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2023年3月

2023年3月31日 (金)

「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」:木は心

230330 監督:ギレルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン
声の出演:ユアン・マクレガー
米国・メキシコ・フランス2022年

祝🎊アカデミー賞長編アニメーション部門獲得。
ネトフリ作品ではありますが、配信前に映画館で特別上映をやってくれたので見に行った。
ありがたいこってす。

実はディズニーの『ピノキオ』を見てないので影響とか比較はできない。そこら辺は適当な感想である。
原作を変えて舞台は第一次大戦後ムッソリーニ政権時代のイタリア。ストップモーション・アニメでミュージカル仕立てだ♪

ゼペットじいさんは息子を戦闘機の爆撃(第一次大戦)で亡くし、代わりに木からピノッキオを作る。--という冒頭で思い浮かぶのは、鉄腕アトムと天馬博士じゃないですか。でもそもそも手塚治虫の「アトム」はディズニー版に影響受けているそうな。
ともかく酔っ払って作ったのでかなり雑っぼい外見である。性格も暴れん坊の子どもだ。特に後ろ頭なんかモロに「木」のまんまである(思わずガン見👀)。そして結局彼は終始「木」っぽいままなのだ。人間らしくはならない。作品全体のヴィジュアルもオドロな感じでゴツゴツとした不気味さが占めている。
そしてその全てを素材の樹の段階から住んでいたコオロギが見ているという次第。

サーカスの団長が現れ契約書を持って迫り、ファシストの市長は死んでも死なない彼を兵士にしようとし、ついにはムッソリーニまで(!o!)やってくる。ファンタジーとはいえ、彼を追い詰めるのは怪物の類いではなく普通の人間の方なのだった。
資本主義の奴隷になるかファシズムの先兵となるか……ピノッキオはどちらも拒否して逃走する。
並行して父と息子の関係の描写にもかなりの重心が置かれていた。冒頭の「アトム」に加え、ラストでは『A.I.』まで登場するのだから。相当なこだわりようである。

M・ガローネ監督の『ほんとうのピノッキオ』は原作当時の容赦ない弱肉強食社会が描かれていた。こちらは不穏な時代・地域を背景に自由を問うている。
このように多様なテーマで取り上げられるということは、やはり原作に普遍性が潜んでいるのかな。
なお、ロバート・ゼメキス&トム・ハンクス版『ピノキオ』は未見です(^^ゞ

難点はコオロギがたまにG虫に見えること(+o+)ギャオ
『ほんとうのピノッキオ』には人面魚が出てきたが、本作にはなんと「のた魚」っぽいヤツが登場🐟……デル・トロは吾妻ひでおも見てるのかしらん。
声の配役は豪華出演陣も話題になった(C・ブランシェットにT・スウィントンなど)。コオロギ役のユアン・マクレガーは歌もそつなくこなしていた。

デル・トロがストップモーション・アニメということで、観客はてっきりオタク男性多数かと思ったら、あにはからんや(・o・) 平日の昼間ということもあるだろうけど、意外にも女性率90%以上であった❗ こりゃビックリだい。

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2023年3月26日 (日)

「タブラトゥーラ 江崎浩司メモリアルコンサート」:涙と共に紙を振りぬ

230326a 会場:ハクジュホール
2023年1月27日

縦笛演奏家江崎浩司が突然亡くなったというニュースが古楽界隈を震撼させたのは、一昨年の末のことだった。なにせまだ50歳である。
最近、ロックのミュージシャンの訃報が相次いでいるがほとんどは70歳代で、しかも「まだ早い」とか言われてるのを考えると、こちらこそ本当に早過ぎだ。

彼が最年少メンバーだったタブラトゥーラ、コロナ禍もあったためか1年を経ての追悼コンサートとなった。会場は満員御礼だったもよう。
演奏が始まる前から既につのだたかしの老人力炸裂💥 なにやら縁側の端に座る口うるさいご隠居のようである。

今回は故人の代打として3人の各種縦笛吹きを補充。つまり江崎氏の活躍を補うには3人分が必要なのね~……と今さらながら思い知るのであった。
バンドの定番曲から始まり、江崎作品コーナーではあの「一人で2本リコーダー同時演奏」も再現。まさにブラボー\(◎o◎)/! でも座席によっては譜面台に邪魔されて見えなかった人もいるかも。
後半は一時期共にツアーもやってた波多野睦美がゲスト参加して歌曲を演奏。場が引き締まったところで。その後再び定番曲へ--という流れだったのだが、途中でダルシマー担当の近藤氏が痛恨の失敗をやってしまい、他のメンバーからかなりチクチクとやられていた。こりゃ、このネタであと十年は言われれそう。大変ですな(^^;;;;

それはともかく、客席は在りし日の江崎氏をしのびつつ、声を出す代わりに「BRAVO!」と書いた紙(あらかじめ全員に配布)を打ち振ったのであった。

思えば2014年に「結団30周年記念」をやった時には、2031年に「祝!江崎浩司還暦記念大演奏会」が行なわれると誰もが信じて疑わなかったが(T^T)
昔のコンサートで、髪に赤い羽を付けてヴィヴァルディの「ごしきひわ」を力の限りに吹いていた姿を忘れられません。

230326b

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2023年3月21日 (火)

「ミセス・ハリス、パリへ行く」:花もゴミも踏み越えて

230320 監督:アンソニー・ファビアン
出演:レスリー・マンヴィル
イギリス2022年

日頃ファッションに縁のないわたくしですけど、チラシを飾る平凡そうなオバサマと美しい緑のドレスを見てつい行ってしまいました。
それにこのオバ……失礼、女優さんよくよく見たら『カササギ殺人事件』の主役の人じゃないの。おまけに『すべてが変わった日』ではダイアン・レインをいぢめるコワイ悪役もやってたわよね。

ロンドンで働く家政婦が職場でふと目にしたディオールのドレスに憧れて欲しくなり、金をためて遂にパリまで行ってしまうという一種のファンタジーです。
似たような感じの映画は『ボブという名の猫2』がありましたわね。あちらと同じく敵役は一人だけ(イザベル・ユペール扮する支配人)で、他はみんな優しい人ばかり。

折しもパリの名物とされる?ストの真っ最中です。それもゴミ収集案件とあって異臭充満する道路を越えてディオールに行けば、中は別世界。平凡な庶民のオバサンはそもそも想定外🆖状態なのでした。
蛮勇を奮って本店に突入する彼女はアクティヴで見てて元気が出ちゃう。スタッフやモデル、お針子たちとも知り合い、ゴミの山に埋もれているとはいえパリの街を駆け抜けていきます。

そして身分や階層に関係なく、現金握った新しい時代の消費者として出現して旧弊なディオールの体制を揺るがし、団体交渉まで率いてしまうハリス夫人はまさに「革命的」というところかしら。
もはや「家政婦」も透明人間でなくて立派な市民の一人なのです。

……というのがテーマらしいんですけど、それが明確に脚本には書かれているのかもしれません。でも演出はあくまでも彼女を「いい人」として強調し、オブラートにくるんだ夢の世界の出来事風に描いています。ここら辺は塩梅が難しいわね。

ということで、基本的には役者たちの演技を楽しむタイプの作品だと思いました。モデルのナターシャ役の人がかわいいです(#^.^#)

着る機会もないのになんでドレス欲しがるの?という疑問を結構見かけましたけど、これって愚問ではないかしら❗❓ でもまあ、結局無駄ではなかったということね。
ディオールじゃなくても彼女が普段着てた花柄のシャツとエプロンが素敵なので、ぜひ私に譲ってほしい(^O^)

難点はロンドンの家政婦仲間の友人が「マジカルニグロ」っぽいこと。それとサイズが完全に異なる人にドレスが着られるのはおかしいですよ。
なお、最初になぜこの映画を「ファンタジー」と断言したかというと、原作がポール・ギャリコだから--じゃなくて「駅の待合室で寝てて荷物が盗まれない」からです。そんなことあるわけないじゃないのっ💢

観客のほとんどが中高年女性でした。ヒロインが60歳という年齢なのも珍しいし、やっぱり花とファッション(とゴミ)の都パリですもんねー。憧れちゃう(*^^*)

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2023年3月17日 (金)

「織りなす旋律2 ルネサンス対位法の愉しみ」:ディープな下町で古楽その2

230317 演奏:桐畑奈央ほか
会場:日暮里サニーホールコンサートサロン
2022年12月28日

「2」と書いてあるけど、初めて行きました(^O^)/
このアンサンブルはリコーダー桐畑奈央とバロック・ハープ曾根田駿を中心にドゥルツィアン長谷川太郎、リコーダーとフルート中島恵美が参加ということのようである。

ルネサンス期からバロック初めまで、ディミニューションの技法を使った曲を演奏し、さらに懇切丁寧に解説してくれるという内容だった。
前半はオケゲム、デ・ローレ、アルカデルトなど、編曲が加えられたものやさらには即興でディミニューションによって演奏。さらにバロック期に入っていくと通奏低音と伴奏法の変化で、また新たな表現が生まれていく。
そんな当時の音楽が生き生きと蘇った姿を聞かせてくれた✨

やはりバロック・ハープがドンと中央にいるコンサートは珍しい。独奏でも独特な美しさを描き出すが、それが他の楽器と絡むとまた別の響きを放つようだ。
ラストのリコーダー2本+ドルツィアン+ハープで演奏されるカステッロのソナタはド迫力だった。小さな会場を揺るがしていた(^▽^;)

一つ驚いたのはチラシ、プログラム、チケットまで曾根田氏の手書き文字で書いたとのことだ。てっきり丸ゴシ系のフォントだと思っていたですよ。客席がビックリしてどよめいた。
そのプログラムより引用。

例えば、「悲しい」という感情を扱ったときに、19世紀以降のように悲しいと「思いながら弾く」のではなくて、17世紀には悲しいと「思わせるように弾く」ことを目指す


さて、この前に行った板橋のマリーコンツェルトに続き、今回の会場も濃ゆい下町の中にあった(駅から至近距離なのはいいけど)。日暮里というともっぱら乗り換えだけで、駅から外に出たことはなかった。駅前は旅行ガイドには絶対に載りそうにない風情である。
会場そばでテレ○ラの看板が輝いていたのには驚いた。目撃したのは10年ぶりぐらいかな👀……ていうか、テ○クラってまだあったんかい(!o!)

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2023年3月12日 (日)

「ノベンバー」:詩人と死人の魂

230311 監督:ライナル・サルネット
出演:レア・レスト
ポーランド・オランダ・エストニア2017年

バルト三国の一つエストニア産映画。事前知識は全くなかったが、予告を見ると暗い!怖い!キモい!の極致(おまけにモノクロだ)だったので見に行ってみた。

時代は19世紀後半くらいか❓ 11月、貧しい村では死者が戻ってくる季節(日本のお盆みたいなものかな)がやってきて……これが実際に死んだ者が森からやってきて、飲み食いしたりサウナに入ったりするんである。
貧しさゆえいつもボロボロの服を着た村人たち(そこら辺の描写は容赦がない)は、使い魔を作って命令してご近所同士で互いに家畜や金品を盗んだりする。こいつがまたドローンみたいに空まで飛べる優れものなのだ。さらに隙あらば疫病の神が姿を変えては侵入し、悪魔が魂を取引する。

そんな中で主人公の少女が同じ村の若者に恋しているが、彼は領主である貴族の美しい娘に一目ぼれしちゃって気もそぞろ。さらに父親は借金のカタに知り合いのオヤジと結婚話を勝手に進めている。

そこら辺にあるものを合わせて作った使い魔の異形、出没する悪魔、疫病への訳分からない対抗法など、中世を引きずっているような暗い辺境のこれでもかっというオドロオドロしさに胸が高鳴っちゃう💖

しかし後半になるとなぜかロマンチックな純愛方向へと展開し、期待を裏切るのであった。
若者が折角作った使い魔は足の部品を付けなかったために動くことができず、そのために「●人」になっちゃった--ってこりゃロマンチックが過ぎるだろう。思わず拍子抜けした( ̄д ̄)
「愛」も禍々しいのを期待していたのに、冷酷モードには展開しないことが現代風というようだ。そこがちと不満である。

なお、主要な4人の役者以外は全て素人を集めたのだとか。シワシワのオジオバが多数登場する。
エストニアの時代背景については完全無知で色々と初めて知った。ドイツに支配され、隣国ラトビアを下に見ている👎などなど。
音楽の使い方は面白かった。口琴が出てきたかと思えばなぜかマルチェッロ(?)が流れたり。

ロマンチックな愛が好きな人、あるいは神は信じないが魂の存在を信じる人向け。

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2023年3月 5日 (日)

「カリッシミとシャルパンティエ」:ディープな下町で古楽その1

230305 演奏:ラ・ジュメル
会場:マリーコンツェルト
2022年12月16日

男声3人による宗教曲コンサート。このグループによる演奏会は既に5回目になるらしい。
この日はガンバとチェンバロが加わって、伊仏の二人の作曲家を同じ編成による声楽曲で比較しつつ聞くという趣向である。
カリッシミは40歳も年上だが、シャルパンティエがローマに留学した時の師匠とのことだ。

交互に二人の作品を歌う形で進行した。フランス語の「語るうた」を追求するというグループだけあって、宗教曲と言えど濃厚すぎる世界が広がったのだった。
会場はコンクリート打ち放しの壁に囲まれた極めて小さなスペースで、残響は少ないがそれだけ音がダイレクトに伝わって来て圧倒された。

このコンサートに行こうと思ったのは先月のレゼポペを聞いて、シャルパンティエの歌曲に興味を持ったから。もっとも当然ながらエール・ド・クールと宗教曲じゃかなり趣が違った(^^ゞ
あと、この会場がどんな所か一度行ってみたかったからでもある。板橋の時間が止まったような昔ながらの下町商店街、その路地裏みたいな場所にあったですよ🐾
路地の蕎麦屋の横で岡持ちのおにーちゃんがタバコ休憩してたりとか。

もちろんホール自体は新しくピカピカしているものだ。古楽器の独奏なんかにも向いていそうで聞いてみたい。

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