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2022年12月15日 (木)

「奇跡の丘」「アポロンの地獄」:ハードディスクの底をさらって駆け込み鑑賞、パゾリーニ生誕100年記念イヤー終了直前

かなり前に録画したまま放ったままにしておいたパゾリーニの『王女メディア』『テオレマ』を、今年が記念イヤーということで発掘して感想を書いてから、はや数か月経過。
まだ残っているのではないかと探してみたらなんと2作もありました❗❗(というか、さっさと見ろよって話ですね)
ということで今年が終わる前に鑑賞&感想であります。

「奇跡の丘」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:エンリケ・イラゾクイ
イタリア・フランス1964年

パゾリーニと言ったらバリバリの共産主義者とのことだが、なのになぜ新約聖書からキリストさんの伝記を映画化するのか--と、見てみれば納得。原始キリスト教といいましょうか、ひたすら素朴で簡素な味わいあり。
旧弊な秩序と伝統に反抗し、貧しい民衆のために説教して歩くイエスと弟子たちの姿が率直に描かれている。

演じるのは全て素人、淡々と描かれる荒野の生活(この頃から荒野が好きだったのね)。背景に流れるはバッハの曲、かと思えば黒人霊歌と時代と地域を無視した選曲手法もこの頃からなのだった。
イエス役の青年も相当にインパクトありだが、一番迫力なのは若い聖母マリア役。美人だけど眼差しが強烈だ。ヨセフがタジタジしてしまうのも当然であろう。
なお年老いたマリア役はパゾリーニの母親が演じている(監督も共にしっかり出演)。

奇跡も描かれるが説教の場面に結構比重が置かれているので、睡眠不足の時は避けた方がいいだろう。


「アポロンの地獄」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:フランコ・チッティ、シルヴァーナ・マンガーノ
イタリア1967年

『王女メディア』より2年前、同様の手法でギリシャ悲劇『オイディプス王』と、その元となった神話をを映画化したものである。

不吉な神託が出た赤ん坊を殺すために山の中へ……という神話の発端から、王宮内を除いてほとんどが荒野を舞台に展開する(ロケ地はモロッコとのこと)。
成人したオイディプスが再び神託を受けに向かう神殿は、砂漠の中に立っている数本の樹でしかない。またスフィンクスは岩山にいる仮面を付けた男で、謎かけ問答もなしに死んでしまう。
などなど筋立ては神話に沿っていても相当にぶっ飛んだものだ。

やはりここでも音楽は日本の神楽やらケチャやら最後はモーツァルトまで使われている。
衣装は太い糸でザックリ編んだような長衣で、仮面や帽子は世界各地のものを集めたのだろうと思われる変なものがたくさん登場する。いずれも強烈なパワーを発している。

しかし問題はプロローグとエピローグだ。冒頭、第一次大戦後のイタリアとおぼしき所で赤ん坊連れの裕福な夫人が若い将校と浮気しているような場面が描かれる。一方、ラストはオイディプスが放浪する地はまさに映画が撮られている時点での「現在」のイタリアで、冒頭の場所に戻ってくる。
時代や境遇はパゾリーニ自身と合致していて、この映画が「パゾリーニの個人的願望を描いたものだ」と評されるゆえんだ。
つまり、超マザコン……(◎_◎;)

しかしそんな事情をさっぴいても、神話部分は面白い。あまりの野蛮さに見ていてドキドキしてしまう💫 彼が荒野の中の道で出会った「老人」を殺害する場面でのドタバタぶりは見ものだろう。
兵士の鎧や兜は変な形で手作り感が横溢している。特に主人公がぶら下げている剣はどう見てもトタン板をぶっ叩いて作ったとしか見えない。

野蛮🔥野蛮💥 洗練さのかけらもねえ~~(>O<)とはこのことだいっ🌊

と、スクリーンからあふれ出んばかりの怒涛のパワーに思わず興奮である。
ということでハードディスクの底をさらっただけの価値はあった。さすがにもうパゾリーニ作品は残っていないようだが。

ところで終盤での王妃の全裸、あれはいくらなんでも本物のシルヴァーナ・マンガーノじゃなくて、いわゆるボディダブルというやつだよね。思わずボタン押して静止画面でガン見してしまった👀

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