「セールスマン」:天は自ら支払う者を助く
監督:アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズウェリン
米国1969年
60年代末の米国、雪のボストンから常夏のフロリダへ、高価な美麗聖書を売り歩く4人のセールスマンに密着するドキュメンタリー。
メイズルス兄弟というのはドキュメンタリー映画史では有名な監督らしい(『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』も担当)。自ら撮影も担当し、ナレーションや音楽なしの手法の開拓者だという。その代表作の一つがこれである。
各地でモーテルに泊まりながら車で移動するというハードな毎日を送るセールスマンたちに貼り付き、さらに一緒に家へ入り込んでセールストークや手練手管もバッチリと収録している。
当然、相手の住人の許可を得ているんだろうけどよく撮れたなあと感心してしまう。当時は機材もデカいだろうし。
お高い聖書にもかかわらず売りつける相手は決して豊かそうではない人々だ。
「欲しいんだけど、うーん、うーん」さんざん逡巡した挙句に一ドルも余裕がないと断るシングルマザー。セールスの押しの一手を見るより、なぜそんなに分厚い聖書を欲しがるかの心理に興味がわく。昔の日本での「百科事典」「文学全集」のようなステイタスを示す「家具」の代わりなのだろうか。
4人のうち最も辛辣で口の悪いベテランが「もうやってらんねー💢」とブチ切れてどうするのか--と突然の展開。この稼業はつらいよと言えばそれまでだが、夢も希望もない殺伐とした郊外の町に住む人々の生活と共にジワジワと迫ってくるものがある。
チラシには「神と会社のため」聖書を売るとあるが「金と会社のため」の間違いではないかな(^^;
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