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2023年5月

2023年5月28日 (日)

「フェイブルマンズ」:夫婦は互いを選べても子どもは親を選べない--ナンチャッテ

230528 監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ガブリエル・ラベル、ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ
米国2022年

最初は「ロードショーじゃなくて後で見ればいいか」と思っていた。しかしツイッターの感想では『EEAAO』より好評が多かったので行くことにした次第。
宣伝などからの想像すると「子どもの頃から映画愛炸裂🌟バンザイ」みたいな印象だが、実際見てみるとかなり違っていた。むしろ映画の「罪と罰」ならぬ「罪と呪い」みたいな内容だった。どうとらえたらいいのか困る作品である。

そもそもスピルバーグの自伝的作品として喧伝されていて、大雑把に三つのパートに別れている。
(1)映画との出会い編:破壊シーンで映画に目覚める。
(2)予期せぬ応用編:映画によって知りたくなかった両親の秘密が暴き出される。
(3)実践編:映画で現実ではない幻想を作り上げる。
--というものだ。さらにおまけのように結末のシーン(J・フォード出現)が付いてくる。
既に指摘されているように「フェイブル」という名前自体がどうもアヤシイ。「寓話」一家である。果たして現実の「自伝」度はどれほどだろう。
両親にカメラを与えられ夢中になるまでは良かった。しかし家政婦ならぬ「カメラは見た!」、知りたくなかった家族のヒミツが浮上である。こりゃ呪いじゃ~👻

『EEAAO』同様、こちらも母親(対照的だけど)が問題だ。そもそもピアニストで芸術家肌、キレイな爪のために食器は洗わず、使い捨てにする。
こんな人が母だったら素敵で楽しい……というより付き合うのは大変だと思う。一方で、自分の母親(祖母)に邪魔されて思い通りの人生を送れなかったとか(--〆)

主人公は長男で母を熱愛しているわけだが、もし娘だったらどう感じるか。妹たちは側に存在しているが、感情や主張の描写は割り合いスルーされている。

母親役のミシェル・ウィリアムズはオスカー候補になったが、父のポール・ダノの演技も良かった。特に終盤で写真を眺める場面や、外見がほとんど変わらないのに微妙に段々とフケていく様子とか。
完全な理系脳、優しいけれど面白みがない、でも妻には惚れている男が浮かび上がってくる。

カメラの「呪い」のにより中断していた映画制作を、卒業旅行のドキュメンタリーを撮ることで再開する。ここが人によって解釈が分かれる箇所である。
完成した映画はとある人物を中心にして撮影編集されている。その理由を主人公がリーフェンシュタール風の身体美につい引きつけられてしまったという説あれば、仲良くしたいと(ヨイショして)作ったと単純に考えることもできる。

しかし、私は主人公の復讐説を取りたい。
過去にボーイスカウト時代に作った西部劇では友人の一人を保安官役にしてヒーローとしてカッコよく見せた。恐らく現実にはあまりパッとしない子だったのではないか。周囲は本人をよく知っているから微笑ましく見ていた。
今度はその手法を逆にして、本人の実像をねじ曲げて映画内のキャラクターの方を周囲に信じ込ませた。作られた表層的で単純なキャラクターを、である。そのようにして復讐を行なったのだろう。

第3段階ではこのように映画の恐ろしさが描かれている。
しかし次に後日譚のように巨匠との遭遇エピソードが描かれ、さらにその後の最後の最後に何やら変なシーンが出現するのだ。
これは……どう見ても「ナ~ンチャッテ💨」ではないか。全ての信憑性を揺るがし、それまでマジメに見ていたのがバカらしくなるラストである。

というように151分があっという間に過ぎていったが、見てて「面白い!」とも「好き」とも言えず、困ったもんだった。どうも近年のスピルバーグ見るといつもこういう感じなのだ。
それと、スピルバーグの映画って社会派だろうが特撮エンタメものだろうが、主役が誰であろうと結局は「男の子映画」なんだよなー。これもやはりそういう印象。

オスカー助演賞ノミネートされたジャド・ハーシュ、いくらなんでもあまりに出演時間短すぎよ(^_^メ)

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2023年5月19日 (金)

東京・春・音楽祭2023「憧憬の地 ブルターニュ」展記念コンサート2:異郷の音で踊り、指輪に目がくらむ

230518b 演奏:大竹奏ほか
会場:国立西洋美術館講堂
2023年4月14日

フィドルの大沢奏をリーダーとするミュージアム・コンサートである。演奏されたのはブルターニュのダンス音楽や伝統歌だ。器楽のメンバーは他にハーディガーディ&バグパイプ近藤治夫、チェロ高群輝夫である。

最初に展覧会の方の内容や、そもそも「ブルターニュといってもそりゃどこよ❗❓」みたいな人のために、美術館の研究員の人からスライドを使って事前解説があった。

コンサートの方はダンス曲では民族衣装を着けた愛好家のグループ(多分)によるダンスの実演付きだった。数人で横に手握ったり腕を組んだりして繋がってステップを踏みつつ横移動していくような形である。素朴でのんびりした印象のダンスではあるが、当地の祭りで住民みんな張り切って踊りまくるとすごい勢いになるのかもしれない。
踊ったのは女性4人男性1人で、男性は曲によってパーカッションを担当していた。

曲自体はケルト系で、ダンス曲だけでなく結婚式の定番とか国歌(ブルターニュの)も含まれていた。最近の演奏の傾向か、フィドルとチェロの組み合わせだとかなりスタイリッシュな音に聞こえる。しかし、そこに近藤治夫のバグパイプやハーディガーディが入ると俄かに「野蛮」な音になるのが面白かった。

230518a


終演後は公演チケットでそのまま美術展に入れる。同じハルサイのミュージアム・コンサートでも都美術館だとそのような恩恵はない。さすが国立であるよ(*^^)v
正直言って19世紀から20世紀初めの画家が中心で、顔ぶれ的にあまり興味がないところなのでざっと見した。

ブルターニュというのが当時の画家たちの間に流行っていて、素朴な土地柄の人々と美しい風景というのが彼らの好みに合ったようだ。留学していた日本の画家たちも題材にしている。ゴーガンの作品群が目玉のようで……むむむ苦手よ(^▽^;)
ルドンの小さな風景画が2枚だけあった。藤田嗣治の「十字架の見える風景」がちょっと陰鬱なトーンで目立っていた。
とはいえ、国内各地の美術館の所蔵品から「ブルターニュ」しばりでこれだけ集めるのは大変だったかも。担当者の方、ご苦労さんです✨
なお美術展の企画で一番楽なのは「〇×美術館展」というヤツだそうだ。改装などの時期に合わせて丸ごと借りればいいかららしい。

230518c その後はサッと帰ろうかと思ったが、常設展の中に「指輪コレクション」展があったのでつい寄ってしまった。もちろん企画展のチケットがあれば無料で入れる。
様々な種類の指輪が美しく展示されている。数が多くて素晴らしい、ウットリしたと言いたいところだが、小さい上に薄暗い中でポイント照明を当てているので細かいところはよく見えない。それでも見ごたえはあった。
細かく石を見たければ図録を買えということなのは仕方ないか。見終わって外へ出るともはや夕方であった。

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2023年5月13日 (土)

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」:長いタイトルには巻かれろ

230512 監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー
米国2022年

長い邦題を略して「EEAAO」。「エブエブ」とは絶対に言わんぞ。もっとも、実際見てみるとこの長~いカタカナ題名にするしかないと分かったけどな。

かつて『スター・ウォーズ』えぴ4が日本公開されるまで一年間待たされたことを未だに根に持って恨んでいる💀 が、さすがにこの情報時代に同じようなことは起こるまいと思っていた。
なのに、また公開まで一年待たされる事態💢 よもやこんなことが起こるとは誰が想像するかってーの。なんなんだ(`´メ)

一年分の期待が堆積する中、実際見てみたらなんと予想を超える質量詰込みの内容だった。
マルチバースということだけでも色々な世界が登場してきて大変なのに、夫婦の危機、母娘の対立、老親介護、アジア系移民の悩みにLGBTの困難、さらに過去の映画パロディ頻出--大ネタ小ネタ詰め合わせのジョークてんこ盛りだ~。

タイトル長いのも伊達じゃないほどで、油断してると置いてけぼりになる。映像注視してるとセリフの字幕読むのがおろそかになり、セリフの意味に気を取られると映像の進行に追いつかない。どうしたらええんじゃい(~o~)
配信やDVDなら「10秒戻し」を何度も繰り返したくなるだろう。これでは監督(&脚本)の手腕に大いに疑問を抱きたくなる。もっとうまく作れる人は作れるんじゃないの?とか。

達者な俳優たちがとっかえひっかえ色んな役を演じるのは面白いが、SFネタの理解に集中して見ていたらいつの間にか母娘が和解していたので、あれれ(?_?)と焦ってしまった。どうも脳ミソの老化現象甚だしい人間には、この映画は理解すべきことか多過ぎて容量超過である。

テーマ的に一番問題なのは、夫たる男と夫婦ではない世界も存在するのに、どこまで行っても母と娘の関係だけは変わらないということ。岩になってもやっぱり親子だというのは「あり」なのだろうか。なんだかゾッとしてしまった。

思春期(とそれ以降)の娘と衝突して荒ぶる反発に対抗するには、他の世界にある自分のパワーと能力をかき集めなくてはならない。それほどにエネルギーが必要だ。
しかし娘の方から見れば、母親は母であるということだけで膨大な力があるのだから他の世界から補充なんかしないでくれ❌と言いたいだろう。
現実のこの事件なんかまさに母親が「あらゆること」について「至る所」に出現して娘の邪魔したわけだ。コワイ(>y<;)
そしてラストは……「モンスターを倒した」だもんな。怪物なのはどっちだ?

あと、変態的な行為を行なって積み重ねることによって別次元の力を得る、というのは「善行を行ない積み重ねることで宗教的階位を昇る」というのと同じではないだろうか。そういう意味ではかなり(新興)宗教っぽい設定だと思う。
「母娘決戦」の舞台が宗教原理主義に支配されている世界なのは、故なきことではないのかも。

字幕が分かりにくいのもいささか疲れる要因だった。「フランス訛りで失礼」というのがが誤訳らしいと複数の意見あり。また、祖父が階段で「彼女が行くのを止めさせるな」というセリフの字幕が出て来た時には、意味を5秒ぐらい考えこんでしまった。
こりゃ「彼女を邪魔させるな」だよね。

--と色々書いてきたが、この映画を面白がれるかどうかは結局のところ「指がソーセージ」だというような設定を受け入れられるかにかかっていると思う。
だって、指がソーセージ(それも魚肉ソーセージっぽい)だよっ( ̄д ̄)

ランディ・ニューマンが声の出演をしていたと後から知った。見ていた時には全く気付かなかった。彼は大昔に『サボテン・ブラザース』でサボテンの声🌵やったぐらいだから不思議ではないけど。
取りあえず、そのうちWOWOWあたりで放映されたらリモコンボタンを駆使しつつもう一度見直す予定。


アカデミー賞の主要部門(計7部門)は結局下馬評通り本作が獲得した。まさにこの年を代表する作品の顔といえよう😶(昨年は『コーダ』だった。なんだかマイノリティ枠を回しているような印象が……)
昨年授賞式の暴力沙汰の暗~い影を払拭するために、長年の不遇をかこったけれどそれを乗り越えて成功をつかんだという感動物語へと盛り上がっていったという印象である。
これはそのように意図したというより、誰もが無意識に望んでそうなったように思えた。もはや授賞式自体が一つの物語として提供されているのだろう。

 

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2023年5月 6日 (土)

「アメリカン・エピック」:歌えば歴史の音がする

230506 監督:バーナード・マクマーン
米国2016~2017年

1920年代後半に米国各地での民衆の音楽の録音が残されていた。それを今たどり直す全4回のドキュメンタリーである。
映画館のスケジュールの関係で私は3・4→1・2の順番で分割鑑賞した。さすがに1日に4作まとめて見るのは無理無理🆖

当時の最先端の音楽メディアはラジオ。その流行に対抗してレコード会社は新開発の録音機を運んで米国各地を回り演奏者を発掘し録音したのである。マイク一本のみの一発録りで、そこには多様な音楽の歴史が全て詰まっている。
いずれも演奏者たちの子孫や関係者が登場して、録音の中だけではない実在の人物としての息吹きを伝える。

「1」はアパラチアの山奥から現れた「カントリーの祖」(でいいのか?)カーター・ファミリー、黒人街から生まれたメンフィス・ジャグ・バンドを扱っている。
カーター・ファミリーは後年活躍したが、元々は夫婦と妻のいとこによって始まった。録音のオーディションに車で一日がかりで行ったという、まさにド田舎のヒルビリー出身と言える。

後者は金がないのでフィドル以外は手作り楽器を使う。パーカッションは洗濯板だ。ドラム缶とロープ❗でできた一本弦のベースには驚いた。
管楽器は大きなビンを代用し(だから「ジャグ」なのか)その口に吹き込む息の強さと唇の動きだけで演奏する。見てて思ったのだが、もしかして彼らならナチュラルトランペットも楽々演奏できるのでは(!o!)

「2」アトランタの教会の牧師、炭鉱の採掘人、綿花摘み労働者が登場する。音楽と生活の密接なかかわり、というより苦しい生活の中で音楽が唯一の彩りだったことをヒシと感じさせるエピソードが続く。

レコードが出たと言っても数回録音しただけでそのまま忘れ去られた者もいる。炭鉱夫の一人の息子は父親がレコードを出したことさえ全く知らなかったという。
しかし人は死んでも曲は残る。楽譜がフォークの歌集に収められ数十年後に復活したという話にはしみじみとしてしまった。

綿花畑で働いていたチャーリー・パトンは写真は一枚しか残っていないが、ハウリン・ウルフ、ロバート・ジョンソンなどそうそうたる面子の後輩たちにギターや歌を教えたことで名前が後世まで残っている。
最後に現れたブルースじいさん3人組(90歳超)には笑ってしまった(*^▽^*) ブルース歌うには畑仕事でロバを追い立てる大声が必要なそうな👄

「3」はハワイアンやケイジャン、メキシカンなど様々な民族音楽を紹介している。
先住民が国会議事堂前で「秘儀」を披露する映像には驚いた。あえて衆目にさらしたのは儀式を行う権利を保障する国会決議のためだという。
ハワイアンのパートではスティール・ギター誕生のエピソードも紹介。

また録音後、数十年間忘れ去られていたミシシッピ・ジョン・ハート「復活」のエピソードは感動--というより数奇な運命に驚くのみだ。

「4」は消失していた当時使われた録音機を修復・再現し、それを使って現在のミュージシャンたちに収録曲を再演してもらうというプロジェクトの記録である。
とはいっても、必ずしも同じ曲とは限らない。30年代の曲や伝統曲、さらにはオリジナルもあり、アレンジは現代的でエレキ楽器も使用している。しかしある種の古楽的アプローチであるともいえるだろう。

録音機はベルトに下げた重りが床に届く数分間だけ機械が回るという仕組みで驚いた。途中でベルトが切れてしまうというアクシデントが発生💥 プロデューサー役のJ・ホワイトが急きょベルトをミシンで縫ったのだが、その手際が良くて--普段から自分で洋裁やってるのかな(^^?と思ってしまった。

最年長(?)ウィリー・ネルソンからリアノン・ギデンズなど、さらにはエルトン・ジョン(&バーニー・トーピン)が登場。完全一発録りとはいえ、粗削りで活力ある遠い昔のサウンドが耳と心に染みてくるのであった。
もっともベックがゴスペルグループと録音する場面は音量のバランスが取れなくて四苦八苦していた。

本当は「4」を見るつもりはなかったのだが、「3」を見てしまうとやはり見ざるを得ない。同じことを感じた人がやはりいるようだった。朝の「1」からずっと見続けていたらしい中高年女性客がいて、ドリンク注文しながら「ここまで見たら止めるわけには行かなくて」とスタッフにぼやいていた。

音楽の膨大な広がりと繋がりを感じさせる見ごたえありのドキュメンタリーだった。米国音楽ファンはもちろんオーディオ・ファンにも鑑賞をオススメしたい。

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2023年5月 1日 (月)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2023年5月編

4年ぶりに開催のLFJではありますが、古楽関係が一切入っていないようなので全くの無縁状態。ビール🍺だけ飲みに行く人は相変わらずいそうです。

事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。

*7日(日)西洋館コンサート12 西洋館で聴くカンタータ(ダブルリーズ):横浜市イギリス館
*  〃  ヘンデル 復活(バッハ・コレギウム・ジャパン):東京オペラシティコンサートホール
*12日(金)チェンバロと旅するイタリア・バロック150年2 18世紀(平井み帆):ムジカーザ
*  〃   ハインリヒ・シュッツの音楽3 ​シュッツよ、君の名が 死者を死から解き放つ(サリクス・カンマーコア):台東区生涯学習センターミレニアムホール ♪16日浦安公演あり
*13日(土)バロック音楽の宴 ホルンと共に(ジョーバン・バロック・アンサンブル):アミュゼ柏クリスタルホール
*  〃   真実の物語(フォンス・フローリス):淀橋教会小原記念聖堂
*19日(金)イル・ポルタフォルトゥーナ 歪な真珠 情熱のマドリガーレとバロックオペラアリアの夜会(吉田美咲子ほか):マリーコンツェルト
*20日(土)~21日(日)チェンバロの日!2023 ウィリアム・バード没後400年記念:松本記念音楽迎賓館
*23日(火)薔薇が花ひらく 古いスペインの歌(柴山晴美&つのだたかし):杉並公会堂小ホール
*27日(土)バッハ マタイ受難曲(アントネッロ):川口総合文化センターリリア音楽ホール
*28日(日)横浜開港記念 古楽器の響きで味わうテレマン 食卓の音楽1(アンサンブル山手バロッコ):神奈川県民ホール小ホール
*31日(水)春は野や丘を飾り 名匠に彩られた旋律2(スティッラ・マリス):武蔵野スイングホール


NHK-BSP「クラシック倶楽部」は、30日(火)タリス・スコラーズ、31日(水)ジャルスキー「オルフェオの物語」やりますね。
NHK-FM「ベストオブクラシック」では31日(水)レ・ヴォワ・ユメーヌ。

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