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2023年1月

2023年1月23日 (月)

「レゼポペ来日公演~夜のままで」:楽譜以上

230123 北とぴあ国際音楽祭2022
会場:北とぴあさくらホール
2022年11月18日

ルイ14世時代の宮廷歌曲の世界、歌うはクレール・ルフィリアートルである。レゼポペは彼女とステファン・フュジェ(チェンバロ)、日本在住のエマニュエル・ジラール(ガンバ)がメンバーとなるグループだ。
非常に覚えにくい名称だが(私だけ?)、フランス語で「叙事詩」という意味らしい。

休憩なしで80分の予定とのことだったけど実際は100分ぐらいになった。テーマはルイ14世時代の宮廷歌曲(いわゆるエール・ド・クール)で、これには二種類ある--「物憂げで優しい性格の曲」と「舞曲をモチーフにした遊び心ある曲」--というのは初めて知った。
取り上げた作曲家はリュリ、ランベール、あと初めて聞くようなド・ラ・バール、ダンブリュイという名もあった。

サブタイトルとなっているル・カミュの「夜のままで」で開始。フュジェが曲解説するのをジラールが訳したり、彼らが同時代の器楽曲を弾く時にはルフィリアートルは舞台から引っ込むという形で進んだ。
彼女の歌声は力強くかつ繊細で美しかった。以前の来日公演よりもさらに進化ならぬ深化したようである。1300席ある会場は古楽器の3人編成に向いてるとは言えないが、完璧にふさわしく声をコントロールしていた。
特にシャルパンティエの2曲目は、消え入るようなガンバの音と歌との掛け合いが強く印象に残った。周囲の空間にしみていくような演奏だった。

おかげで12月に控えるオペラ『アルミード』への期待は爆上がりしたのであった。ドーン🎆(爆上がりする音)……しかし(後の記事に続く)

ジラール氏が楽譜を落としながらもやっていた曲間の解説の通訳は、日常会話ならともかく専門的な話だとやはり大変だったもよう(;^_^A 時間が予定より伸びたのはそのせいかな。
フランス語で喋るフュジェ氏当人と会場の聴衆の双方が段々と「なんか喋ってる量と通訳された量に差があり過ぎないか(?_?)」という疑問にとらわれてくるという--💦
やはりできれば通訳係は別にいた方がいいようですね(^^)

この時の話で面白かったのは「トンボー」についてである。普通「追悼曲」だろうと思うが、正確には亡くなった人のキャラクターを表す曲とのことらしい。すると、陽気な人物なら陽気な曲になるということか。
実はプラムゾーラー&アンサンブル・ディドロが演奏したルベル作曲の『リュリ氏のトンボー』の録音を聞いた時に、他の演奏家ならゆっくり弾いているところをやたらと激しくてテンポが速くかった。あまりに激越なんんで、故人が墓から起き上がるのではないかとビックリしたほどだ。しかしリュリがそういう人物だとして考えれば納得である。

さて、彼らの知名度が低いせいかこの時の客の入りはお世辞にもいいとは言えなかった(空席の方が遥かに多い)。二階席を入れると北とぴあさくらホールは1300席だが、つつじホールなら400席。プログラム内容も合わせて考えるとこちらの方で聞きたかった。
音楽ホールについては「大は小を兼ねない」というのを分かってくださいよ~(>O<)

 


バロック歌曲の旋律は豊かな装飾に彩られていても、基本的には朗読的なものであり、その解釈は楽譜以上のものでなければなりません。

(プログラムより)

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2023年1月15日 (日)

「「未熟さ」の系譜 宝塚からジャニーズまで」

230115 著者:周東美材
新潮社(新潮選書)2022

意外な視点から見た刺激的な日本近代音楽史である。
なぜ日本のポピュラー音楽では「未熟さ」が愛好され支持されるのか。レコード産業の誕生・発達と密接にかかわるこの流れを童謡、宝塚、ナベプロ、ジャニーズ、グループ・サウンズ、スター誕生に始まるオーディション番組……とたどっていく。

その共通点は、第一次大戦後に都市部を中心に形成された近代家族をターゲットにしていること。その茶の間では子どもの存在が大きく「子ども文化」が次々と消費される。そこは音楽ファンやマニアではなく「女・子ども」の世界である。
歌い手側は養成機関として「寄宿学校」形式を取り「卒業」を前提とする(「高校野球」との類似に注目せよ)。一方、人々は歌い手の未熟さを前提にした「成長」をメディアを通し見守り楽しむのだ。

それらは既存の音楽の枠組みを崩し、新たなメディアや産業構造を生み出していく起爆剤でもある。レコード、ラジオ、テレビ、楽譜、雑誌、大劇場……など。そして茶の間と音楽の関係を展開させていく。
そも、このようなシステムがなぜ出来上がったのか? その理由も解き明かされている。

大正~戦前の童謡、宝塚の形成については全く知らなかったので特に面白かった。そもそも童謡がそれほど人気があったというのが驚きだ。また「家庭音楽」(家庭団らんで楽しむためと喧伝された西洋音楽)という存在も初めて知った。
グループサウンズのメルヘンチックな歌詞は童謡の系譜を引き継いでいたというのは衝撃である。
宝塚が「未熟」というのは今の状況だと想像がつかないが、昔は「お嬢さん」として卒業退団したら家庭に入るというのが通常だったらしい。

当然、秋元康についての論考も読みたいところだが、頁数の関係だろうか、その時代へ行きつかずピンク・レディーで終わっている。残念である。

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2023年1月14日 (土)

今さらながら2022年を振り返る

230113 2022年はもはや記事の更新が全く追い付かない状態。それというのも、持病の悪化で入院するとかしないとかでもめたせいもある。結局入院せずに済んだのだが、何の予定も立たずやる気も起こらずかなりのストレスとなった。
コンサートのチケット買っても入院したら無駄になる。映画ならそんなこともないけど、公開予定を眺めてもその時に見に行けるか分からない。
つくづく健康は大事✨--肝に銘じましたよ(><)

【映画】
話題作・超大作の類いはほとんど未見のまま。結局10作選べなかったというふがいなさである。
なんとなく見た順。

『シチリアを征服したクマ王国の物語』:特に前半がぶっ飛んでいる。
『スティルウォーター』:あらすじ聞くと実際見るとじゃ大違い。もし一本選ぶとしたらこれか。身にしみました。
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』:まだまだ続くよ音楽ドキュメンタリーの攻勢。リンダ像を大いに訂正してくれた。
『FLEE フリー』:99%はつらいがラストシーンが良い。
『PLAN75』:現実の日本でもプランがもうすぐ始まりそうです(*^^*)
『モガディシュ 脱出までの14日間』:全部乗せ特大大盛り、ごっつぁんです。
『NOPE/ノープ』:とにかく変なのは間違いない。
『バビ・ヤール』:突然出現する「ウクライナにユダヤ人はいない」の一節にガ~ン😱と衝撃を受けた。
*『キングメーカー』:政治内幕ものと見せて実は違った。対照的な二人の男たちの💫(以下略)

上記以外にパゾリーニの旧作を見て脳ミソがバクハツ状態\(◎o◎)/!となった。もっと早く見ればよかった。

部門賞
*監督賞 ジョーダン・ピール(『NOPE/ノープ』)
*俳優賞 マット・デイモン(『スティルウォーター』):今まで見損なっててすいませんでした<(_ _)>
 レスリー・マンヴィル(『ミセス・ハリス、パリへ行く』

*ネコ賞 ソックス(『バズ・ライトイヤー』):正確にはネコロボだけどニャ🐾
*悪役賞 ティモシー・スポール(『スペンサー ダイアナの決意』
*予告賞 『ハウス・オブ・グッチ』:本編より予告の方がずっと面白かった。
*最凶邦題賞 『愛すべき夫妻の秘密』:見ると確かにそう付けたくなる気持ちは分かるが、もう少し何とかしてほしい。

*ちゃぶ台ひっくり返し賞 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(のエンドロール始まってすぐの追加シーン)
 この賞は、見終ってあまりの内容に思わず「なんじゃ、こりゃ~。観客をなめとんのか!」(ノ-o-)ノ ~┻━┻ガシャーン と、ちゃぶ台をひっくり返したくなる気分になった映画に与えられる栄光ある賞である。(あくまでも個人的見解)


【コンサート】
『《ラ・ペッレグリーナ》のインテルメディオ』
『Sacrum et Profanum 聖と俗の対話』
『大塚直哉レクチャー・コンサート バッハ"平均律"前夜』
『ヘンデル 王宮の花火の音楽』
『ヘンデル シッラ』
『カヴァリエーリ 魂と肉体の劇』
『レゼポペ』
『リュリ アルミード』
チケットの値段とコンサートの満足度は決して比例しないことをよーく感じた年だった。


【その他】
『ガラスの動物園』(新国立劇場):生イザベル・ユペールの包丁ぶん回し演技を見られてヨカッタ。それ以上にあの銀色に輝くガラスの動物たちとドレスが忘れられぬ。

ゲルハルト・リヒター展:実物を見なければ何も分からない感が高かった。顔をくっ付けそうになるほどに凝視した。


閑古鳥が鳴く当ブログではありますが、昨年一年間で一番アクセスが多かったのは『ハスラーズ』の感想だった。なぜ2年も前の記事で大したことは書いてないのに……謎❗❓である。

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2023年1月 5日 (木)

「スペンサー ダイアナの決意」:皇太子妃、三界に屋敷なし

監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート
イギリス・チリ・ドイツ・米国2021年

ダイアナ妃が離婚の決意に至る心理をたどる作品。
正攻法で順を追っていくのではなく、結婚10年目のクリスマスの三日間に全てを凝縮して描くという手法を取っている。
一般人の妻でも正月に親類が集まる夫の実家に行くという「儀式」は憂鬱なことがほとんどだろうが、その上夫とは別居中、人里離れた暗~い屋敷で(暖房もない!)厳格な当主であるエリザベス女王はまさに家父長の権化のようである。

その様相はJ・グリーンウッドの音楽のせいもあってかゴシックホラーっぽい。周囲を亡霊ならぬ過去(と現在)の人々に囲まれて、もういつ陰鬱な廊下の奥に双子が立っててもおかしくないというほどだ。監督は『シャイニング』などの過去作品を意識しているのが見ててよーく分かる。
怖い「家長」の他に監視役の侍従がいるのもゴシックホラーの定番だ。重苦しい晩餐に加えてトイレやバスルームが恐怖の吹き溜まりとなる。
幸福だった子どもの頃を過ごした実家の屋敷は崩壊寸前、カカシが懐古的な何事かを訴えてくる。

しかしそれらを取っ払ってしまうと、夫にうとまれた女が「母」であることと「父の娘」であることに生きがいを見つけるしかない、というのはあまりにも狭苦しい結論ではないか。そして女の世界を「娘」「妻」「母」の三つに区切っているのは誰なのよと思わざるを得ない。
ホラー手法や役者の演技には感心するが、テーマの描き方は大いに不満となった。

摂食障害であるダイアナが頻繁に吐く場面が出てくるのだが、映画で「吐く」のは女限定の行為なのだろうか。男が心理的に追い詰められ吐いているというのは、どうもあまり見た記憶がない。

クリステン・スチュワートは熱演。年度末の賞レースで連続してノミネートし、アカデミー賞も主演女優賞確実と言われていたが途中で流れが変わって結局受賞には至らなかった。
侍従のティモシー・スポールは慇懃無礼芸が炸裂💥
ラストに流れるマイク&ザ・メカニクスの歌詞はぜひ字幕を付けてほしかった。なんで重要なところで手抜きになるのさ。

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2023年1月 4日 (水)

「この父ありて 娘たちの歳月」

230104 著者:梯久美子
文藝春秋2022年

偉大な父を持ち多大な影響を受けて意に従う、いわゆる「父の娘」案件というのがある。このタイトルからそれについての本かと思ったらそうではなくて、「書く」ことで広く名を知られた9人の女性とその父についてのノンフィクションであった。この娘にしてこんな父(と家族)がいたんだ❗❗という内容だ。

冒頭一人目は渡辺和子……ってそもそも誰よ(?_?)と思ったら『置かれた場所で咲きなさい』の人だった。
父親は二・二六事件で襲撃された陸軍の将官である。かなり地位の高い人物だ。自宅で深夜に軽機関銃で銃撃の上で殺害された。それを幼い頃に同じ部屋で寝ていて間近で目撃したのである。壮絶な体験ではないか。そういう背景のある人物とは全く知らなかった。

同時代に生きた詩人である石垣りんと茨木のり子の章が続いて掲載されているが、作品からは読み取れない対照的な生涯が興味深い。
そして、萩原葉子からラスト石牟礼道子の章の流れに至っては読んでてギャー😱と叫びたくなってしまった。あまりに重く苦しい。

父も様々、家庭も様々。そこは傷つく場なのか、再生する場なのか。グルグル回って傷つきながら生きていく女たちの姿が見える。

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2023年1月 1日 (日)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2023年1月編

これまではサイドバーに「古楽系コンサート情報」コーナーを設けて広範囲に情報を集めて掲載してきましたが、あまりに公演数が多くなってきたのと、演奏家がSNSで個別に情報発信するパターンが増えてきてとらえ切れないという理由から中止することにしました。
以後は「コンサート情報」以前の「聴かずに死ねるか!」を復活させ、自分の興味のあるもの、知っている演奏家などに限って掲載したいと思います。
従って、私の自宅から行きにくい遠方の会場などは内容が良くてもカットしてしまう可能性もありますので、そこのところはご容赦くだせえ。


事前に必ず確認してください。

*10日(火)ジュスタン・テイラー:王子ホール
*13日(金)教皇マルチェルスのミサ グレゴリオ聖歌とルネサンス・ポリフォニーによるミサ形式の演奏会(ヴォーカル・アンサンブル カペラ):東京カテドラル聖マリア大聖堂
*14日(土)スクランブル古楽(コレギウムSpace 415):梅若能楽学院会館
*15日(日)花咲く日々に生きる限り ソプラノ二重唱で奏でるうた2(大森 彩加ほか):松明堂音楽ホール
*19日(木)鶴見 de 古楽 PRISMのバッハ コラールと「フーガの技法」(プリズム・コンソート・オブ・ヴァイオルズ):横浜市鶴見区民文化センターサルビアホール
*21日(土)オンヴェラ,キャトリエム 抒情的な室内の音楽たち(石川友加里ほか):サローネ・フォンタナ
*  〃   ヴァイオリン音楽の黎明(丸山韶&西山まりえ):マリーコンツェルト
*  〃   バロックコンサート ベルカントオペラフェスティバル イン ジャパン(レイ・シェネーほか):イイノホール
*22日(日)Klingelt die Rohren! 管楽器とオルガンによるアンサンブルの源流(トゥビシネス・カンペストリウム):松本記念音楽迎賓館
*27日(金)バッハの音楽宇宙 鍵盤楽器の真髄を聴く(鈴木優人):所沢市民文化センターミューズキューブホール
*  〃   江崎浩司メモリアルコンサート(タブラトゥーラ):ハクジュホール ♪完売です
*29日(土)2023第五日曜日ライヴシリーズ 触れ、振れ、揺れ、融け 2023-Special 新春五人囃子の宴(大西律子ほか):榎の樹ホール


15日夜、NHK-BS「ブレミアムシアター」にてビオンディ指揮のヘンデル「シッラ」(神奈川県立音楽堂)の放映があります。行けなかった人は必見です。

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