「NOPE/ノープ」:見られるうちに見よ
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ
米国2022年
※後半にネタバレあります。
今季注目作の一つ。公開前から一部で「IMAXで見ないとダメだ」と話題になっていた。はて(?_?)どんなもんだろうと思ったが、あまりホラー系は得意でない人間なので(実際見てみたらホラーではなかったけどな💥)余計に料金払って気に入らなかったら暴れたくなるに違いないので通常版にした。
最初の感想は「なんだかよく分からんけど、強烈で変な映画だなー」であった。
冒頭現れる過去のTVドラマでの陰惨な事件、唐突に紹介される映画史初期での黒人の存在--しかし一貫して舞台はLA近くの馬の牧場なのだ。もっともその馬は映画・TV出演用に飼育されているものである。
中心となる兄妹の人物造形が興味深い。妹は外交的で常にハイな感じ、牧場の宣伝は怠りないがフラフラしてて居所もよく分からない。一方、兄は内向的で口下手で鬱屈したものを抱えているようである。演じるD・カルーヤは帽子をいつも浅くかぶっていて、その頭部が伸びたイメージが生気のなさや投げやりでボヤーっとした印象を常に示している。
二人ともそんな言動や外見のため、未熟と成熟の間をフラフラと漂っているようだ。
で、彼らが突如意欲を燃やすのが近辺に現れる謎の飛行物体を撮影することなのだ。(なんで?)
そして、近所にある西部開拓テーマパークの経営者がからんでくる。(何の関連が?)
ITショップのオタクな電気工事士もなぜか参戦。(まあ、いいけどさ……)
かようにそれぞれの相互関係がよく分からないうちに話がサクサクと進む。その間にもオタクネタは頻出する。恐らく半分ぐらいしか理解できてない。「スコーピオン・キング」は分かるけど『トレマーズ』は見てないしな、とか。それ以外にも、背後に寓意やメッセージが隠されていそうだ。
一方、夜の牧場の光景、人形バルーン(ゆらゆら揺れてるヤツ)をはじめ不穏な映像センスは抜群である。
そして、強引ともいえる決着の付け方については「これでいいのか?」感と共に「一体何を見せられたのか?」という疑問が、ドトーのように湧き上がってくるのであった。
でも何やら見てて不明解な吸引力あるのは事実。そして社会問題や過去の歴史についてオタクなネタなはずのものを結びつける力業に感心してしまうのである。
そんな剛腕のピール監督は今後も目が離せないですよ(^O^)bナンチャッテ
★ ★ 以下ネタバレモードになります ★ ★
★ ★ ご注意ください ★ ★
ジャンル的には確かにホラーというより「動物パニック」映画という指摘は当たっているだろう。途中で未確認飛行「物体」でなくて「生物」だというのが判明して、それなら何故兄妹の農場周辺を縄張りにしているのかという理由も不問になる。
……だって動物なんだもん( ̄▽ ̄)
舞台が農場なので西部劇との関連も考えられる。しかし、意図的に「銃」は出てこない。普通だったら空に向かってライフルでもぶっぱなしそうなものだが、そういう方向には行かない。登場人物たちが構えるのが銃ではなくことごとくカメラの類いなのだ。
兄が厩舎に行って闇からサルもどき出て来た時に、彼はいかにも武器を出そうと探るがごとき動作で腰のあたりに手をやる。しかし実際に取り出したのはケータイで、そのカメラで撮影しようとする。しかもスマホじゃなくてそれ以前のガラホではないか(^^?
逆に言えばカメラもまた武器の一つであるということだろう。
終盤、妹の前に出現するネット配信社(でいいのか?)のカメラマンは鏡面のフルフェイス・ヘルメットをかぶり、さらにカメラを銃のように構えてこちらの視線を受け付けない。その禍々しさよ💀
さらに謎なのはIMAXで撮った作品なのに、劇中では結局「IMAXカメラは役に立たなかった(多分)」らしいことだ。ええー、いいのかそれで\(◎o◎)/!
飛行の瞬間にはフィルム交換で手間取ったりしてちゃんと捉えられたのかは明示されていない。カメラマン一人で突撃したのは結局どうなったのか。
どころか、「オプラ基準」の決定的瞬間は、テーマパークのポラロイドカメラの連射によって撮られたことになる。これじゃあ最新技術とは程遠い、映画史前夜の段階ではないの。
さらにラストに馬に乗った兄が登場することで、映画誕生の瞬間を黒人に取り戻したことになる。ハッピーエンドではあるが、なんだか映画マニア以外には盛り上がりにくいテーマではないだろうか💦
一つ問題なのはテーマパーク経営者の扱いである。東アジア系の彼はTVの子役時代に悲惨な事件に巻き込まれたという過去を持つ。しかし、それが農場の騒動との関係が今一つスムーズに結びつかない。
唐突に兄妹に事件を説明しだすのも変だ。脚本に難ありでは思ってしまう。
下手したら、ラストの巨大カウボーイ・アドバルーンとポラロイド・カメラを登場させるための方便として出したんじゃないのかと疑惑を招く。
だが、彼が事件のトラウマから逃れるために自分から過去を語ったり「呼び寄せ儀式」を行なっているのではないか、という説には目からうろこがボロリと落ちた。それならあのような行動も納得だ。
また、事件でチンパンジーが彼を見逃したのは「見る見られる」視線云々という論の観点から、互いに目を合わせなかった(間にビニールの幕があって)からだという説がある。でも、むしろ「このちっこいヤツもオレと同じに遠い場所から連れてこられたに違いない」と仲間意識があって同情してたんじゃないの❓
などなど議論は絶えない映画である。でも、公開週の興収が事前に決められた水準に達しなかったので(一応、第1位だったけど)、規定通り1か月後に配信扱いになっちゃったとのこと。キビシイのう。
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