合わせなかった(間にビニールの幕があって)からだという説がある。でも、むしろ「このちっこいヤツもオレと同じに遠い場所から連れてこられたに違いない」と仲間意識があって同情してたんじゃないの❓

などなど議論は絶えない映画である。でも、公開週の興収が事前に決められた水準に達しなかったので(一応、第1位だったけど)、規定通り1か月後に配信扱いになっちゃったとのこと。キビシイのう。

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2022年9月13日 (火)

「バズ・ライトイヤー」(字幕版):無限の彼方へ--行って戻ってこない

220913 監督:アンガス・マクレーン
声の出演:クリス・エヴァンス
米国2022年

『トイ・ストーリー』1作目は1995年公開(!o!) えっ、四捨五入すれば30年前になっちゃうじゃないですかっ。そんな昔なの? 私も歳を取るわけだ~⏳

そして今頃になってスピンオフ作品が登場である。
1作目でアンディ少年が見て夢中になった(で、人形を買ってもらった)、バズが主人公の熱血アドベンチャーSF映画そのものという設定だ。
なので、バズが出ているという以外は『トイ・ストーリー』自体とほとんど関係ない。

巨大宇宙船で航行中、バズのミスにより1200人もの乗組員がとある惑星に不時着、飛び立てなくなってしまう。失敗を取り戻そうと試験飛行を繰り返すが、光速突破なのでその間に他の人々とどんどん時間がずれていってしまう。
彼らは自らの生活を送り年齢を経ていくが、バズはそのままで周囲に適合できず「時代遅れ」--どころかやがて最後には「異端」扱いになってしまう。

タイムパラドックス、惑星探査、ロボット軍団などSFの定番が次々登場。
しかも過去の失敗の記憶から抜け出せず、いつまでも一人引きずっている主人公である。これってヒーローに憧れる少年向きじゃなくて、くたびれた中高年向けのテーマじゃないですかっ\(◎o◎)/!
さらに『2001』やら『アポロ13』など昔の名作SFのパロディが満載だ。若いモンよりオールドファンが喜ぶ話だろう。

全員未熟で欠点多数のデコボコトリオがいつしか本領発揮して主人公を助けるという展開だけど、トリオの当初の役に立たなさがあまりに大きいとはいえ新味とは言えない。
ピクサー作品も「常道」ぶりが固まってきて、それを突き抜けるパワーや工夫が今一つ不足なのが感じられたのだった。残念よ。

ネコロボのソックスが賢くてカワイかった🐾 ポコポコ歩く足取りも(^^) プレゼントにはバズ人形よりもネコロボがいいなあ。
なおエンドクレジットの後にオマケあり。もしかして続きはディズニープラスでやるってことか(?_?)
目がウルウルしてる新人って、元ネタは「シュレック」の長靴ネコ?

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2022年9月 9日 (金)

「モガディシュ 脱出までの14日間」:ここまでやるか!てんこ盛り

監督:リュ・スンワン
出演:キム・ユンソク
韓国2021年

映画のありとあらゆる要素を全部乗せして余さずに差し出してきて、しかも実話を元にしているという。これ一本で満腹間違いなし!の力作である。
ごっつぁんでした~(^^)/

舞台は1990年のソマリア、韓国の国連加盟案件を控えて首都のモガディシュで南北それぞれの大使館が互いに暗躍し工作を繰り返すという状況が続いていた。当地の権力者に対しては金品とヨイショ攻勢は欠かせない。
しかしクーデターが起こり、内戦が勃発する。南と北の大使館の対立さえも吹き飛ばす、巨大な暴力が市中で巻き起こるのだった。

当時こんな状況だったとは全く知らなかった。路上では死屍累々、少年兵の無邪気な狂気が怖い。それと、死体の上を車がボコッと走っていく音には冷汗が流れる(>y<;)
しかし、そのような国を利用しようとしていたのがそれまでの実情なのだ。
遂に北朝鮮の大使館にも暴徒襲撃の危機が迫ってくる。助けを求める先は……。

このような内容とはいえ、マジメ一本やりの社会派作品というわけではない。導入はお笑いモードから始まり油断させておいて、途中には敵対反目→相互理解に至る感動と涙を織り込み、さらに終盤では壮絶な銃撃&カーチェイスの組み合わせへと至る。そこまでやるかと絶句してしまう。あまりの迫力に思わずギャーッ(>O<)と叫びそうだった。

あ、さすがに恋愛要素は入る余地なし。ただし男同士のひそかな熱い友情はあるけどな。燃えて⚡燃えて🔥萌えまくれ~💖
そしてラストには涙が--(T^T)
南北それぞれの大使役のキム・ユンソクとホ・ジュノの渋い熱演が光る。

製作面ではモロッコのロケ地に再現した町並みにアフリカ系キャストを多数投入している。「暴徒襲撃」といっても実際には画面にニ、三人しか映ってないよ💦というショボさはB~X級作品ではあるあるだが、本作についてはそんなことはなしっ。群衆シーンもCGで割増などということもなく(多分)実際に動員して迫力ありだ。
お金のかけ方が全く違う印象である。やはり韓国映画恐るべし。もう永遠に勝てそうにない。
チケット代の元は完全に取れたと言いたい。


ところでどうでもいいことだけど、日本と箸の使い方が違うのだろうか。みんなで夕食の場面、日本だったらマナー違反になりそうなところありでは?

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2022年9月 5日 (月)

中高年洋楽ロックファン必涙🎸ドキュメンタリー「リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス」「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」

220906a「リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス」
監督:ロブ・エプスタイン、ジェフリー・フリードマン
出演:リンダ・ロンシュタット
米国2019年

なぜか最近絶賛人気継続中(?)の音楽ドキュメンタリー映画ブーム。おかげで次々と公開が続いておりますが、リンダ・ロンシュタットのファンでもなく録音を一枚も持っていないにもかかわらず見たのであった。
リンダというと次々とヒットチャートをにぎわした曲と派手な恋愛ゴシップでしか知らなかったのだが、すみませんっ_(_^_)_ガバッ 彼女についての認識を改めた。

音楽一家に生まれ、ジャズやクラシックなど様々なジャンルに触れて育ち、やがてカントリー・フォークのバンドを組んでLAに出て注目される。ソロ歌手として独立し連続して大ヒットを飛ばす。
一方でロック界という狭い男社会の中で、他の女性ミュージシャンと協働して助け合うようにもなる。

やがてヒット路線を自ら捨ててオペレッタ、ジャズ、自らの出自であるメキシコ音楽にも挑む……という多彩過ぎる活動歴なのだった。
驚いたのは、その度にヴォーカル・スタイルを巧みに変えること。特にマリアッチの歌唱はロックなどの時とは全く異なるもので、見事にものにして堂々たる歌いっぷりである。

また、当時のインタビュー映像を見ると明確に自分の主張を言葉で表現できる人なのだと感心した。
しかしやがて病がその彼女の「声」を奪ってしまうのだった。つらい(ーー;)
現在の彼女はそれを受け入れているように見えるものの、そう簡単なことではないだろう。

インタビューには過去に共演したドリー・パートンがまず一番に登場した。この手のドキュメンタリーの多くに出てくる彼女を米音楽界のご意見番、またはお局様🌟と呼びたい。
個人的にはボニー・レイットがかなり長く話してたのが嬉しかった。
他にジャクソン・ブラウン、付き合ってたJ・D・サウザー、アーロン・ネヴィルなどなど多数登場。
ドリーを真ん中に据えた女性トリオ・コーラスのバック・バンドにD・リンドレーがいたのに驚いた。

それにしても、付き合ってる男を次々変えてもジョニ・ミッチェルだと「恋多き女」なのに、リンダだと「浮気娘」になっちゃったのはなぜだったんでしょうか(+o+)

220906b
「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」
監督:アリソン・エルウッド
米国2020年

今の若いモンは知らないじゃろうが、昔々ハリウッドに自然豊かな渓谷があってな。大勢の若いミュージシャンが住み着いて交流し刺激し合い、緩やかな共同体を築いておったのじゃよ。

--という、60年代後半から70年代にかけて存在した音楽コミュニティのドキュメンタリーである。当時の映像は少なく、その地を記録した二人の写真家へのインタビューとその作品を通して時代とミュージシャンを振り返る、という構成になっている。
ミュージシャン自身の回想も音声で入るが、今の彼ら自身を見せないというのが面白い。

タイトルだけだと昔のウエスト・コースト万歳ヽ(^o^)丿みたいな内容だと思えるけど、実際は世知辛い話題が結構出てきてシビアな印象である。
個性強すぎな白黒混合バンドのラブがドアーズの存在ためにヒットできず--というエピソードはロック勃興期ならではというところか。

上映時間120分て結構長いなあと思ったら、なんとTV用の1時間ものを2本つなげたそうである。なるほど……💦
で、前半60年代編はバーズ、バッファロー・スプリングフィールド、ママス&パパス、J・ミッチェルなどが登場。
しかし互いに助け合うなごやかな平和な環境はシャロン・テート事件とオルタモントの悪夢で終わりを告げる。

後半70年代編はJ・ブラウン、CSN(Y)、R・ロンシュタット。そして最後にグレン・フライが成功を渇望していたイーグルスが大ヒットし過ぎたことで、この地に引導を渡してしまう。なんたることだろうか。
当時の洋楽のファンならば一抹の感慨を抱かずにはいられないだろう。

歌詞の訳が全て字幕でついていたのがよかった💯
CSNのあの独特なコーラスはどこから生まれたのか、と長いこと疑問に思ってたけど、答えが分かって満足である。
初めて渡米したクラプトンが招待されたママ・キャスの家でジョニに出会い、彼女がギターを弾いている姿を近距離からガン見している写真に笑ってしまった。

チラシの英語で書かれたアーティスト名に、アリス・クーパーとリトル・フィートの名前が出ているのだが、登場してたっけ(?_?)

映画館内は懐かしさに涙ちょちょぎれる中高年観客多数であった。私も感慨深かったです。
もっとも私がリアルタイムで聞いてたのはこの後の時代だけど。(念為)

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2022年9月 2日 (金)

祝!パゾリーニ生誕100年「王女メディア」「テオレマ」

220902a「王女メディア」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:マリア・カラス
イタリア・フランス・西ドイツ1969年

見てからかなり時間がたってしまったが取りあえず書いてみる。
自らをよくよく顧みればパゾリーニってこれまで見たことないな💦という、ふがいない映画ファンなのであーる。
ギリシャ悲劇「メディア」の映画化ではあるけど、原作のセリフを削りまくり(よく喋るのはケンタウロスのみ)あくまで映像と音を優先。作り上げられたイメージはあまりに毒気タップリ💀野蛮💥洗練のセの字もなしっ(@_@)で目が回りそうである。

私は芝居の「メディア」は過去に様々な劇団の公演を鑑賞しているが、この強烈な映画がその後の上演に影響を及ぼしただろうことは疑うまでもない。「元ネタはこれか(!o!)」と納得した。

荒れ地を舞台に原初的で残酷な生贄の儀式が描かれ、そのまま神話のメディアのエピソードへと流れ込む。
マリア・カラス扮するメディアは見るからにコワい(>y<;) イアソンに「にーちゃん、その女だけは止めておけ」と言いたくなる。でも彼は「軽薄な若者」枠なので何も考えておらずズルズルと引き込まれてしまうのだ。
ただ後半が飛躍し過ぎで元のストーリーを知らないと訳が分からなくなる状態だろう。

日本も含む世界各地の伝統音楽・衣装・美術がゴッタ煮状態で使われていて、またそのパワーが有無を言わせぬ。ロケ地の浮世離れした風景がそれに拍車をかける。
参りました~m(__)mガバッ

それにしても殺される者が必ず笑っているのはなぜなのかな。

220902b
「テオレマ」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:テレンス・スタンプ
イタリア1968年

長いこと一部の人々に「テレンス・スタンプが美しい✨」の一言で伝えられてきた(多分)伝説の一作。

いや、確かに彼は美しいんだけどさ……。前半、いくばくもたたぬうちに彼は消えてしまってもう登場しないではないか。その後に残るは奇跡のみか??
私は宗教に縁なき衆生の一人とはいえ、普通に解釈すれば嵐のように現れて嵐のように去っていく若者はキリストの再来であり、中心となるのはそれに触れた人々の変容の方なんだろうぐらいは分かる。

彼は退廃したブルジョワ一家の大邸宅に出現して家政婦を含む全員と関係を持つと、相手の一家の方は聖人や芸術家や寝たきりになる。中でも変貌激しいのは主人とその妻であり、全てを投げうち自暴自棄としか言えない行動をとる。
まこと金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るより難しい🚫ということであろうか。

本筋から外れるが、見てて気になったのは奥さんの行動。「娼婦になった」とされているけど、どちらかというと「有閑マダムが若いツバメを買う」という行動っぽい。いずれにしろ田舎町の側溝の中で……って、首絞められて財布と車取られたらどーするの(+o+)などと震え上がってしまった。

T・スタンプの股間に向けてグイグイ食い込んでいくカメラや、男の下着を注視するように撮るフェチぶりには笑った。

レコーダーのハードディスクの中にパゾリーニ監督作が一つぐらい沈んでいるはずなので、さらに見て修行したい。
折角の記念イヤーならば、W・デフォーがパゾリーニを演じた映画も公開してほしかったぞ。

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