「スペンサー ダイアナの決意」:皇太子妃、三界に屋敷なし
監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート
イギリス・チリ・ドイツ・米国2021年
ダイアナ妃が離婚の決意に至る心理をたどる作品。
正攻法で順を追っていくのではなく、結婚10年目のクリスマスの三日間に全てを凝縮して描くという手法を取っている。
一般人の妻でも正月に親類が集まる夫の実家に行くという「儀式」は憂鬱なことがほとんどだろうが、その上夫とは別居中、人里離れた暗~い屋敷で(暖房もない!)厳格な当主であるエリザベス女王はまさに家父長の権化のようである。
その様相はJ・グリーンウッドの音楽のせいもあってかゴシックホラーっぽい。周囲を亡霊ならぬ過去(と現在)の人々に囲まれて、もういつ陰鬱な廊下の奥に双子が立っててもおかしくないというほどだ。監督は『シャイニング』などの過去作品を意識しているのが見ててよーく分かる。
怖い「家長」の他に監視役の侍従がいるのもゴシックホラーの定番だ。重苦しい晩餐に加えてトイレやバスルームが恐怖の吹き溜まりとなる。
幸福だった子どもの頃を過ごした実家の屋敷は崩壊寸前、カカシが懐古的な何事かを訴えてくる。
しかしそれらを取っ払ってしまうと、夫にうとまれた女が「母」であることと「父の娘」であることに生きがいを見つけるしかない、というのはあまりにも狭苦しい結論ではないか。そして女の世界を「娘」「妻」「母」の三つに区切っているのは誰なのよと思わざるを得ない。
ホラー手法や役者の演技には感心するが、テーマの描き方は大いに不満となった。
摂食障害であるダイアナが頻繁に吐く場面が出てくるのだが、映画で「吐く」のは女限定の行為なのだろうか。男が心理的に追い詰められ吐いているというのは、どうもあまり見た記憶がない。
クリステン・スチュワートは熱演。年度末の賞レースで連続してノミネートし、アカデミー賞も主演女優賞確実と言われていたが途中で流れが変わって結局受賞には至らなかった。
侍従のティモシー・スポールは慇懃無礼芸が炸裂💥
ラストに流れるマイク&ザ・メカニクスの歌詞はぜひ字幕を付けてほしかった。なんで重要なところで手抜きになるのさ。
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